top of page

税理士事務所の承継、最悪のパターンとは?

  • 執筆者の写真: 菅原 良平
    菅原 良平
  • 5 日前
  • 読了時間: 6分

 税理士として長年地域や顧問先を支えてきた所長にとって、「事務所の承継」は避けて通れないテーマです。体力的な限界や年齢、家族の事情など、さまざまな要因から、「そろそろ引退を考えたい」という声も年々増えています。


一方で、事務所の承継には落とし穴も多く、失敗してしまうと築き上げてきたものすべてを失うリスクすらあります。本来、承継は所長の人生を締めくくる大事なステップであり、職員・顧問先・家族など、多くの人の人生にも関わる重大な決断です。


この記事では、「税理士事務所の承継で陥りがちな“最悪のパターン”」を4つに分けて整理しながら、失敗を避けるためのポイントをわかりやすく解説します。後悔しない承継のために、今すぐできる準備を始めましょう。



 

1.準備不足のまま引退を迎える

 

 税理士事務所の承継において、最も多い失敗のひとつが「準備不足」です。「そのうち考えよう」「まだ元気だから大丈夫」と引退や承継を先送りにしてしまい、結果として突然の体調不良や事故などで、何の準備もできないまま退くことになるパターンです。

こうした準備不足のまま引退を迎えた場合、誰にも業務内容を引き継いでおらず、所長の頭の中だけにあった顧問先の情報、料金体系、書類管理のルールなどがすべて消えてしまうことになります。事務所の実態が属人化していると、承継どころか、廃業を選ばざるを得ない状況にもなりかねません。


税理士会への登録抹消手続き、顧問先への通知、職員への説明、ファイルやデータの整理など、やるべきことは山ほどあります。これを急なタイミングで対応するのは、本人だけでなく周囲にとっても大きな負担となります。


承継を成功させるには、「まだ元気なうち」に準備を始めることが何より大切です。少なくとも3年~5年前から承継を見据えた計画を立てておくことが理想です。税理士としての引退は、“いつかそのうち”ではなく、“今日から少しずつ”始めていくべきプロセスなのです。


 

2.後継者選びの失敗

 

 「税理士資格を持っている人に引き継げば問題ない」と思っていませんか? 実はそれが、税理士事務所の承継においてもっともよくある失敗のひとつです。税理士資格=後継者としてふさわしいとは限らないのです。


たとえば、息子や娘など家族が税理士資格を持っているという理由で後継者に選んだが、実際には現場経験が乏しく、経営に向いていなかった。あるいは、職員の中から「実力がある」と思って選んだものの、本人には独立や経営の意思がなかった。このようなすれ違いが、承継の失敗につながるケースは少なくありません。


さらに外部の税理士に承継を依頼した際も、価値観の違いや経営方針のズレが原因で、顧問先とのトラブルが発生したり、職員が退職してしまったりすることがあります。

承継で大切なのは、「この人なら、自分の想いを受け継いでくれる」と本心から信頼できる人物を、時間をかけて見つけることです。


そのためには、できるだけ早い段階から候補者と関係を築き、実務を通じて相性や価値観を確かめていくことが必要です。後継者選びは、事務所の未来を左右する最重要課題。安易な判断は禁物です。“税理士なら誰でもいい”という考え方は、最悪の承継への第一歩となりかねません。


 

3.コミュニケーションの欠如

 

 「後継者は決まっている」「承継プランも考えている」それでもうまくいかないケースがあります。その原因の多くは、所長・職員・顧問先とのコミュニケーション不足です。

所長だけが頭の中でプランを描いていても、職員や顧問先にそれが共有されていなければ、突然の発表に皆が戸惑い、混乱を招くことになります。「そんな話、聞いていなかった」「なぜこの人が後継者なのか」などの不満が噴出し、承継前後にスタッフの離職や顧問契約の解約が相次ぐケースも現実にあります。


また、後継者本人との間でも、「聞いていた話と違う」「役割分担が曖昧で不安」といった行き違いが起きると、信頼関係が壊れ、承継そのものが頓挫してしまうこともあります。

コミュニケーションは承継の“潤滑油”です。小さなことでも、こまめに伝える・聞く・共有するという姿勢が、承継を円滑に進めるカギになります。


 

4.承継スキーム・契約面の甘さ

 

