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⑤退職後:クライアント持ち出しによる損害賠償~職員の独立を防ぐ就業規則の作り方~

  • 執筆者の写真: 大竹 邦明
    大竹 邦明
  • 5月30日
  • 読了時間: 7分
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税理士事務所 所長向けに「職員の独立を防ぐ就業規則の作り方~5つのポイント~」座談会を開催しました。(2022年10月開催)

本記事では5つ目「退職後:クライアント持ち出しによる損害賠償等」について抜粋して記事にまとめました。

講師      :社会保険労務士法人ベスト・パートナーズ 代表社員 竹谷 保宣

ファシリテーター:株式会社KACHIEL 大竹 邦明


大竹:

では、最後のポイント5つ目、「退職後」についてお話を進めていきます。


クライアントの持ち出しによる損害賠償などがテーマですが、ここが今回のセミナーで最も重要なポイントですね。


竹谷:

そうですね。実際に最近もニュースになっていますが、かっぱ寿司の社長が逮捕されたケースがあります。


この事件では、転職前に在籍していた「はま寿司」から仕入れ情報を不正に持ち出した疑いがあり、不正競争防止法違反で逮捕されました。この不正競争防止法には両罰規定があり、行為者(個人)だけでなく法人も処罰の対象になります。


今回も、かっぱ寿司の社長が逮捕されただけでなく、かっぱ寿司の法人も書類送検されました。


このように、事業に有用な情報であれば、技術情報だけでなく、仕入れ情報や営業情報なども刑事罰の対象になるということです。


大竹:

なるほど。税理士業界でも同様のリスクがあるのでしょうか?


竹谷:

はい。実際に「○○(※)税理士事務所事件」というケースがあります。

※本記事では事務所名を非公開とさせて頂きます。


この事件では、税理士事務所の代表とアルバイトの2人が逮捕されました。


前職の税理士法人から、

- 得意先の財務情報

- 給与情報

などを外付けハードディスクにコピーして持ち出したのが発覚したためです。


このようなケースでは、持ち出された情報が秘密管理されていたかどうかがポイントになります。


具体的には、以下の3つの要件を満たすと罪に問えます。

1. 秘密として管理されている

2. 事業に有用である

3. 公然とは知られていない


この3つを満たせば、持ち出しが犯罪として立件される可能性が高まります。


大竹:

なるほど。税理士業界においても、こうしたケースがあるんですね。


竹谷:

はい。ただ、退職者の頭の中にある情報までは取り締まることができないのが実情です。


しかし、

- 名刺の回収

- 顧客情報の管理


といった対応を徹底すれば、一定のリスクを防ぐことが可能です。



大竹:

クライアントを持ち出された場合、退職金の減額が可能でしょうか?


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竹谷:

はい。退職金の減額規定を設けている事務所はほとんどないのですが、これを規定に加えることで対応が可能になります。


大竹:

退職金制度がない事務所もあると思いますが、その場合の対応策はありますか?


竹谷:

はい。その場合は、賞与の減額を活用するのも一つの方法です。


賞与は、

- 過去の業績

- 本人の成績

- 将来の貢献


を考慮して査定されます。


したがって、将来分の貢献が期待できない場合は賞与を減額するという形で対応することができます。



大竹:

「在職中の転職・起業活動が発覚すれば、退職理由を変更できる」という話がありましたが、具体的にはどういうことですか?


竹谷:

退職には2種類あります。

1. 退職願 → 退職日や理由を合意の上で決める

2. 退職届 → 退職日や理由を変更できない


退職願を出した場合、14日以内であれば退職理由を「解雇」に変更することが可能です。


例えば、

- 在職中にクライアントを持ち出そうとした

- 同業他社に転職するための活動をしていた


といった事実が発覚すれば、

- 通常の自己都合退職から懲戒解雇へ変更

- 退職金の減額や支給なしにできる


といった対応が可能になります。


大竹:

解雇に変更するメリットは何でしょうか?


