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税理士法人の合併:制度の概要と基本的な手続きの流れ

  • 執筆者の写真: 大竹 邦明
    大竹 邦明
  • 8月8日
  • 読了時間: 5分

 近年、税理士法人の経営基盤の安定や規模拡大、人材確保の一手段として「合併」が選択肢となる場面が増えています。特に、後継者問題や支店戦略といった経営上の課題に対応するため、複数の税理士法人が一体化する動きが活発化しています。

 しかし、税理士法人の合併は、一般の企業と異なり、税理士法や日本税理士会連合会(日税連)の定める所定の手続、届出、認可などを経る必要があり、その実務は複雑です。

 この記事では、税理士法人の合併における制度の基本と、合併の類型および必要な法的手続きを中心に解説します。



税理士法人合併 M&A 手続き

1.税理士法人の合併とは


 税理士法人の合併は、2つ以上の税理士法人が1つの法人に統合する行為を指します。合併は、いずれかの法人が存続し、他の法人を吸収する「吸収合併」と、全ての法人が解散し、新たに法人を設立する「新設合併」の2類型があります。

 実務上は、解散登記や新設法人の設立など煩雑な手続きを伴う新設合併よりも、存続法人が既に存在する吸収合併の形式が多く用いられます。

 なお、税理士法人の合併に関しては、商法・会社法上の手続きではなく、「税理士法第48条の18~19」および「日税連の合併認可に関する細則」に基づいた届出・認可が必要です。



2.合併の基本的な流れ


 税理士法人同士が合併を行う場合、主に以下のような流れで進行します。



3.必要な認可と法的制約


 税理士法人の合併は、税理士法上の厳格な認可制のもとで行われます。とくに、以下のような制約がある点に注意が必要です。

これらの条件を満たしていないと、合併認可が下りないため、事前の精査と専門家の関与が不可欠です。



4.合併後の定款整備と登記事項の整理


 合併によって存続する税理士法人は、法人登記上も「吸収合併の効力発生日」から新たな形での法人運営を開始することになります。特に注意すべきは、定款の整備と登記事項の変更です。

 吸収合併であっても、社員構成・代表社員の氏名・本店所在地・目的などが変更となるケースが多く、これらは法務局での登記変更が必要になります。また、定款に記載された社員名、目的、事務所の所在地、代表権の範囲などについても、合併前のままでは整合性が取れなくなる可能性があります。

 そのため、合併契約の締結と並行して「新定款案」を準備し、社員全員の同意を得たうえで、定款変更手続と登記申請を速やかに行う必要があります。

 特に、代表社員が複数名となる場合の権限調整、職務分掌の明確化は、運営トラブルを避ける上でも重要です。内部での役職名や決裁ルールも、統合後の業務フローに即したものへ見直しが求められます。



5.資産・負債の承継と財務処理


 合併により、消滅する法人の権利義務はすべて存続法人に包括承継されます。これは、現金・預金・備品などの資産だけでなく、未収金・借入金などの負債、契約上の地位、さらには未払い報酬や賃貸借契約に関する権利義務も含まれます。

 したがって、合併時点における「財産目録」や「合併直前貸借対照表」「引継ぎ契約書」の作成が不可欠です。これらの書類は、税理士法人内部での管理だけでなく、金融機関との取引関係維持や、会計監査・税務調査時の説明根拠としても極めて重要となります。

とりわけ、以下のような点は特に注意が必要です。

 なお、税理士法人間の合併であるため、法人税法上の「適格合併」に該当すれば、資産・負債の簿価引継や繰越欠損金の引継ぎが可能になります。ただし、要件を満たすためには社員構成や事業継続性等に関する一定の制限があるため、第三者の税理士や公認会計士の関与が望ましい局面です。



6.社員・職員体制の再編と就業管理


 合併によって法人に所属する社員の人数が増える場合、意思決定プロセスが複雑化する傾向があります。特に、出資比率に基づく議決権の配分や、代表社員の選任手続など、社員間の権限構造を事前に定義しておくことが重要です。

 また、両法人で雇用していた職員(補助者・職員税理士等)については、すべて存続法人の名義で雇用を継続することになりますが、給与体系や勤務規程が異なる場合には早急に一本化が求められます。

主な対応事項は次のとおりです。

 また、職員側にとっても組織再編は不安を生みやすいため、制度変更の背景と今後の方針について丁寧に説明する場を設けることが、離職やモチベーション低下の防止に繋がります。



7.顧問先対応とブランドの維持


 合併の成否を左右する最も重要な要素が、「顧問先への対応」です。税理士法人の合併は、登記や届出だけで終わるものではなく、対外的な信頼関係の維持が不可欠です。

 まず行うべきは、既存の顧問契約について、契約名義変更または新契約書の再締結です。通常、顧問契約書の「契約主体」が消滅法人名義になっているため、存続法人名義への変更手続きが必要になります。

同時に、次のような内容を含む文書を用いて顧客に通知します。

 顧客が不安を感じる最大の要因は「誰が担当するかが分からない」「サービスレベルが下がるのではないか」という点です。そのため、可能な限り既存担当者が引き続き業務を担当するよう配置し、組織体制が強化されたことを前向きに伝えることがポイントです。




 税理士法人の合併は、書類上の手続きだけでなく、組織としての再構築そのものです。定款変更・社員間の権限調整・財産引継・職員管理・顧問契約――いずれも一つでも不備があると、法人の信用や内部統制に影響を及ぼします。

 しかし裏を返せば、これらの要素を計画的に整備することで、合併は法人としての成長・強化につながる大きな契機になります。税理士法人間の合併は、信頼と制度に基づく“静かな再出発”であるべきです。

 実務的な観点から合併を成功させるためには、合併前からの丁寧な準備と、合併後の迅速かつ的確な対応が不可欠です。制度を正しく理解し、社内外との合意を土台に、将来を見据えた持続可能な統合を目指しましょう。




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