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税理士事務所を“継ぎたくない”と言われたら?所長の心構えと次の一手

  • 執筆者の写真: 菅原 良平
    菅原 良平
  • 6月3日
  • 読了時間: 7分

ー今、税理士事務所の“後継ぎ問題”が深刻化しているー


 近年、全国の税理士事務所で「子どもが継いでくれない」「後継者が見つからない」といった悩みが急増しています。少子化や働き方の多様化に加え、「親の事業を継ぐのは当然」という考えが薄れた今、家族承継はもはや当たり前ではなくなっています。

多くの税理士が、「いつか子どもが継いでくれるはず」「従業員の中から自然と後継者が現れるだろう」と期待しつつ、税理士としての日々の業務に忙殺されて時間だけが過ぎていきます。しかし、いざ「継がない」と告げられたとき、現実をどう受け止め、どのような道を選択すべきか——これは、すべての税理士事務所の所長に突きつけられている課題です。

この記事では、「継ぎたくない」と言われたときの心構えと、そこからの最善の選択肢を詳しく解説します。



1.「継ぎたくない」――所長が直面する現実とは


「別のキャリアを考えている」


 この一言は、税理士として数十年築き上げてきた事務所を「当然引き継いでもらえる」と思っていた所長にとって、まさに思いもよらぬ出来事です。一人で立ち上げ、地域に根ざして運営してきた税理士事務所。顧問先との信頼関係、職員との絆、すべてを託せる相手が身近にいないという現実は、多くの所長にとって厳しいものです。税理士事務所の経営は、単なる仕事ではなく、人生そのものだからこそ、「継がない」という判断を受け入れるのは容易ではありません。


しかし現代は、「親の仕事を継ぐことが当たり前」という価値観が崩れつつある時代です。子ども世代は、仕事に「やりがい」や「自己実現」を求め、自分の人生を自分で選びたいと考えています。たとえ家業が安定していても、それが「自分に合っている」と感じられなければ、継ぐという選択肢にはなりません。


とはいえ、「継がない」と言われたからといって、即廃業を選ぶ必要はありません。近年では、M&Aを活用した第三者承継という新たな選択肢も広がっています。事務所を閉じるのではなく、「価値ある資産」として他の税理士に譲渡し、顧問先や職員を守るという選択もできる時代です。


2.「継がせたい」は親心、「継ぎたくない」も本音


 所長として、「この仕事を継いでほしい」という思いは当然のことです。税理士という職業は独立性が高く、努力次第で安定した収入を得られる魅力ある仕事です。そのため、「こんなにいい職業をなぜ継がないのか」と疑問を感じるのも無理はありません。


しかし、親世代と子世代では、仕事や人生に対する価値観が大きく異なっています。 親世代は「安定」「地元での信頼」「家業を守る」という価値観を重視しがちです。一方で、子世代は「自分のやりたいことをやりたい」「ライフワークバランスを重視」「複数のキャリアを経験したい」という志向が強く、職業選択において“家業”はあくまで選択肢の一つに過ぎません。


また、親子間のコミュニケーションの中で「継いでほしい理由」と「継ぎたくない理由」がすれ違うケースも少なくありません。親は「安定しているから」「将来の不安が少ないから」と善意で勧めても、子にとっては「重荷」「自由がなくなる」と受け止められることもあります。


家族承継を前提にするのではなく、「誰が継ぐか」ではなく「どんな形で事務所を未来につなぐか」を柔軟に考えることが重要です。この柔軟さこそが、第三者によるM&A承継とも親和性が高いのです。事務所を信頼できる他の税理士に譲り、顧問先と職員の未来を託すM&Aは、価値観の違いを乗り越える一つの方法とも言えます。


3.感情ではなく“背景”を理解する


 「継ぎたくない」と言われた瞬間、落胆の感情が湧き上がるのは自然なことです。しかし、感情的にぶつかってしまうと、その後の関係性や選択肢に悪影響を及ぼしかねません。大切なのは、冷静に「なぜ継がないのか?」という“背景”を理解する姿勢です。


たとえば、子どもや後継者候補が「収益性に不安を感じている」「長時間労働が常態化している」「デジタル化が進んでいない」など、現実的な懸念を抱いている場合もあります。これは事務所の持つ課題を浮き彫りにする重要なヒントです。


このタイミングで、改めて事務所の経営状態、将来性、業務体制などを見直す機会として活用しましょう。顧問先の構成、職員の年齢層、利益率、事務作業の属人化など、普段見落としがちな課題に気づくことで、M&Aによる譲渡時の準備にもなります。


