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税理士事務所・税理士法人の廃業時に問われる会計・税務論点

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 6 日前
  • 読了時間: 7分

 税理士業務の廃業・承継を検討する際には、「税理士事務所(個人)」と「税理士法人」とで、法的性質や会計・税務上の取り扱いが大きく異なる点を整理しておく必要があります。本記事では、「税理士事務所(個人)」と「税理士法人」を明確に区別したうえで、廃業・解散時に問題となりやすい実務論点を順に整理します。



 個人の税理士事務所が廃業、または所長の死亡により閉鎖する場合には、顧問契約の承継方法や業務報酬の帰属経路に注意が必要です。一般的には、会計法人(別法人)を通じて顧問料を継続的に受け取るスキームが採用されますが、税理士法で独占業務(申告書作成・税務相談など)に関する報酬を会計法人に直接付け替えることは認められていません。これを誤ると、形式的に外注費を計上しても「実質を伴わない」として、経費否認や所得付替のリスクが生じます。


 税務調査では、会計法人の収益割合、職員給与の支払元、備品の使用実態などが精査され、実際にどちらが主たる業務主体であるかが問題になります。たとえば、会計法人の収入が大きいにもかかわらず、職員給与の大部分が個人事務所から支払われている場合には、「会計法人の実態が形骸化している」とみなされやすいです。


 会計と税務上の整合を保つには、各契約での業務分担を具体的に定め、粗利益ベースで処理を分担することが望ましいです。また、契約書を必ず2部作成し、顧問報酬の一部を税理士事務所に付け替える場合には、税理士業務部分と会計処理部分の線引きを契約書上で明確にすることが必要です。こうした形式的証拠を整備しておくことが、将来の税務調査における防御の根拠となります。




 税理士事務所や会計事務所の再編においては、「廃業」と「承継」を明確に分けて計画することが成功の鍵です。たとえば、所長が急逝した場合の混乱を防ぐためには、事前に新税理士法人を設立し、旧税理士事務所(個人)を支店化して業務を継続するスキームが考えられます。この場合、対価を旧事務所の年間収入金額相当(例:毎月〇〇万円の分割払い)とし、職員や設備を新法人が引き継ぐことで、業務の中断を回避できます。


 実務的には、廃業期前後の業績変動を考慮し、会計法人側の収入比率を意図的に増やしておく方法もあります。これは、法人側に業務基盤を集約し、承継時に顧問契約をスムーズに移せる体制を整えるためです。


 さらに、承継時には前所長から新所長への斡旋料が発生するケースも多いです。この場合、その性質によって所得区分が異なります。前所長が一時金として受け取る場合は雑所得になりますが、分割で受領する場合は給与所得または退職所得として扱われることもあります。一方で、会計法人が受領主体となる場合には法人所得として処理します。したがって、譲渡契約書に所得区分を明記することが重要です。




 税理士法人において代表社員または無限責任社員が死亡した場合には、その持分の相続および払戻しに関する処理が問題となります。社員税理士が死亡すると、その出資持分の相続人は出資払戻請求権を承継します。ただし、相続人が税理士でない場合には社員資格を承継できず、単に金銭債権を有するにとどまります。このとき、法人内部留保が多額に積み上がっている場合には、払戻金の算定基礎が純資産価額となるため、結果的に相続財産の評価額が増加します。


 また、解散を伴う場合には、法人財産全体について清算・処分が行われ、残余財産の分配(解散時利益)が発生すれば、社員税理士個人に所得課税が生じます。そのため、廃業を見据えた段階から、内部留保を役員給与・外注費・退職金などの形で事前に流動化させておくことが大切です。


 税理士法人特有の「無限責任性」にも注意が必要です。社員税理士間で業務執行責任を共有する性質上、清算時に未精算の債務が見つかった場合には、退社や死亡した社員税理士の相続人にまで連帯責任が及ぶ可能性があります。そのため、廃業時における債務確定や債務控除の可否は、慎重な事実認定を要します。特に、相続税で債務控除を認めてもらうためには、相続開始時点で債務の存在と金額が確定している必要があります。




