税理士法人の社員構成と出資設計~制度設計によるリスクヘッジ~
- 小杉 啓太

- 9月23日
- 読了時間: 6分
更新日:9月24日
税理士法人の制度設計において、社員構成と出資比率は経営の安定性を左右する重要な要素です。税理士法人では、社員数の確保や持分構成が解散リスクや承継問題に直結するため、慎重な検討が求められます。本記事では、税理士法人における出資比率や社員構成の在り方について取り上げ、少数社員制のメリットとリスク、“実質1人社員法人”の抱える問題点、親族・従業員を社員に迎える際の留意点、さらに急逝や離脱といった不測の事態に備える方法まで、制度設計の視点から解説します。
税理士法人は「合名会社」に準じる士業法人として、すべての社員が無限連帯責任を負うという根本的な特徴を持っています。そのため、社員構成や出資比率の設計は法人の安定性と継続性に直結します。少数社員制を採用することで、経営判断がスピーディーになり、意思決定の効率性が向上するというメリットは大きいです。特に代表社員が実務と経営を一手に担う体制では、複雑な調整を避け、事務所運営を機動的に進められます。
しかし一方で、少数社員制には大きなリスクも存在します。社員の一人が急に退職した場合、税理士法人は最低社員数(2人以上)を維持できなくなり、6か月以内に補充できなければ解散を余儀なくされます。また、社員同士の意見対立が起こった際には、総社員の同意が必要とされる持分譲渡や退社処理が難航する恐れがあります。特に出資比率が偏っていると、経営権をどこに集中させるか、利益分配をどうするかなどでトラブルになることも考えられます。
よって、出資比率は単なる資金負担のバランスだけでなく、将来の退社時の払戻額や税務上の評価にも影響するため慎重に設定する必要があります。実務上は、代表社員に多めの持分を配分しつつ、他社員には最低限の出資額でも参加させるなど、法人運営の主導権と持分設計の安定性を両立させる工夫が望まれます。
税理士法人は法律上、設立・存続のために最低2人の社員が必要です。そのため「ほぼ1人で経営している法人」や「実質的に代表社員だけで成り立っている法人」には特有のリスクが存在します。最大のリスクは、社員が1人だけになった場合の自動解散です。たとえば、社員が急逝・退職した場合、6か月間に新しい社員を補充できなければ解散となり、顧客との契約関係や法人の信用は大きな打撃を受けます。
また、社員が実質1人に近い法人では、無限連帯責任の分担に限界があり、万が一の賠償リスクを全て代表社員が背負うことにもなりかねません。さらに、稼働する実務を担当する税理士が少ないと、競業避止義務の制約下で他法人との兼業や補完関係を築きにくいため、業務範囲の制限も生じます。
これを回避するためには、あらかじめ信頼できる共同経営者や後継候補を社員に加えておくことが重要です。親族や古参従業員を小額出資で社員に迎える方法も有効です。また、内部規約や覚書を整備し、無限責任の負担割合や退出条件を明確化しておくことで、予期せぬ事態に備えられます。表面的には「1人型」の法人であっても、非常時に備えたセーフティネットを持つことが真のリスクヘッジとなります。
税理士法人を運営するうえで、親族や長年の従業員を社員に迎えるべきかどうかは悩ましいテーマです。社員となれば無限連帯責任を負うことになるため、形式的な出資であってもその負担は重く、後のトラブルにつながりかねません。特に持分比率の設計を誤ると、退社時の払戻請求権や税務上の贈与認定という不測のリスクが生じることがあります。
一方で、親族や従業員を社員とすることは、法人の継続性にとって大きなメリットがあります。後継者候補を社員として早期に参画させることで、将来的な事業承継の円滑化が期待でき、法人の安定性を高める効果もあります。実際に、代表社員は100万円、従業員や親族社員は1円といった出資設計で、形式的に社員数を確保するケースも多く見られます。
ただし、このような形式的な社員参画であっても、彼らが無限責任を負うリスクは変わりません。そのため、内部覚書で責任分担を調整したり、代表社員が実質的に負担を引き受ける旨を取り決めることが不可欠です。持分設計は単なる数字の問題ではなく、法人の存続戦略や事業承継計画と一体で検討すべき重要課題といえます。
税理士法人にとって、社員の急逝や突然の退社は事業継続に直結するリスクです。社員が1人だけとなった場合、法律上6か月以内に新しい社員を迎え入れなければ解散となります。これは社員の死亡時にも発生するため、法人が不意の危機に陥ることは珍しくありません。
リスクヘッジの一手は、社員構成を早期に整えることです。例えば、後継者となる税理士や親族、信頼できるシニアスタッフを少額出資で社員に迎え入れておくことで、「社員ゼロ」の状態を避けられます。また、社員が死亡した場合には持分払戻請求権が発生し、出資額を超える部分は配当所得とされるため、税務的な整理も必要です。これに備えて定款上、死亡退職金の規定や評価方法を明確化しておくとスムーズです。
さらに、覚書によって無限責任の実質的負担を代表社員が引き受けると定めておけば、親族や従業員を安心して社員に迎えられます。M&Aや合併といった出口戦略を含め、社員構成は「法人の寿命」を左右する制度設計です。目先の設立要件を満たすだけでなく、将来の急変事態に備えた社員の配置こそが、安定した法人経営のカギとなります。
税理士法人の制度設計において最大の焦点となるのは、出資と社員構成の在り方です。なぜなら、税理士法人は「合名会社」に準じる特別法人であり、すべての社員が無限連帯責任を負うという特質を持っているからです。この特徴は株式会社等の有限責任制度とは決定的に異なり、社員に迎える人物の選定や出資比率の設定が、法人の存続と経営の安定に直結します。少数社員制で意思決定を効率化することには一定のメリットがありますが、急逝や退社によって社員数が1人になると、6か月以内に補充できなければ自動的に解散するという法的リスクを抱えています。その意味で、組織としての「脆弱性」を抱えやすい点が大きな課題です。
一方で、親族や従業員を社員として迎え入れることは、承継や将来の安定経営に資する方法ではあるものの、形式的な小口出資であっても無限責任を負う点には留意が必要です。そのため、内部の覚書などで責任の実質的負担を代表社員が負うと明記するなど、実務上の補完策が不可欠といえるでしょう。また、退社時の持分払戻請求権は原則として純資産評価額を基準としますが、税務上はみなし贈与やみなし配当といった問題を引き起こしやすく、持分設計や退職金制度と密接に絡んでくるのも現実的な論点です。
さらに、解散や清算、M&Aといった「出口局面」を見据えることも忘れてはなりません。代表社員の死亡も直ちに退社事由になり、持分払戻請求権が相続税の課税対象となるなど、相続・承継上の課題も大きい分野です。定款に死亡退職金の規定を設けておく、あるいは承継候補を早めに社員に加えるなど、平時からの準備こそが法人存続の要と言えるでしょう。
要するに、税理士法人を安定的に経営するためには、設立時の出資比率や社員構成を「形式的要件の充足」としてだけ捉えるのではなく、事業承継・急変リスク・税務問題・社員間調整といった複合的な視点で設計することが不可欠です。定款や内部規約の工夫によってリスクの相当部分を軽減することは可能であり、制度設計次第で法人をより強靭にできることを意識すべきでしょう。





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