その結果として、「今の形では継がせられない」「であれば第三者にM&Aで譲渡した方が、税理士事務所にとっても職員や顧問先にとってもよいのではないか」と、建設的な選択肢が見えてくるのです。


4.税理士事務所の3つの選択肢


 「後継者がいない=事務所の終わり」ではありません。税理士事務所が未来に向けて取れる選択肢は、主に以下の3つです。


【選択肢1】第三者承継(M&A)

信頼できる他の税理士に事務所を引き継いでもらうM&Aは、今や全国的に広がっている承継手法です。実績のあるM&A仲介会社を通じて、理念や相性の合う税理士とマッチングできる可能性も高まっています。M&Aを通じて譲渡すれば、顧問先・職員・事務所の価値を維持しながら、引退後の資金確保や精神的安心も得られます。


【選択肢2】法人化・共同経営

一人事務所から税理士法人に転換し、若手税理士や信頼できる職員と共同経営する道もあります。税理士としての経験や知見を活かしながら、世代交代を円滑に進めることが可能です。複数代表制を活用し、段階的に経営を移行することで、負担を分散しつつスムーズな承継が図れます。


【選択肢3】計画的な廃業

どうしても承継先が見つからない、M&Aも難しい場合は、計画的な廃業という道もあります。これは「逃げ」ではなく、顧問先への丁寧な引き継ぎや職員の再就職支援を含む「責任ある終わり方」です。廃業の準備には、数年単位の時間がかかるため、早期に計画を立てることが大切です。


5.今すぐ所長がやるべき5つの行動


 どの道を選ぶにせよ、「今から動き出す」ことが何より重要です。以下の5つは、すべての税理士所長が今から始められる具体的なアクションです。


① 事務所の資産価値を把握する

売上構成、顧問先の契約安定性、利益率、職員の構成など、事務所の資産価値を客観的に整理しましょう。これはM&A時に必要となる情報であり、承継判断の材料にもなります。


② 業務や顧問先の“見える化”

属人的な業務や口頭での引き継ぎが多い事務所は、承継時のリスクになります。日報・マニュアル・顧問先リストなどを整備しておきましょう。


③ 人材や業務体制の継続性を検証

所長の引退後、業務がどれだけ継続可能かを客観的に検証しましょう。若手税理士や事務スタッフへの教育体制も重要です。


④ M&A専門家への初期相談

M&Aを検討するなら、税理士事務所のM&Aに強い専門家に早期に相談を。相場観や適切な譲渡時期が見えてきます。


⑤ 情報収集とネットワークづくり

同業のつながり、M&A仲介会社、地元の士業会などと接点を持ちましょう。信頼できる譲渡先候補に出会える可能性も広がります。


  6.まとめ


 「子が税理士事務所を継がない=失敗」という考え方に縛られる必要はありません。事務所を次世代に引き継がせることが難しい状況は、全国の多くの税理士所長が直面している共通の課題です。しかし、それを単なる「終わり」と捉えるのではなく、新たな選択肢と可能性に目を向けることで、より前向きな意思決定が可能になります。


今の時代、税理士が築いた事務所は、M&Aという形で第三者に承継されるケースが増えています。子どもが継がないことをきっかけに、税理士事務所の資産価値を見直し、譲渡可能な資産として“出口戦略”を立てることは、経営者として非常に意義のある判断です。これは廃業とは異なり、長年かけて築いた信用・人材・顧客基盤を次につなげることができる、「未来への橋渡し」と言えるでしょう。


「誰に引き継ぐか」よりも、「どう引き継ぐか」が重要です。たとえ血縁者でなくても、理念を共有できる他の税理士や法人へ、誠実かつ円滑にバトンを渡すことができれば、それは成功と呼べる承継です。そのためには、所長自身が、税理士としてのキャリアをどこで、どう終えるのか、またはどう続けるのかを明確に描く必要があります。


さらに、引退を前提とせず、「譲渡後も働き続ける」スタイルを選ぶ税理士も増えています。これはM&Aを活用する大きなメリットの一つであり、所長が継続して一定期間業務に関与することで、顧客や職員に安心感を与え、引き継ぎの質も高まります。税理士としての専門性を活かしながら、経営の一線から徐々にフェードアウトする柔軟なスタイルは、まさに時代に即した承継方法と言えるでしょう。


引き継がれないことが「失敗」ではなく、むしろ所長である税理士が、次世代のために最善の選択をする機会だと捉えてみてください。その選択が、あなた自身のキャリアの集大成であり、事務所に関わるすべての人への責任を果たす、最後の大きな経営判断となります。



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