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税理士法人化の手続きの具体的内容とは?

  • 執筆者の写真: 大竹 邦明
    大竹 邦明
  • 8月5日
  • 読了時間: 7分

 税理士事務所を法人化し、「税理士法人」として事業を継続する動きが、近年ますます増えています。事務所の成長や信用力の向上、事業承継の準備といった観点から、法人化は極めて有効な選択肢ですが、一方で「個人事務所の廃業」と「法人の新設」という二重の手続きが伴うため、流れをきちんと理解しておかないと、思わぬトラブルを招くことになります。

 この記事では、税理士法人設立までの全体像と、実務で特に注意すべきポイントを解説します。初めての法人化で不安を感じている所長の方にも、読み進めることで手続きの全体像が明確になるよう構成しています。


税理士法人化 定款


1. 定款の作成と設立基本事項の決定


 税理士法人の設立にあたって最初に行うのが、「定款(ていかん)」の作成です。定款は、税理士法人の“設計図”とも言えるもので、目的や名称、所在地、社員構成、出資額、業務執行の方法などを定めます。

 ここで特に意識すべきなのが、「将来の変化を見据えた記載内容」にすることです。たとえば、目的の欄に「税務申告代理業務」とだけ書いてしまうと、将来コンサルティングや事業承継支援といった周辺業務を法人として請け負いたいと考えたときに、定款変更が必要になってしまいます。

 また、社員の加入・脱退、持分の譲渡に関するルールや、代表社員の選任・解任方法も、事業承継時にトラブルになりやすいポイントです。自分が代表でいる間だけを考えるのではなく、「数年後に第三者が加わる可能性」「後継者が社員として加わる場面」まで想定した定款を作成しておくことが重要です。



2. 公証人による定款認証


 定款が完成したら、公証役場で定款の「認証」を受けます。定款の内容に問題がなければ、公証人によって正式に認証され、設立登記の手続きに進むことができます。

 定款の原本は公証役場が保管しますが、設立登記、税理士会への提出、金融機関での口座開設など、さまざまな場面で「定款の写し(謄本)」が必要になります。後から再発行すると手間と費用がかかるため、最初の段階で3~4部ほど用意しておくと安心です。



3. 登記申請と法人設立の完了


 次に行うのが「設立登記」です。主たる事務所の所在地を管轄する法務局に対し、必要書類一式を提出します。提出から登記完了までには通常1週間から2週間程度かかります

税理士法人の設立登記は、株式会社の設立と比べるとシンプルです。たとえば、資本金の払込証明書は不要ですし、取締役会もありません。ただし、社員(=出資者)の資格証明書や印鑑証明書が必要になります。

 また、この登記日が「税理士法人の成立日=法人の事業開始日」となり、同時に「個人事業としての税理士業務を廃業する日」ともなるため、手続きのスケジュール調整は非常に重要です。登記日と廃業日がずれると、税務上の取り扱いや届出で不整合が生じ、後の申告で混乱する可能性があるため、注意しましょう。



4. 税理士会・日税連への届出


 設立登記が完了したら、次は税理士会への届出です。税理士法人は、日税連(日本税理士会連合会)への登録が必要となっており、管轄の税理士会を通じて所定の書類を提出する必要があります。

 この届出を済ませなければ、税理士法人の名称を名刺や請求書などに使用することができません。また、税務署へも法人設立届出書、青色申告の承認申請書などの提出が求められます。これらの手続きは、設立登記と並行して準備を進めておくことで、法人化初日の混乱を防ぐことができます。



5. 廃業届の提出と“個人から法人への切替”


 税理士法人の設立登記が完了すると、個人としての税理士業務は終了することになります。これに合わせて、税務署に「個人事業の廃業届出書」を提出する必要があります。

 ここで注意したいのは、「税理士業務を廃業する」というだけであり、他の個人事業(例:不動産賃貸業など)を継続している場合は、その事業については廃業とはなりません。税務署への届出書には、廃業する事業の内容を正確に記載することが求められます。

