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税理士法人の出口戦略ガイド~ 解散・清算・M&Aのリスクと実務対応~

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 10月10日
  • 読了時間: 6分

 税理士法人の解散は、その根拠法である税理士法に明確に規定されています。解散事由としては、定款に定めた理由の発生、総社員の同意、他法人との合併、破産手続開始決定、裁判所の命令、税理士会による解散命令、さらには社員数が一定要件を欠いた場合(税理士法人の場合は2名以上)に自動的に発生するケースがあります。これらの要件を満たしたことで解散が法的に成立し、続いて清算手続きが求められます。


 実務的な留意点として、まず「社員数の問題」が挙げられます。代表社員や他社員が死亡・退職等によって急激に2名未満となった場合、6か月以内に補充ができなければ解散せざるを得ないというリスクがあります。特に高齢化の進む事務所にとっては思いがけないタイミングでの「制度的強制解散」が起こり得るため、後継人事や社員の確保を事前に準備しておくことが不可欠です。


 また、実務上、清算に至るまでの過渡期では「誰が残務を行うのか」という実務負担の分配が問題になります。解散そのものは社員の合意や法定事由で生じますが、実際のクライアント対応や契約解除など細部の処理は人員や時間の負担を伴い、結果的に残された社員間で責任や労力に偏りが生じることがあります。さらに、清算を進める過程で発生する債務・資産の処理については、社員が無限連帯責任を負うという士業法人特有の構造を踏まえ、トラブルにならない内部合意を明確にしておく必要があります。つまり、制度的リスクは「突然の解散」形態にあり、実務的リスクは「責任の所在と業務処理」にあり、この両者を未然に管理しておくことで初めて安定した出口を迎えることができます。



 社員が税理士法人を退社する場合、会社法の準用により「退社に伴う持分払戻請求権」が発生します。つまり、法人に対して出資の払い戻し請求を行える仕組みであり、その算定基準は「退社時点の純資産評価」とされるのが原則です。しかし、この評価方法をめぐり、しばしば法人内部や残存社員との間でトラブルが発生します。


 代表的な問題は「評価額のブレ」が生じる点です。例えば、純資産評価額を超えて退社社員に支払った場合、残存社員は経済的不利益を被りかねず、一方で減額した場合には退社社員にとって「実質的なみなし贈与」と評価され、税務上の課税リスクが生じます。これを避けるためには、定款に「払戻し評価の基準」をあらかじめ明記しておくことがトラブル防止の第一歩となります。


 また、実務では退社時に「退職金」を支給する事例も多く見られます。代表社員から一般社員への分掌変更を行い、退職所得控除の適用を受けられる余地を残す方法は広く利用されていますが、その算定根拠が曖昧な場合は「過大退職金」と疑われ、法人・社員ともにリスクを背負いかねません。したがって、退職金支給額の算定基準(功労年数、業務貢献度、資金繰りへの影響など)も書面化し、社員間で共有しておくことが不可欠です。


 さらに、退社によって残存社員の「無限連帯責任」が相対的に重くなる点にも注意が必要です。社員間のバランスを保つためには、覚書などで責任負担割合を調整し、退社による内部負担が一方的にならない仕組みを整えることが望まれます。



 清算過程で問題になるのは「残余財産の分配」です。日税連のモデル定款に従えば、出資金額を基礎として分配を行いますが、現実の税理士法人においては有形資産よりも「無形資産=顧客基盤やブランド力」の比重が大きく、制度的に整合させるのが難しい分野です。


 純資産評価では顧問先との継続契約や信頼関係といった“見えない価値”は反映されません。しかし、実務上は法人の存続価値のほぼ全てを占める資産でもあるため、これを配分から外すと、残存社員や退社社員の間で不公平感が強くなり、トラブルの温床となり得ます。一方で、これを金銭評価しようとすると、算定手法に客観性を欠きやすく、課税面では「みなし贈与」や「配当所得」認定の対象となる可能性も高くなります。


 対策として、無形資産の評価・分配を「直接清算で扱わず、事業譲渡やM&Aの対価に織り込む」方法が現実的とされています。法人としてのクライアント契約や従業員の雇用関係を含めて譲渡すれば、営業権的価値は買収代金として顕在化し、税務上も整理可能です。清算に際しては、単純に純資産評価額のみで残余財産を処理するのか、あるいは会計上「のれん」として把握すべきかを慎重に分け、適した出口で回収できるよう準備しておくことが、税理士法人に特有の無形資産リスク管理の要点といえます。



 税理士法人の出口には大きく分けて「解散・清算」「持分譲渡」「M&A」「合併」といった選択肢があります。なかでも事務所経営者にとって悩ましいのが「解散するか、事業譲渡で存続価値を残すか」です。


 解散・清算はシンプルですが、残余財産の分配に課税上の問題が発生しやすく、顧問契約・従業員雇用など“関係資産”を整理する過程で大きな労力を要します。加えて、長年培ったブランド力や顧客基盤といった無形資産は清算過程で回収されず、事実上消滅してしまいます。一方、事業譲渡やM&Aを選択すれば、営業権的価値を対価として取得でき、クライアントとの契約・従業員の雇用維持もスムーズに行える余地があります。


 ただし、M&Aの場合、売却代金が発生し、その配分や社員退職金の扱いをめぐり内部調整が必要になります。また、雇用確保を前提条件とした「一定期間の在籍義務」を課せられる場合もあり、法的拘束力の弱さと実務負担の大きさの間で調整が求められます。


 リスクを最小化するためには、自身の税理士法人が「清算型リスク」(課税問題、顧問先離脱)を回避したいのか、「譲渡型リスク」(売却代金配分、残務負担)を管理可能とするのかを早期に判断することが重要です。後継者不在の場合にはM&Aや事業譲渡、既に内部承継者がいる場合には持分譲渡・退職金支給型のスキームを組み合わせるなど、税理士法人の状況に応じた出口戦略を検討しておく必要があります。



 税理士法人の解散・清算・退出には、表面的には制度通りの流れが存在しているものの、実務に落とし込む際には大きなリスクを伴います。突然の社員減による制度的強制解散、持分払戻請求権の評価をめぐるトラブル、退職金の妥当性をめぐる税務リスク、さらに顧客基盤やブランドといった“見えない価値”が消滅してしまう危険性は、いずれも重要な争点です。


 そのなかで、事前に定款で評価基準や退出条件を明確に定めておくこと、覚書などで内部の責任歪みを是正しておくこと、さらには「清算」と「事業譲渡・M&A」の出口選択を早めに検討しておくことが、リスクを避ける実務対応になります。


 最終的に、税理士法人の出口設計は単なる制度理解にとどまらず、法務・税務・経営の多層的な問題が交錯する領域です。早期準備と専門家連携により、自法人の特徴に最適化した出口戦略を策定することが、清算・退出時トラブル防止と法人価値最大化の鍵となるでしょう。


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