税理士事務所のM&Aにおける所長の不安と心構え
- 小杉 啓太

- 8月25日
- 読了時間: 7分
税理士の所長の中には、M&Aが「自分には関係ない」「まだ早い」と感じる方も多いかもしれません。しかし、少子高齢化や業界の構造的変化が急速に進む今、事務所の将来を真剣に考える適切な時期に来ていることは紛れもない事実です。長年にわたり築き上げてきた顧問先との信頼関係や職員の雇用、そして自身のこれからのキャリアを守りつつ、円滑に事務所を承継させるための手段として、M&Aは重要な選択肢の一つとなっています。
税理士事務所の経営は、所長として積み重ねてきた日々の努力や顧問先・職員との信頼関係によって支えられています。その一方で、時代の変化や事務所運営の将来を見据えたとき、「M&A」という選択肢に関心を持つ方も年々増えてきました。しかし、M&Aと聞くと未知への不安や後ろめたさ、そして決断への戸惑いを感じる方が多いのも事実です。「税理士としての誇りや責任をどう守るか」「これまで築いてきた関係性や評価が失われるのではないか」「自分の想いとは裏腹に周囲にどのように受け止められるのか」という心の葛藤は、多くの所長に共通する悩みといえます。
本記事では、まず税理士事務所の所長がM&Aに対して抱きやすい心理的な不安やその背景を丁寧に探り、次にその不安を和らげるための具体的なアプローチを解説します。
税理士事務所の所長として長年経営に携わってきた方々が、M&Aという選択肢を前に抱える心理的な負担は計り知れないものがあります。多くの税理士が、「後ろめたさ」や漠然とした不安を抱いているのではないでしょうか。特に、長年顧問として付き合ってきたお客様との信頼関係が崩れてしまうのではないか、職員の雇用や処遇に悪影響を及ぼすのではないかという懸念、自分自身への評価が下がるのではないかという心理的障壁、そして経済的な面での不安も感じることでしょう。
しかし、実際にM&Aを経験した税理士からは、「最初は事務所を手放すことに抵抗がありましたが、今では顧問先にも喜ばれ、自分自身も新たな挑戦ができています。M&Aは終わりではなく、新しい始まりでした。」という前向きな声も聞かれます。これは事務所のM&Aが「失敗」や「ネガティブな出来事」ではなく、むしろ所長自身の長年の経営努力が評価された証であることを示しています。
税理士としての責任感が強い方ほど、自分が築き上げてきた顧問先との関係性や職員への責任感が重荷になり、心理的な負担が大きくなりがちです。しかし、税理士事務所のM&Aは社会的にも認められた戦略的な選択肢であり、自らの事業の成功を第三者に評価してもらう貴重な機会でもあります。
M&Aを検討するにあたり、所長が抱く不安や懸念はごく自然な感情です。特に、未知の領域であるM&Aへの恐れは誰にでもあるものです。しかし、これらの不安は適切な情報収集と計画的な準備によって軽減することが可能です。
具体的なアプローチとして、まず「情報収集」が挙げられます。M&Aの成功事例や具体的なプロセスを学び、他の税理士がどのように取り組んできたかを理解することで、漠然とした不安を具体的な課題に置き換えることができます。また、早い段階で専門家に相談することも大切です。税理士として会計や税務には精通していても、M&A特有の手続きや契約などは専門家の助けを借りることで、安心して取り組めるでしょう。
さらに、「段階的なアプローチ」を採用し、一度に全てを決めるのではなく、段階ごとに状況を整理しながら進めることで心理的負担を軽減できます。また、所長自身がM&Aを通じて何を実現したいのかを明確にし、「目標の明確化」を図ることも重要です。親族内承継や事務所内承継が唯一の正しい方法ではなく、現代においては最適な承継先を見つけることこそが「正しい選択」とされています。
事業は個人の財産だけでなく、社会的な存在として継続して価値を提供する役割を担っています。M&Aは決して最後の手段ではなく、戦略的に事務所を次の段階へ引き上げるための有効な手法です。
税理士事務所のM&Aは所長だけでなく、職員や顧問先にも大きな影響を与えるものです。そのため、職員や顧問先の立場から考えることも重要です。特に、税理士1人体制の事務所では、所長が突然働けなくなった場合の職員の雇用不安や顧問先のサービス継続の不安が生じます。職員にとっては、新しい環境への不安や待遇面の懸念がありますが、M&Aを通じて安定的な雇用環境が提供されることで、むしろ安心を感じることができるでしょう。
また、顧問先の視点では、所長の引退や健康問題で突然顧問税理士が変わることへの抵抗感が強くあります。新たな税理士との関係構築には時間と手間がかかりますが、M&Aを通じて所長が円滑に引き継ぎを進めれば、サービスの継続性が保たれ、顧問先の安心感が高まります。
つまり、M&Aは所長にとっての負担を軽減するだけでなく、職員や顧問先にとっても将来的な安定を提供できる有益な選択肢なのです。
税理士事務所のM&Aに関して不安や迷いを感じるのは、ごく自然なことです。特に、これまで経験したことがない分野に一歩踏み出すのは、どなたでも躊躇するものです。その際に大切なのは、「一人で抱え込まない」ことです。何から始めていいか分からない、M&Aの流れや準備が漠然としている、理想の条件が言葉にできない、そうした悩みも、専門家と相談しながら一つひとつ整理していけます。
M&A仲介会社や専門家に相談することで、所長の想いを丁寧にヒアリングし、希望や条件を具体的に明確化する手助けが受けられます。また、事務所の強みや評価ポイントも第三者の視点から整理してもらえ、最適な進め方やタイミングについても具体的なアドバイスがもらえます。これにより、初期段階から着実な準備ができるため、その後の交渉や承継プロセスもスムーズになります。
加えて、経験豊富な専門家を頼ることで、複雑な手続きや交渉も最適な方法で進められ、煩雑さや心理的負担を大きく軽減できます。ただし、M&Aの専門家といっても誰でもよいわけではありません。これまでに税理士事務所のM&A実績が豊富な仲介会社やアドバイザーをしっかり見極めて選ぶことが、成功のポイントになります。経験や専門性、取り組んできた案件数やサポート体制なども比較し、自分にとって最も信頼できるパートナーを見つけましょう。
早い段階での相談が、納得できるM&Aの実現につながります。大切な事務所とご自身の未来を守るためにも、ぜひじっくりと専門家との対話に時間をかけてください。
税理士事務所のM&Aは、所長自身だけの問題ではなく、職員や顧問先、そして地域社会にまで影響を及ぼす大きなテーマです。M&Aという選択にはどうしても不安や迷いがつきまといますが、それは決して悪いことではありません。その不安は、責任感や所長としての誇りがあるからこそ生まれるものです。
しかし、正しい情報収集と丁寧な準備、そして信頼できる専門家との連携によって、その不安は必ず和らぎます。M&Aを自分自身や事務所の「終わり」としてではなく、これまで築いてきた信頼や価値を次世代につなぐ「新たなスタート」として考えてみてください。職員や顧問先の未来の安心のため、そして自身の人生のためにも、M&Aという選択肢を前向きに検討しましょう。
もし迷いや疑問があれば、まずは実績ある専門家に、気軽に相談してみることをおすすめします。それが、税理士事務所のより良い未来と、所長ご自身の満足度につながる第一歩となるはずです。
KACHIELでは、買い手・売り手いずれの立場にも立ち、当事者目線での支援を行っております。少しでも不安を感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。無理に進めることは決してありません。あなたの想いに寄り添い、誠実に向き合います。





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