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税理士法人で社員が1人になったら何が起きるのか ― 解散リスク・清算・承継までの整理

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 1月9日
  • 読了時間: 6分

 税理士法人において、社員が1人となった場合は、単なる人員不足では済まされません。税理士法により、「社員が1人となり、その日から6か月を経過してもなお2人以上にならないときは、その6か月を経過した時に解散する」と定められています。つまり、社員数が1人になった瞬間から、法人の“タイマー”が動き出すのです。6か月以内に新しい税理士を社員税理士として迎え入れなければ、税理士法人は法定の解散事由に該当します。


 この6か月間は猶予期間であり、その間に社員数を回復すれば通常どおり業務を続けることが可能です。一方で、新規での社員税理士の加入が難しい場合には、任意に解散を選択することもできます。税理士法では「総社員の同意による解散」を認めており、この場合、社員1人が存在すればその同意で解散が可能です。したがって、6か月経過による法定解散を待つのではなく、意思決定による任意解散を選ぶことで、日程や清算方法を自ら設計できる柔軟性があります。


 任意解散では、解散日・清算人の選任・残余財産の処分方法を定款や社員決議で設定します。一方、6か月を経過して自動的に解散する「法定解散」では、あらかじめ設定した条項に従い淡々と清算に移行することになります。どちらにせよ解散登記が必要であり、登記後に法人は「清算の目的の範囲でのみ」存続します。清算が完了し、結了登記がなされて初めて法人格が消滅するのです。したがって、「社員が1人になった瞬間に税理士法人が消滅する」という誤解は誤りであり、実際には解散→清算→結了という段階的プロセスを経る点に注意が必要です。



 税理士法人の解散後は、会社法上の合名会社の規定が準用され、清算手続がスタートします。清算人が財産を売却し、債務を返済し、残余財産を分配するという流れです。清算人は通常、社員が務めますが、定款や社員の決定で外部専門家が就任することもできます。この段階で法人は「業務を行えない」ため、実務的には顧問先との契約は自然に終了し、新たな業務は一切行えません


 解散や社員退社の際に問題となるのが持分の評価と払戻しです。原則として、持分の評価は「退社または解散の時点の純資産価額」、すなわち資産から負債を差し引いた正味財産を基準に算定されます。定款に特別規定がある場合はそれに従いますが、一般的にはこの計算がベースです。無限責任社員のため、債務超過の状態であれば、その不足分は社員の連帯債務に転化することになります。


 社員税理士が死亡した場合、その持分自体を相続することはできません。相続人が取得するのは「出資持分の払戻請求権」であり、税理士有資格者である場合のみ、改めて同額を出資して社員税理士となることが可能です。資格を有しない相続人は出資を承継できず、払い戻しを受けるにとどまります。これは、税理士法の定める専門資格者法人としての機能を保持するための制度的制限であり、株式会社や一般社団法人と異なる大きな特徴です。



 税理士法人は、株式会社型ではなく「合名会社型」の法人形態を採用しています。すなわち、構成員は全員無限責任社員であり、全員が業務執行権を有します。一般の合同会社や有限会社のような有限責任構造ではありません。そのため、社員間には強い信認関係が求められ、1人になった状態は本来的に法人構造の前提を欠いた異常事態という位置づけになります。


 また、税理士法人の税務上のメリットは意外に小さいのが実情です。法人化による節税効果は限定的であり、むしろ内部留保が法人に滞留しやすいというデメリットを持ちます。士業法人では配当制度が存在せず、解散時の評価は純資産価額となるため、解散の際に内部留保分が残余財産分配の対象となり、その分課税が顕在化します。初期設計の段階で内部留保を形成しすぎると、将来的にその“出口”が見つからず、課税負担が重くなる恐れがあります。そのため、適正なタイミングで代表社員への退職金支給や外注費の形でバランスを取る設計が求められます。


 税理士法人を運営する上では、「社員の選定」と「定款の設計」が最重要事項といえます。社員税理士候補者の経営能力・信用力・独立性を総合的に判断し、加入・脱退の条件、出資持分の評価基準、死亡時や退社時の払戻し方法などを明記しておく必要があります。さらに、代表社員が高齢化した場合や承継段階を迎えた場合に備え、あらかじめ補佐的に別の社員税理士を加えておくなど、制度上のリスクを分散することが現実的です。



 社員が1人になる事態は、しばしば承継の失敗や急な死亡退職から生じます。社員税理士が急逝した場合、残る社員税理士が1人であれば、6か月後に解散事由が発生します。これを防ぐには、事前に後継者となる税理士を社員として加えておくことが不可欠です。親族承継であれば子や配偶者が資格を取得した段階で早期に加入させ、親族外承継であれば信頼できる幹部候補の税理士を社員税理士に昇格させるなど、“二人制維持”を意識した体制づくりが求められます。


 税理士法人の承継手法には、「持分譲渡」「合併」「事業譲渡」の3種類があります。とくに合併は法律関係や清算処理が複雑で失敗が多いため、実務上は持分譲渡または事業譲渡が選ばれることが一般的です。承継やM&Aの対価としては、毎月の安定顧問料の1年分を目安とし、前代表社員への斡旋料として分割払いする方法もあります。こうしたスキーム設計の際にも、社員数が法定要件を満たすかどうかは重要なチェックポイントになります。


 加えて、現場では「解散を避けつつ徐々に個人事業へ縮小させる」か、「法人形態を維持したまま業務委託方式で段階的に承継する」かという二つの戦略も用いられています。前者の場合、税理士法人をあえて清算し、個人名で再登録することで機動性を優先します。後者は、会計法人など別法人を設立し、税理士法人からその法人へ顧問契約や職員を順次移していく方法です。後者は解散を避けられる反面、契約関係・収益配分・税務処理を緻密に整える必要があります。


 また、税理士法人のM&Aでは、法人資格そのものよりも「顧問先と人材」が価値の中心を占めます。したがって、社員1人体制になった法人をそのまま売却しようとしても評価額は伸びません。法人格を維持しつつ新たな税理士を迎えて二人体制に戻すほうが、事業譲渡ではなく法人単位の承継を選べるため、取引の信頼性や評価が格段に高まります。結果として、日常的に2名体制を保つこと自体が、法人の価値を維持する最大の防衛策となるのです。


 最終的に「社員が1人になったときどうなるか」という問いは、法人の存続だけでなく、事業承継・解散・M&Aといった出口戦略をどのように選ぶかという経営判断にも直結します。税理士法人は、単なる業務組織ではなく、法令上の厳格な構造を持つ“共同事業体”です。平時から人員計画と定款設計を整えておくことが、事業の連続性と顧問先の信頼を守るうえで不可欠なのです。


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