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税理士有資格者の採用と、その後の後継者育成について

  • 執筆者の写真: 菅原 良平
    菅原 良平
  • 7 日前
  • 読了時間: 7分

 税理士事務所の経営において、避けて通れないのが「人材の確保」です。特に、将来の事務所を託せる税理士の採用は、簡単なようでいて、実は非常に難しいテーマです。求人を出しても応募がない。来たと思っても、条件が合わない。そもそも、後継者としての話を切り出すと辞退される。そんな経験をされた所長も多いのではないでしょうか?


今回は、「税理士の採用」がなぜここまで難しくなっているのか、その背景と現実を5つの視点から整理していきます。税理士業界の構造変化に触れつつ、採用戦略の考え方や後継者選びの注意点まで、今後の方針を考えるヒントとしてご活用ください。



 

1.税理士試験の受験者数・合格者数の推移

 

 税理士の採用が年々難しくなっている大きな原因のひとつが、税理士試験の受験者数と合格者数の減少です。これを知らずに採用活動を行っても、「なぜ来ないのか?」「どこに行けばいるのか?」と的外れな悩みに終始してしまいます。


実際のデータを見ると、2000年前後には5万人を超えていた税理士試験の受験者数は、

2020年には約26,000人まで落ち込みました。ここ数年、受験資格の緩和などで多少持ち直し、2024年には約34,700人に増加したものの、かつての勢いには到底及びません。


合格者数も減少傾向です。試験の合格率自体は毎年15〜20%前後で推移していますが、母数が減っているため、絶対的な合格者数も少ないままです。2024年度の試験では約5,700人が合格しましたが、試験科目が多く、科目合格制度によって資格取得までに長期間かかることもあり、若手税理士の数はさらに限られています。


また、最近の合格者の平均年齢は40代に近づいてきており、20代での合格者が減少しています。つまり、若手の税理士有資格者を採用すること自体が非常に難しくなっているという現実があります。


このような状況下で税理士を採用しようとすれば、当然ながら競争が激しくなります。求人を出しても「応募がない」「条件に合う人がいない」と感じるのは、所長の事務所だけではなく、全国の多くの税理士事務所が抱えている共通の悩みなのです。


 

2.後継者としての税理士採用の誤解

 

 「税理士を採用できれば、いずれは後継者になってくれるだろう」——そんな期待を持って人材を迎え入れている所長も多いかと思います。しかし、現実にはこの考え方に基づく採用が、思わぬミスマッチを招くこともあります。


現代の税理士有資格者は、「経営者になりたい」「独立したい」といった志向を持っていない人が増えています。特に30代以下の若い税理士は、ワークライフバランスや安定志向を重視する傾向があり、「経営者としてのプレッシャーを背負いたくない」という声も少なくありません。


また、採用の時点で「後継者候補」として過度な期待をかけすぎると、本人にとって大きなプレッシャーになります。「そんなつもりじゃなかった」「ただの転職のつもりだった」というすれ違いが、せっかくの人材を早期離職につなげてしまうリスクもあります。


さらに言えば、税理士資格があるというだけで「事務所を任せられる」と考えるのは危険です。経営とは、税務知識とは別のスキルが必要な世界です。経営マインド、人材マネジメント、資金繰りなど、経験と覚悟が問われます。


税理士を採用する際には、「専門職として働きたいのか」「いずれ独立したいのか」「事務所を継ぎたいと思っているのか」など、本人の将来像をよく確認し、長期的な関係づくりを意識することが大切です。


 

3.所長と雇われ税理士の違い

 

 税理士資格があるからといって、誰もが「所長」になれるわけではありません。ここで明確にしておきたいのが、「所長」と「雇われ税理士」の役割の違いです。所長は、税務の実務だけでなく、経営全体を見渡し、すべてに責任を持つ立場です。採用や教育、営業戦略、顧客対応、資金繰りなど、幅広い業務をこなさなければなりません。いわば、税理士業務と経営者としての役割の「二足のわらじ」を履いているのが所長です。