 また、廃業日と法人設立日をできる限り同日に揃えることで、売上・費用の計上期間が混乱せず、申告作業もスムーズになります。廃業届の提出が遅れたり、法人設立日とズレが生じたりすると、確定申告・消費税・源泉所得税の処理においてトラブルが生じることがあるため、慎重な対応が必要です。

 なお、個人事業の青色申告特別控除の適用、簡易課税制度の選択、消費税課税事業者届出なども、事業廃止に伴い変更が生じることがあるため、各種届出の整合性も合わせて確認しましょう。



6. 資産・負債の引継ぎと開始貸借対照表の作成


 個人の税理士事務所で使用していた資産(机やパソコン、ソフトウェア等)や負債(借入金、未払費用など)は、税理士法人に適切な方法で引き継ぐ必要があります。

 この際、資産は「時価」によって評価され、法人が買い取る形、あるいは出資として拠出される形が一般的です。形式にかかわらず、引継対象の明細を作成し、譲渡価格を明記した契約書や覚書を用意しておくことが望ましいです。これにより、将来の税務調査や会計監査の際に説明責任を果たすことができます。

 引き継いだ資産・負債に基づき、税理士法人の「開始貸借対照表」を作成します。これは、法人化直後の財務状況を示す重要な資料であり、銀行との取引や各種申請の際に求められることがあります。個人から法人へと経理体制が切り替わる瞬間でもあるため、ここで帳簿の整合性をしっかり確認しておきましょう。



7. 従業員の雇用関係と保険の切替


 税理士法人を設立する場合、個人事業時代から在籍している職員がいる場合には、雇用契約を「個人→法人」へ切り替える必要があります。これは単に契約書の名義変更だけでなく、社会保険・労働保険の適用事業所を法人名義で新たに届出ることも含まれます。

 法人への切替日と登記完了日を揃えることが理想ですが、現実的には多少のタイムラグが生じることもあるため、事前に顧問社労士等と調整しておくとスムーズです。

 さらに、税理士業務においては「税理士職業賠償責任保険」への加入も重要です。個人として加入していた保険は、法人化後にそのまま継続できないケースがあるため、法人用の契約に切替える手続きも忘れず行いましょう。設立直後に事故やトラブルが発生した場合、保険の空白期間があると重大なリスクを抱えることになります。



8. 社員の持分と内部統治の設計


 税理士法人は、合同会社のような「持分会社」の一種であり、社員=出資者です。したがって、社員の加入や退社、出資比率の変更は、経営に直接的な影響を及ぼします。

 初期段階では、出資額や利益配分を簡便に決めがちですが、将来的な事業承継や第三者社員の加入を見据えるなら、最初から内部統治のルールを定款または別紙で整備しておくことが必要です。

具体的には、以下のようなルールを検討しておくとよいでしょう。



これらは将来トラブルの種になりやすいため、設立当初から意識的にルール化し、社員間で合意を形成しておくことが、法人の安定経営に不可欠です。



9. 決算期と税務上の留意点


 最後に、法人としての「決算期」をどう設定するかも重要な論点です。個人の税理士業務は12月末決算ですが、法人では任意に決算月を選ぶことができます。

 一般的には、廃業日と法人設立日が近い場合、最初の決算期をやや短めに設定して個人・法人の申告時期を揃えることで、実務負担を減らすことができます。ただし、短期決算は一時的に収益や費用が偏る可能性があるため、銀行との取引がある場合には、決算説明資料を丁寧に用意しておくと安心です。



 税理士法人の設立は、単なる手続きの積み重ねではありません。個人事務所としての「廃業」と、新しい法人の「創業」とを、法的・実務的に矛盾なく接続させるプロセスそのものです。定款の内容、登記と届出のタイミング、資産の引継ぎ方法、内部統治の設計――これらすべてが、法人としての安定経営や事業承継のスムーズさに直結します。

 「税理士法人」として信頼され、持続的に発展していくためには、法人化の初動でどれだけ丁寧に準備できるかが鍵です。必要な工程を確実に踏み、周囲との連携を図りながら、計画的な法人化を進めていきましょう。



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