top of page

税理士法人化のメリットとリスクから考える持分の考え方と承継設計

執筆者の写真: 小杉 啓太
小杉 啓太
4月24日
読了時間: 6分

更新日:4月24日


 個人で事務所を運営されている開業税理士の方の中には、税理士法人化を一度は検討されたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。税理士法人化は採用力の強化や組織としての成長、さらには承継対策における一つの選択肢として、位置づけられています。


 一方で、税理士法人化は単なる「器づくり」ではありません。組織としての運営、税理士同士の関係性、そして将来の承継までを含めた設計が求められます。特に近年は、税理士の高齢化や後継者不足が顕在化しており、「どのように引き継ぐか」という視点なしに税理士法人化を進めることは、大きなリスクとなり得ます。


 本記事では、税理士法人化のメリットを整理するとともに、見落とされがちな持分と出口戦略の問題、さらに承継を見据えた運営設計について、実務的な観点から解説します。



 税理士法人化のメリットとしてまず挙げられるのが、採用面とブランディングの強化です。個人の税理士事務所と比べ、税理士法人は組織としての安定性や継続性が評価されやすく、求職者に対して安心感を与えます。特に若手の税理士や科目合格者にとっては、「誰から学べるか」「どのように成長できるか」が重要であり、複数の税理士が在籍する環境は大きな魅力になります。


 また、税理士法人では、複数の税理士や職員で組織的に運営することが前提となるため、個人事務所と比べて教育体制や評価制度を整備する必要性が高く、その分、仕組みとして構築されやすいという特徴があります。これにより、成長や評価の基準が明確になり、職員の定着につながりやすくなります。結果として、組織としての安定性が高まります。


 さらに、複数の税理士による体制はリスク分散にもつながります。特定の税理士に業務や顧問先が集中している状態では、その税理士に万が一のことがあった場合、事務所全体に大きな影響が及びます。税理士法人であれば、業務の引継ぎや顧問先対応を柔軟に行うことができ、サービスの継続性を担保しやすくなります。


 加えて、拠点展開や業務の専門分化も進めやすくなります。例えば、相続、医療、国際税務などの分野ごとに担当税理士を配置することで、付加価値の高いサービス提供が可能になります。このような体制は、将来的な承継においても強みとなります。



 税理士法人化を検討する際に、意外と見落とされがちなのが「持分」とその出口の問題です。税理士法人の持分を考えるうえでは、株式会社とは異なる制度である点を押さえておく必要があります。税理士法人では出資は株式ではなく「持分」として扱われ、自己株式のように法人側で一時的に保有する仕組みもありません。また、持分の移動にあたっては税務上の論点も必ず生じます。


 そのため、税務上の評価は純資産価額をベースに考えるのが基本です。一方で、内部留保が積み上がっている税理士法人では、この評価額が承継時の大きな負担となるケースも少なくありません。


 例えば、長年にわたり内部留保が蓄積されている税理士法人では、純資産額が大きくなり、持分評価額も高額になります。この状態で承継を行おうとすると、後継者がその持分を引き受けるために多額の資金を用意しなければならなくなります。


 さらに、万が一の際には、その持分は相続財産として家族に引き継がれることになります。家族がその価値をどのように受け止めるのか、また税理士法人側がどのように対応するのかについても、事前に整理しておかなければ混乱を招く可能性があります。


 このように、持分や内部留保は一見すると資産ですが、出口戦略がなければ実務上は扱いの難しい存在となります。税理士法人化を進める際には、「作ること」だけでなく、「どう引き継ぐか」「どう退出するか」といった出口まで含めて設計することが重要です。



 税理士法人は本来、組織としての安定性を高める仕組みですが、現実には解散に至るケースも少なくありません。その多くは、設立時の設計不足に起因しています。


 代表的な要因の一つが、価値観や経営方針の違いです。顧問先への対応、報酬水準、業務の優先順位など、日常業務の中での判断基準が異なると、小さなズレが積み重なり、やがて大きな対立に発展します。


 また、利益配分や持分に対する認識の違いも深刻です。「誰がどれだけ貢献したのか」「内部留保をどう考えるのか」といった問題は、数値だけでは整理しきれない側面があり、不満が蓄積しやすい領域です。