 税理士としての専門知識があっても、いざ自分の事務所を承継する段階になると、手続き面や契約の詰めが甘くなりがちです。これが、後からトラブルになる“最悪のパターン”を引き起こします。


たとえば、税理士法人化の手続きを進めている途中で顧問契約が移行できていなかった、合併先との契約内容が口約束のままになっていた、譲渡価格や報酬分配について書面がなく、誤解が生じた……こうした事例は決して珍しくありません。特に「信頼関係があるから大丈夫」と思って契約を交わさずに進めてしまうと、あとで「言った・言わない」の問題に発展し、信頼していた相手と関係が壊れてしまうこともあります。


承継は一度きりの重要なプロジェクトです。だからこそ、第三者の視点で契約書を確認する・専門家にアドバイスを受けるといった客観的な対応が必要不可欠です。

また、税理士法人化・合併・支店成りなどの承継スキームには、それぞれ税務・法務・労務上の特徴や手続きの違いがあります。これらをしっかり理解せずに進めてしまうと、想定外のリスクやコストが発生することもあるのです。


信頼をベースにしつつも、形式や契約をきちんと整えることが、結果的にすべての関係者を守ることになる――それが承継における正しい姿勢です。


 

5.まとめ

 

 

最悪を避けるために、“今”動く

 

 税理士事務所の承継において最悪のパターンとは、「準備が間に合わず」「誰にも相談できず」「想いも伝わらず」「契約も整わず」――すべてが後手に回ってしまう状況です。

逆に言えば、これらを一つひとつ丁寧に進めていけば、承継は必ずうまくいきます。



これらのプロセスを意識して進めれば、税理士事務所の承継は“未来を託す”前向きなプロジェクトになります。また、承継には体力も気力も使います。だからこそ、元気なうちに、早めに動き出すことが最大の防御策です。「まだ先」と思わず、「今日できる一歩」から踏み出してみてください。税理士として積み重ねてきた信頼、顧問先との関係、職員との絆――それらを大切に引き継ぐ承継こそが、所長の税理士人生の“集大成”となるはずです。


 

さらに一歩踏み込んでおくべきこと

 

 承継を成功させるためには、計画的な準備だけでなく、「自分がどういう人生を歩みたいか」を見つめ直すことも大切です。税理士としての仕事は、知識や技術を提供するだけでなく、人との信頼関係を積み重ねる仕事です。だからこそ、承継もまた“人と人との信頼のバトン渡し”です。


特に大切なのは、「承継後の自分をどう位置づけるか」です。完全に身を引くのか、顧問的な立場で残るのか、一時的にサポート役として関わるのか。この選択によって、後継者の動きや顧問先の安心感も大きく変わります。「身の引き方」も承継の一部と考えて、引退後のライフスタイルも含めて構想しておくと、スムーズな移行が可能になります。


何十年もかけて築き上げてきた税理士事務所だからこそ、その引き際には意味があります。自分自身の将来、そしてこれまで関わってきた顧問先や職員にとっても納得のいく承継を実現するために、「失敗しないこと」だけでなく、「より良い形を目指すこと」が大切です。まずは、できることから一歩ずつ始めていきましょう。















Comments


ロゴWhite.png

​税理士M&A

成功ガイド

powered by KACHIEL

私たちについて

KACHIELは税理士向け実務セミナー事業を15年以上運営し、全国に2.3万人以上の税理士ネットワークをもつ会社です。弊社をご利用頂く税理士事務所所長・税理士法人代表であるお客様などから年間50件以上、事務所承継や組織化のご相談を頂いております。

単なる「売却」に限らず、譲渡側の所長の現役続行を前提とした「支店成り」「税理士法人化」「税理士法人合併」などのご支援を全国で多く行っています。

​これまで弊社ご支援先ではM&Aを原因とした職員様の離脱が過去通算0人です。

​税理士M&A成功ガイドで公開する知識・経験談をご参考にして頂けますと幸いです。

© 2025 KACHIEL Inc. All rights reserved.

株式会社KACHIEL

代表取締役 久保 憂希也

〒105-0022 東京都港区海岸1-4-22 SNビル4階

中小企業庁登録M&A 支援機関
有料職業紹介事業許可番号 13 -ユ 312190

設立  2009年2月

資本金 888,500,000円(資本剰余金含む)

MAIL mainfo@kachiel.jp 

TEL   03-5422-6166(平日 9:00~18:00)

bottom of page