 税理士法人が廃業・解散する際に最も重要となるのは、法人の「純資産価額の把握」と「持分・出資の処理」です。税理士法人は持分会社(合名会社)に準じて設立されているため、解散時には会社法が適用され、原則として退社社員や清算人によって、財産の現況に基づく払戻し(清算分配)が行われます。このときの評価額は、解散時点の純資産価額評価によるものです。


 税務上も同様に、この純資産価額が解散時分配(みなし譲渡)における基礎になります。そのため、設立当初からの内部留保の蓄積状況が、そのまま将来の税負担に直結します。初期段階の設計を誤ると、法人内部に蓄積された留保利益が、廃業時に社員個人への分配課税を誘発するケースが多いです。特に税理士法人の場合、所得分散などの明確な税務上のメリットは限定的であるため、廃業を見据えて「内部留保をできるだけ持たない運営設計」を行うことが極めて重要です。


 また、清算にあたっては、定款または総社員の同意によって財産処分の方法をあらかじめ明確に定めておくことが必要です。内部留保の取り崩しを退職金または外注費として計上する処理も検討されますが、その経済的合理性については国税当局による実質判定を受けやすいです。そのため、会計処理上は「役務対価」としての実質を明確にし、税務上は「業務委託契約書等の形式的整備」を徹底しておく必要があります。




 最後に、税理士法人の廃業・解散に伴う残余財産の処理や評価に関する税務上の留意点について整理しておきます。税理士法人は税理士法に基づく特別法人であり、社員持分を有する閉鎖的な法人形態であることから、社員持分の評価や残余財産の分配にあたっては、実務上、株式評価に類似した考え方(とくに純資産価額を基礎とする整理)が問題となる場面があります。


 解散・清算の過程では、法人の資産・負債を確定させ、最終的な残余財産額を算定する必要がありますが、この際、帳簿価額と実態価値との乖離がある場合には、税務上の評価が争点となる可能性があります。とくに、事業譲渡や業務引継ぎを伴うケースでは、顧問先関係や人的要素に由来する無形価値(いわゆる営業権)の有無や評価の妥当性が問題となることがあります。評価や処理の方法によっては、法人税法上の損金算入の可否や、関係者個人に対する課税関係が問われることもあるため、慎重な検討が求められます。


 また、社員間で持分割合と異なる報酬配分や残余財産の分配を行っている場合には、その経済的合理性や決定プロセスによっては、特定の社員への利益移転と評価されるリスクがあります。状況によっては、相続税法上のみなし贈与の問題や、報酬・給与課税としての整理が論点となることも考えられます。このようなリスクを回避するためには、定款の規定内容、社員総会等の決議、議事録の整備といったガバナンス面の管理が不可欠です。


 さらに、清算期間中および清算結了時には、「未払費用」「未収収益」「預り金」などの残高管理にも注意が必要です。顧問契約に基づく前受報酬や預り源泉所得税等が残存している場合、業務の実態が法人に帰属するのか、清算後に社員個人へ帰属するのかといった判断が問題となることがあります。処理を誤ると、清算法人に対する追加課税や、清算結了後の修正申告が必要となる可能性も否定できません。


 また、解散・清算が完了した後であっても、法人税法上の更正権行使期間内であれば、税務調査や追徴課税が行われる可能性があります。したがって、清算登記をもってすべてのリスクが消滅すると考えるのではなく、法定の保存期間を踏まえ、帳簿書類や関連資料を適切に保管しておくことが重要です。


 このように、税理士法人の廃業時に問題となる会計・税務上の論点は、単なる清算手続にとどまらず、税務・法務・相続・実務運営を横断する総合的な管理プロセスといえます。廃業後の紛争や課税トラブルを回避するためには、廃業を決断してから対応するのではなく、廃業前の段階から定款の整備、社員間ルールの明確化、内部留保の管理方針、証拠書類の一貫性を確認しておくことが重要になります。



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