 さらに、意思決定の遅れやルール不在も解散の要因となります。特に複数の税理士が対等な立場で参加している場合、最終判断ができない状態に陥ることがあります。


 これらはすべて、承継を含めた長期的な視点での設計がなされていないことに起因しています。税理士法人は「人の集合体」である以上、制度だけではなく、日々の運営を前提としたルール設計が極めて重要です。



 税理士法人を持続的に運営するためには、日常の運営ルールと意思決定の仕組みを明確にしておく必要があります。これは単なる効率化の問題ではなく、承継の実現性に直結します。


 例えば、役割分担を明確にし、営業、業務、管理などの責任範囲を整理することで、組織としての機能が安定します。また、評価制度や報酬体系を整備することで、不公平感を抑えることができます。


 承継の観点では、後継者候補となる税理士にどのように関与させていくかが重要です。いきなり経営を引き継がせるのではなく、段階的に意思決定に参加させることで、スムーズな承継が可能になります。


 意思決定方法についても同様です。全員一致、多数決、代表決裁など、どの方式を採用するにしても、そのルールを事前に明確にし、全員で共有しておくことが重要です。将来的に誰が意思決定を担うのか、どのように権限を移譲していくのか。この設計が曖昧なままでは、承継はうまくいきません。



 税理士法人化やM&Aを検討する際に最も重要なのは、「出口を前提に考えること」です。退職や急逝といった個人の出口を想定せずに税理士法人を設立すると、その負担は将来に先送りされることになります。


 出口戦略を欠いた状態では、自身だけでなく、家族、職員、顧問先にも影響が及びます。特に持分の処理が未整理のままでは、承継の場面で大きな混乱が生じます。


 そのため、税理士法人化の段階から、承継の具体像を描くことが必要です。誰に承継するのか、どのタイミングで行うのか、持分をどのように移転するのか、その条件をどう設計するのか。これらをあらかじめ整理しておくことで、将来の選択肢が大きく広がります。


 さらに重要なのは、時間軸を意識することです。承継は一朝一夕に実現するものではなく、数年単位で準備を進める必要があります。早い段階から後継者候補を巻き込み、徐々に責任と権限を移していくことが、現実的な承継につながります。


 税理士法人化は、あくまで経営の選択肢の一つであり、承継を含めた将来設計の中で位置づけるべきものです。その前提に立つことで、初めて制度のメリットが活きてきます。



 税理士法人化は、税理士事務所の成長と承継の両面において有効な手段です。しかし、その効果を最大化するためには、メリットだけでなく、持分や出口戦略といった見えにくい論点にも目を向ける必要があります。


 承継を成功させるためには、制度理解にとどまらず、運営設計や関係者間の合意形成まで踏み込んだ準備が不可欠です。税理士法人という枠組みをどのように活用するかは、最初の設計にかかっています。


 これから税理士法人化を検討される税理士の方は、「どう始めるか」と同時に「どう終えるか」を考えることで、より実効性の高い承継を実現していただければと思います。



事業継続のためのM&A支援

コメント


ロゴWhite.png

​税理士M&A

成功ガイド

powered by KACHIEL

私たちについて

KACHIELは税理士向け実務セミナー事業を15年以上運営し、全国に2.4万人以上の税理士ネットワークをもつ会社です。弊社をご利用いただく税理士事務所の所長・税理士法人の代表であるお客様などから過去通算100件以上、事務所承継や組織化のご相談をいただいております。

単なる「売却」に限らず、譲渡側の所長の現役続行を前提とした「支店成り」「税理士法人化」「税理士法人合併」などのご支援を全国で多く行っています。

​これまで弊社ご支援先ではM&Aを原因とした職員様の離脱が過去通算0人です。

​税理士M&A成功ガイドで公開する知識・経験談をご参考にしていただけますと幸いです。

© 2026 KACHIEL Inc. All rights reserved.

株式会社KACHIEL

代表取締役 久保 憂希也

〒105-0022 東京都港区海岸1-4-22 SNビル4階

​

中小企業庁登録M&A支援機関
設立  2009年2月

資本金 9億3,850万円 (うち資本剰余金 8億3,850万円)

MAIL mainfo@kachiel.jp 

TEL   03-5422-6166(平日 9:00~18:00)

bottom of page