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税理士法人における急逝リスクと承継設計

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 2025年12月26日
  • 読了時間: 6分

 税理士法人は、税理士法を根拠とする士業法人であり、会社法上は合名会社に準じる「持分会社」として位置付けられています。社員全員が無限責任を負い、業務執行権を持つ点が株式会社や合同会社と決定的に異なり、社員の死亡・退社がそのまま法人の存立と債務負担に直結する構造になっています。​


 このため、定款の設計ひとつで「急逝時に承継がスムーズに進む法人」になるか、「急逝と同時に機能不全に陥る法人」になるかが左右されます。日税連の「税理士法人の手引き」や各会のQ&Aでは、定款の作成、社員の加入・脱退、持分の払戻し、合併・解散等について、会社法(合名会社)や一般社団・一般財団法人法の準用関係も含めて整理されており、承継シナリオを描く際の前提資料となります。​


 急逝リスクを意識する場合、とくに重要になるのが「組織・存立自体に関する行為」の意思決定ルールです。定款変更、持分の譲渡、解散、合併などは業務執行とは別枠とされ、原則として総社員の同意が必要と整理されているため、所長が急逝し社員が1名だけ残る、あるいは対立が生じた場面では身動きが取れなくなるリスクがあります。したがって、承継候補となる税理士を複数社員として早期に迎え入れておくこと、社員構成を整理しておくことが、制度上の最初のリスクヘッジとなります。​



 税理士法人は持分会社の一種として、社員が死亡した場合には原則として退社となり、持分は「出資持分の払戻請求権」に転化する仕組みです。持分会社の質疑応答事例では、退社時や相続時の出資評価について、課税時期における会社の資産から負債を控除した純資産に持分割合を乗じる方法(純資産価額方式)による評価が示されており、出資持分を相続する場合には取引相場のない株式の評価に準じて評価することとされています。このため、所長急逝時に税理士法人に多額の内部留保が滞留していると、その純資産価額がまるごと相続税評価額に反映され、相続税負担が跳ね上がることになります。​


 一方で、持分会社が債務超過の場合の相続税上の扱いは、無限責任構造ゆえに株式会社とは異なります。国税庁質疑応答「合名会社等の無限責任社員の会社債務についての債務控除」では、合名・合資会社が債務超過で会社財産だけでは債務を完済できない状態で無限責任社員が死亡した場合、その社員が持分に応じて負担すべき債務超過額は被相続人の債務として相続税法13条に基づき控除して差し支えないとされています。もっとも、控除できるのは「被相続人が負担することが確実と認められる債務」に限られ、経営行き詰まりや債務超過が著しいこと、相続開始時点で債務負担額がほぼ確定していること等の事実認定が前提となるため、実務上はオーナー貸付金を相続財産から除外するレベルのエビデンスが求められると解されています。​


 このように、税理士法人は純資産がプラスであれば出資持分評価を通じて相続財産が膨らみ、逆に債務超過であれば無限責任社員の債務控除論点が立ち上がるという、どちらに転んでも相続税の影響が大きい構造です。急逝リスクに備える承継シナリオを描くうえでは、「内部留保をためない」「債務超過をあえて利用した節税スキームに安易に走らない」「無限責任構造を前提に相続税評価と債務控除の両面を事前に整理する」といった視点が不可欠になります。​



 税理士法人の急逝リスクは、相続税評価や債務控除だけでなく、「内部設計」がどこまで進んでいるかで大きく変わります。特に、無限責任社員の構成、定款上の死亡・退社時の扱い、内部留保の持たせ方の3点は、健在時には意識されにくい一方で、急逝時には一気に顕在化するボトルネックです。権限が所長1人に集中している「一人税理士法人」の場合、死亡=退社により、税理士法人における社員数の要件との関係で解散リスクが一気に高まり、持分の払戻しや清算を巡って相続人と残る社員の利害調整も複雑化します。


 したがって、急逝リスクに備える税理士法人の設計としては、まず社員構成の分散が基本となります。複数の無限責任社員を配置し、後継候補となる税理士を早期に社員として迎え入れておけば、所長死亡後も法人格を維持したまま業務を継続しやすくなります。また、定款においては、社員の死亡時の退社・持分払戻し・後継社員の加入手続き、解散事由や合併・事業譲渡の決定方法などを「承継を前提にした条項」として明文化しておくことで、残された社員と相続人が迷わず動けるフレームを整備できます。このとき、持分相続を認めるか、死亡時は払戻請求権に限定するかも、相続人の関与度合いとリスク許容度に応じて決めておく必要があります。


 さらに、内部留保の持たせ方も、急逝リスクと直結する設計要素です。税理士法人に多額の内部留保を蓄積すると、純資産価額評価による出資持分の相続税評価が重くなる一方で、死亡・退社時や解散時に、純資産価額ベースでの払戻し・残余財産分配が生じるため、所得税・相続税の二重の出口課税を受ける可能性が高まります。これを避けるため、利益は計画的に退職金や業務委託費として個人側・別法人側に移転し、税理士法人本体には極力内部留保を残さないという方針を、定款や社内規程とセットで運用しておくことが重要です。



 税理士法人そのものの承継手段としては、持分譲渡、合併、事業譲渡の三つが基本となります。持分譲渡は、税理士法人の出資持分を他の税理士に譲渡し、法人格を維持したまま代表や社員構成を切り替える方法であり、顧問契約・職員・設備をそのまま引き継げる点で、最も平穏な承継パターンです。ただし、税理士法人の定款や手引きでは持分譲渡は厳しく制限されており、原則として総社員の同意や譲受人が税理士であることなどが要件となるため、急逝後にバタバタと譲渡交渉を進めるのは現実的ではありません。​


 合併は、税理士法人が他の税理士法人と統合し、存続法人に権利義務を包括承継させるスキームです。理論上は最もシンプルに見えますが、合併契約の締結・総社員の同意・債権者保護手続・登記など、会社法準用の手続負担が重く、「最も失敗しやすい」手法とされています。中小規模の税理士法人にとっては、急逝後に合併までこぎつける時間的・人的余裕がないことが多く、事前シナリオとしては現実性が低い場合も少なくありません。​


 一方、事業譲渡は、税理士法人が顧問契約や職員、設備などの事業一式を他の税理士法人または税理士個人に譲渡するスキームで、M&A実務上は「直近1年分の安定顧問料」を対価の目安とし、数年間の分割払いとするケースが多いとされています。事業譲渡であれば、税理士法人に溜まった内部留保を法人側に残したまま、顧客基盤のみを移転させる設計も可能であり、内部留保の出口と承継を切り離して考えられる点が実務上のメリットです。


 このように、急逝リスクに備える税理士法人承継シナリオの作り方としては、①税理士法人に内部留保を溜め込まない(退職金・外注費等で計画的に抜く)、②社員構成を分散させ、後継候補税理士を早期に無限責任社員として迎え入れる、③定款で死亡時の持分払戻し・退職金・後継社員の加入手続・事業譲渡や合併の条件を明文化する、④親族内承継・第三者承継それぞれのシナリオごとに、持分譲渡・事業譲渡・合併の優先順位をあらかじめ決めておく、という4点を押さえておくことが実務上有効です。これらを所長健在のうちに文書化しておけば、急逝という最悪のタイミングにおいても、残された社員と職員が迷わず動ける「設計図」として機能します。



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