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竹谷:

1. 退職金の減額・支給なしが可能になる

2. 他の職員への見せしめ効果がある

3. 懲戒解雇により、転職活動に影響を与えられる

4. クライアントの信頼回復につながる


例えば、クライアントが「なぜあの担当者は辞めたの?」と聞いてきた際に、「不正行為があったため懲戒解雇しました」と説明できれば、クライアントがその辞めた職員に付いていく可能性を減らすことができます。


大竹:

なるほど。懲戒解雇にすることで、他の職員への示しにもなりますし、クライアントを守るための施策にもなるわけですね。


竹谷:

はい。特に営業会社などでは、こうした規定を設けることでクライアントの流出を防ぐ効果が期待できます。


大竹:

ありがとうございました。


大竹:では、ここまでで、5つのポイントについて、今日の内容をすべてお話しさせていただきましたので、最後にまとめに入っていきたいと思います。


今日の内容についてのご質問や、ご自身の事務所でのケースについての疑問があれば、今のうちにチャットから投稿いただければと思います。よろしくお願いします。


それでは、最後にまとめというか総括をお願いできますでしょうか? 5つの場面に対応できる就業規則を作ることについて、改めてお話しいただければと思います。


竹谷:今回の5つのポイントとして挙げたのは、


1. 採用面接時

2. 入社時

3. 在職中

4. 退職時

5. 退職後


という流れになりました。


通常、就業規則というのは「入社から退職まで」をカバーするものと考えられがちですが、私たちが提案しているのは、


- 面接時に提示する書類の整備

- 退職後の対応


についても、就業規則に明記することが可能であり、重要であるということです。


ポイントとしては、


- 誓約書は入社時と退職時の2回取得する

- 就業規則に誓約書の提出義務を明記する

- その他の書類として、入社時には確認書を取得する

- 退職時には機密情報の管理について明記した書類を取得する


といった点が挙げられます。


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特に、退職時において、

「本人がお客様のために作成した書類であっても、事務所の資産であるため、勝手に持ち出してはならない」

という点を明確にすることが重要です。


この点を踏まえ、営業秘密の保護、個人情報の管理、税理士法の問題などを考慮し、制度的・規則的に制限をかけることが求められます。


最終的には、法律や規則だけで縛るのではなく、


- 独立リスクの抑制

- 魅力的な職場環境の構築


といった観点も重要になってきます。そのため、制度を活用するだけでなく、組織の魅力向上にも取り組む必要があります。


大竹:ありがとうございます。それでは、追加でご質問いただきましたので、ご紹介いたします。


質問:「事業主にとって、解雇歴が雇用助成金の受給に不利になりますか? また、本人の責任による通常解雇は、懲戒解雇とは異なる扱いになりますか?」


竹谷:本人の責任による解雇には、懲戒解雇と通常解雇の両方が含まれます。


助成金の関係で言えば、本人の責任による解雇であれば、助成金のカットにはならないケースが多いです。ただし、


- 解雇の正当性を示すために、就業規則に違反していることを明確にする

- ハローワークや助成金センターへ適切な書類を提出する


といった対応が求められます。


大竹:なるほど、ありがとうございます。では、他に追加のご質問がある方はいらっしゃいますか?


竹谷:もう1点、補足としてお伝えしたいことがあります。


営業秘密の持ち出しについてですが、営業秘密は「競争防止法」などの法的要件に関わります。各事務所で「営業秘密」の定義を明確にし、それを規則に盛り込むことが重要です。


営業秘密かどうかが争点となるケースもありますので、


- 就業規則に明記する

- 誓約書にも記載する


ことで、事前に対応策を講じておくのが望ましいでしょう。


大竹:ありがとうございます。それでは、最後にもう一つご質問をいただきましたので、そちらに回答いただきます。


質問:「身元保証人を設定する場合、従業員が顧客を略奪した際に保証人に請求することは可能でしょうか?」


竹谷:悪質な場合には、身元保証人に請求することは可能です。しかし、


- 「身元保証に関する法律」により、身元保証の有効期限は最長5年

- 2020年4月の民法改正により、損害額の上限を明示しない保証契約は無効


といった制約があります。そのため、


- 身元保証契約の期間を適切に設定する

- 上限額を明記する


といった点に注意し、適切な管理を行うことが重要です。


大竹:なるほど、ありがとうございます。


それでは、本日はこのあたりで終了とさせていただきます。


また次回のセミナーでお会いできればと思います。本日はありがとうございました!



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