税理士事務所の事業譲渡を検討する人ってどんな人?
- 小杉 啓太

- 5月1日
- 読了時間: 7分
更新日:5月1日
税理士事務所の所長にとって、事業譲渡を検討する理由はさまざまです。事業譲渡は、単に事務所を売却するという意味だけではなく、自身のライフスタイルや将来のビジョンに応じた選択肢として重要な意味を持ちます。この記事では、事業譲渡を検討する税理士事務所の所長が抱える様々な背景と、それに基づく選択肢について考えていきます。
1.どんな人が事業譲渡を考えるの?
税理士事務所の所長が「事業譲渡」を考える理由は、決して一つではありません。代表的なものとしては、高齢化や後継者不在による引退の準備、健康面の問題、そして経営者からプレイヤーへ戻りたいという思いなどが挙げられます。また、税理士以外の新しい分野に挑戦したい、人生の次のステージに進みたいという前向きな理由も近年増えています。
税理士事務所は、所長の存在が大きく、廃業という選択をしてしまうと、長年一緒に働いてきた職員や顧問先が困ってしまうことが多々あります。顧問先にとって税理士は単なる外部の専門家ではなく、長い信頼関係で結ばれたパートナーです。突然の廃業は、顧問先の経営にも大きな影響を与えかねません。こうした背景から、廃業ではなく「事業譲渡」を選択する税理士が増えています。
事業譲渡を選ぶことで、これまで築き上げてきた事務所の信頼や、職員の雇用、顧問先との関係を維持できる可能性が高まります。もちろん、事業譲渡には不安や課題もありますが、廃業に伴う全てを失うリスクに比べれば、はるかに前向きな選択肢と言えるでしょう。
今この記事を読んでいる税理士事務所の所長の皆さまの中にも、「自分にも当てはまるかもしれない」と感じる方がいるのではないでしょうか。日々の業務の中で「このまま自分がいなくなったらどうなるだろう?」と考えたことはありませんか?事業譲渡は決して特別なことではなく、そうした不安を解消し、事務所や顧問先、職員の未来を守るための選択肢なのです。
2.後継者不在による引退の準備
税理士事務所の事業譲渡を検討する理由で最も多いのが、「後継者不在による引退の準備」です。税理士業界では高齢化が進んでおり、日本税理士会連合会の調査によると、2014年時点で60歳以上の税理士が全体の54%を超えていました。2025年現在、この割合はさらに増加していると考えられます。
税理士事務所は、資格を持つ税理士がいなければ事務所そのものを存続させることができません。親族や職員の中に後継者がいない場合、廃業せざるを得ないケースも多いのが現状です。しかし、廃業すれば顧問先や職員が路頭に迷うことになります。そこで、事業譲渡という選択肢が現実的な解決策として注目されています。
実際の事例として、長年勤務した後継者候補が突然退職したことで、思いがけず事業譲渡を決断したケースや、親族内承継が叶わずM&Aによる事業譲渡に踏み切ったケースが報告されています。どちらも、顧問先や職員への影響を最小限に抑えることを最優先に進められています。
また、「生涯現役でいたい」と考えていても、健康面の不安や体力の衰えは避けられません。高齢になってから慌てて後継者を探しても、なかなか見つからないことが多く、結果的に十分な引き継ぎができないまま廃業に追い込まれるリスクもあります。だからこそ、「まだ元気なうちに」「事務所が健全なうちに」早めの準備が重要です。
税理士事務所の事業譲渡は、所長自身だけでなく、職員や顧問先、家族の将来を守るための大切な選択肢です。後継者不在に悩んでいるなら、早めに事業譲渡の準備を始めることをおすすめします。
3.経営者からプレイヤーになりたい
経営者としての責任やプレッシャーは、想像以上に大きいものです。税理士事務所の所長は、単に税理士業務をこなすだけでなく、採用・教育・人事評価・経営判断など、多岐にわたる業務を担っています。特に近年は、職員の多様な働き方や価値観に対応する必要もあり、コミュニケーションやマネジメントの難しさも増しています。
税理士事務所を立ち上げた、あるいは引き継いだ所長の中には、「経営者」としての役割に疲れを感じている方も少なくありません。もともと税理士としてお客様と直接向き合いたかったのに、気づけば経営や人事、トラブル対応に追われる毎日。「もっと一人の税理士として、お客様のために価値を提供したい」と考えるのは自然なことです。
職員とのトラブルや、経営そのものが自分に向いていないと感じたとき、思い切って経営から離れ、再び「プレイヤー」としての道を歩みたいという希望が芽生えます。事業譲渡は、こうした思いを実現するための有効な手段です。
事業譲渡によって経営の重圧から解放されると、精神的・身体的な負担が大きく軽減されます。時間やエネルギーを本当にやりたい仕事に集中できるようになり、税理士としての新たなキャリアを築くことも可能です。たとえば、特定の分野に特化したコンサルティングや、スポット案件への対応など、より専門性を高める活動に注力できるようになります。
また、事業譲渡によって得た資金をもとに、新しいビジネスやプロジェクトに挑戦することもできます。経営者からプレイヤーへ、そしてさらにその先へ、税理士としての可能性は無限に広がっています。
4.税理士以外のことをやりたい
長年、税理士として事務所を経営してきたものの、「本当はもっと別の分野に挑戦したい」「税理士の枠を超えてお客様に新たな価値を提供したい」と考える所長も増えています。たとえば、経営コンサルティングや資産運用アドバイス、地域貢献活動など、税理士の知識や経験を活かしつつ、まったく新しい分野にチャレンジしたいという声も多く聞かれます。
また、「もう仕事は十分やりきった」「〇〇歳までには引退して、ゆっくりとした人生を送りたい」と考えるのも自然なことです。事業譲渡を選ぶことで、まとまった資金と自由な時間を手に入れ、家族との時間や趣味、学び直しなど、新たなステージに踏み出すことができます。その資金を活用して趣味や旅行、ボランティア活動に挑戦する方もおり、税理士事務所の経営から解放されることで、心身ともにリフレッシュし、人生を新たに楽しむことができるのです。
経営から解放されることで、精神的・肉体的な負担が軽減され、健康面の改善や生活の質の向上も期待できます。税理士としてのキャリアを十分に全うし、次の人生をより豊かに過ごしたい方にとって、事業譲渡は非常に有効な選択肢です。
5.まとめ
税理士事務所の事業譲渡を検討する理由は人それぞれですが、共通しているのは「廃業ではなく、事務所や顧問先、職員の未来を守るために事業譲渡を選ぶ」という思いです。事業譲渡を選ぶことで、これまで築いてきた信頼や実績を次世代に引き継ぎ、自分自身も新たな人生をスタートさせることができます。
もし、この記事を読んで「自分にも当てはまるかもしれない」と感じたなら、ぜひ早めに準備を始めてください。税理士事務所の事業譲渡は、所長だけでなく、職員や顧問先、家族の未来を守るための大切な選択肢です。早めの準備が、より良い結果につながります。
事業譲渡の準備は、思い立ったときが最適なタイミングです。早めに動き出すことで、より良い譲渡先を見つけやすくなり、顧問先や職員への影響も最小限に抑えられます。税理士事務所の所長として、最後まで責任を持って事務所の未来を考えることが、顧問先や職員への最大の恩返しとなるでしょう。
「税理士としてのキャリアをどう終えるか、そしてその先の人生をどう歩むか。」事業譲渡は、その大きな転機となるでしょう。今こそ、次の一歩を踏み出すタイミングかもしれません。



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