一方、雇われ税理士は、税務に専念できる環境のもとで、実務のスペシャリストとして働くスタイルです。自ら経営判断を下す必要はなく、責任の範囲も比較的明確です。現在の若い税理士の多くは、このような働き方を好む傾向にあります。

つまり、有資格者を採用する際には、「この人が将来所長になる前提で雇う」のではなく、「どのような働き方を望んでいるのか」をしっかりとすり合わせることが重要です。


所長に求められるのは、マネジメント力や経営判断力であり、資格の有無とはまったく別の話です。後継者候補として人材を探す場合には、「雇われ税理士」としての適性ではなく、「経営者としての資質があるかどうか」を見極める視点が求められます。


 

4.後継者に経営能力があるか

 

 「この人なら将来の後継者になってくれそうだ」と思える人材を採用できたとしても、それだけで事務所を託せるとは限りません。本当に重要なのは、「経営能力」が備わっているかどうかです。


経営能力とは、単に税務の知識や実務経験があるだけでは不十分で、事務所全体を見渡して判断し、前に進める力のことです。たとえば、スタッフのマネジメント、クライアントとの関係維持や拡大、サービスの価格設定、マーケティングの戦略立案、IT導入の意思決定など、経営者としての意思決定を日々積み重ねていく力が求められます。


これらの能力は、資格試験では学べませんし、短期間で習得できるものでもありません。実際の現場で責任ある立場を経験し、失敗や改善を繰り返す中で、少しずつ身についていくものです。だからこそ、後継者候補には段階的に業務を任せ、実践を通じて経営者としての視座を養っていく育成プロセスが不可欠です。


後継者にふさわしいかどうかを判断する際は、資格の有無や実務スキルだけでなく、「経営者としての器量があるか」「複数の要素を総合的に判断できるか」といった経営能力の有無を、冷静に見極めることが求められます。


 

5.採用できないなら“譲る”という選択

 

 税理士有資格者の採用が難しい中、後継者不在という課題に直面している事務所にとって、有効な選択肢となりうるのが「M&Aによる承継」です。近年、後継者候補の採用や育成がうまくいかない事務所ほど、第三者への承継という選択を前向きに検討するケースが増えています。


M&Aというと、大規模な法人同士の買収というイメージを持たれがちですが、税理士事務所の世界では、もっと実務に根ざした、個人事務所同士の引継ぎや小規模法人への合流といった柔軟な形で行われています。ポイントは「有資格者がすでにいる側に、事務所を託す」ということです。採用や育成に数年かかり、かつ結果が読めない状況と比べ、M&Aでは既に経営能力を持った税理士に顧問先やスタッフを引き継ぐことができます。


もちろん、譲渡側としても信頼関係の構築や業務の引継ぎには丁寧な対応が求められますが、「人材がいないから承継できない」という悩みから抜け出す手段として、現実的な方法のひとつと言えるでしょう。


M&Aを選ぶことに抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、それは「失敗」ではなく、「事務所を未来につなげるための別の道」です。後継者が内部にいないなら、外部にいる“経営できる税理士”とつながる手段として、M&Aはもっと積極的に活用されるべき時代に入っているのではないでしょうか。


 

6.まとめ

 

 税理士業界における人材の確保は、年々難しくなっています。税理士試験の受験者・合格者の減少により、有資格者の供給そのものが減っているため、採用の競争が激化しているのは当然の流れといえるでしょう。


また、「税理士を採用すれば、将来後継者になってくれる」という考えには注意が必要です。現代の税理士の多くは、専門職として働きたいという意識が強く、経営者になることに対して消極的な傾向があります。所長としての役割は、税務の実務とは異なるマネジメントと経営判断の連続です。それに加えて、後継者には経営能力も求められます。


こうした中で、所長が最後に選ぶ道として現実味を増しているのが、M&Aという承継方法です。後継者を採用・育成することが困難な今、すでに有資格かつ経営経験のある第三者へ事務所を託すことは、事務所の未来を守る有効な手段です。

だからこそ、採用か承継かという二者択一ではなく、「どうすれば自分の事務所を未来につなげられるか」という視点で、複数の選択肢を持っておくことが重要です。採用も承継も、戦略的に動いた者が最終的に道を切り開く時代になっています。
















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