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税理士事務所のM&A、職員にはいつ伝えるべき?

  • 執筆者の写真: 大竹 邦明
    大竹 邦明
  • 6月20日
  • 読了時間: 7分

税理士として長年経営されてきた事務所を、次の世代へどうつなぐか。この問いは、60歳を超えた所長税理士の多くが直面する重要なテーマです。その中でも、「事務所をM&Aする」という選択を検討される方が増えています。


しかし、M&Aという言葉が示すとおり、「経営の移行」は事務所の在り方を大きく変えるものであり、特に職員への影響について悩まれる所長も少なくありません。「いつ職員に伝えるべきか?」「そもそも相談してよいのか?」といった声をよく耳にします。


本記事では、税理士事務所のM&Aに際し、職員への情報開示や相談のタイミングについて、よくある失敗例や実際の支援事例をもとに、具体的な考え方を紹介します。税理士としての責任感と、職員への誠実さのバランスをどう取るか、迷われている所長の方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。



【1.職員には最初から相談したほうがよい?】


税理士事務所のM&Aに関するご相談を受ける際、特にご高齢の所長税理士から「M&Aを検討する前に、まずは職員に相談すべきでしょうか?」という質問をいただくことがあります。


結論から言えば、このタイミングで職員に相談するのは絶対にNGです。


これは「隠し事をしたくない」「職員に誠実でいたい」というお気持ちからくる行動だとは思います。しかしながら、まだM&Aの内容が具体的に固まっていない段階で話をすれば、職員に不安を与えるだけで、何もプラスになりません。


なぜ「相談したい」と感じてしまうのか、その背景を見てみると、多くの場合「職員に申し訳ない」という思いがあります。自分が引退することで職員の働き方や待遇が変わってしまうかもしれない――そんな不安を抱えるのは、税理士事務所の所長として当然のことです。


しかし、もし仮に「申し訳ない」と思うような内容であれば、職員にとっても望ましくないことである可能性が高く、その答えは「M&Aには反対です」という一択になるでしょう。さらに、感情的な理由で反対されてしまえば、そこから事務所内の雰囲気が悪化し、M&Aどころか廃業に追い込まれてしまうこともあります。


また、職員の多くは「M&A=吸収=リストラ」といったネガティブなイメージを持っている場合があります。これは多くが誤解です。実際には、職員にとってもメリットのあるM&Aは数多くあります。給与や労働条件が改善されたり、成長機会が得られたりするケースも珍しくありません。


にもかかわらず、詳細もわからないまま中途半端に話をされれば、職員は不安しか感じません。「この事務所は売られるのか」と思われてしまえば、信頼関係が崩れ、優秀な職員ほど早めに転職活動を始めてしまう可能性があります。


税理士事務所のM&Aでは、所長の気遣いが逆効果になることがよくあります。職員を思うからこそ、安易に相談してはいけない。まずは、譲渡先候補がある程度決まり、条件面が明確になったタイミングで話すべきなのです。



【2.相談してもよい職員とは?】


とはいえ、「どうしても誰かに相談したい」「一人で決めるのは不安だ」という税理士の方もいらっしゃると思います。そのような場合には、例外的に「相談してもよい職員」がいます。


それは、開業時から支えてくれている、または10年以上在籍し、事務所経営の中心を担ってきた“経営幹部”のような存在の職員です。特に、年齢が50歳以下で、事務所全体の将来像を客観的に考えられる人物が該当します。


50歳以下という条件は一つの目安に過ぎませんが、一般的に新しいことや変化を受け入れる柔軟性が高く、冷静に状況を整理できる傾向があります。逆に60代の職員複数名に相談してしまい、感情的な反対に遭ってM&Aを断念した事例もあります。


相談してもよい職員の特徴としては、次の3点が挙げられます。

① M&A後、所長の代わりに事務所を任せていける存在であること

② 感情よりも理性で判断ができ、事務所全体の利益を優先できること

③ 口外せずに情報を守れる信頼があること

このような職員が一人でもいれば、M&Aの方針や相手先との交渉を進める中で、事務所内部の目線からも意見をもらえるため、非常に心強い存在となります。


ただし、あくまでも「絶対に情報を漏らさない」という条件付きで話をする必要があります。たった一人でも情報が外部に漏れれば、事務所全体に動揺が走り、M&A自体が失敗に終わる可能性もあるため、慎重な対応が不可欠です。


M&Aを成功させるためには、所長一人で進めるよりも、信頼できる職員を巻き込むことで、より現実的で実行可能なプランを作りやすくなります。ただし、その際には選定する職員を誤らないことが何よりも重要です。



【3.職員全員に伝えるタイミングと準備】


では、職員全員に対してM&Aの事実を伝える適切なタイミングはいつでしょうか?


結論から言えば、「M&A(譲渡日)から1〜2か月前」がベストタイミングです。これは、まだ実施前の段階ではあるものの、相手事務所や条件面などの詳細が固まっており、職員に対して明確な説明が可能なタイミングでもあるからです。


この時期までに準備すべきことは多岐にわたります。まず、相手事務所との間で職員の雇用条件(就業規則や個別労働契約、退職金制度など)について合意を形成しておくことが必要です。また、事務所の今後の運営方法や組織体制、使用する会計ソフト、顧問料の改定有無など、職員が不安に感じるであろう点を事前に精査し、職員向けに資料として整理しておくべきです。


情報開示の際には、ただ「M&Aします」と告げるだけでは不十分です。職員の目線で見れば、「自分の待遇はどうなるのか?」「これまでと何が変わるのか?」という疑問が当然生まれます。そうした疑問に対し、書面や説明資料をもって答える準備をしておくことが、所長としての誠意です。


また、いきなり文書を配るのではなく、まずは信頼関係のある相手税理士や幹部職員とともに、食事会などの非公式な顔合わせの場を設けることをお勧めします。このような場では、お互いの雰囲気を確認し合うことができ、職員も心理的なハードルを下げた状態で次の体制を受け入れやすくなります。


その後に改めて全体説明会を開き、文書や説明資料を使って一つ一つ丁寧に説明を行うことで、職員の理解と信頼を得ることが可能です。この段階で、すでに個別雇用条件通知書のドラフトが用意されていれば、職員一人一人が安心して自分の将来を考えることができます。


繰り返しますが、何の準備もなく、「M&Aが決まりました」とだけ伝えてしまうと、職員には“将来の保証がない”という印象を与え、不安が転職活動へと直結してしまう可能性があります。だからこそ、「準備」と「タイミング」はセットで考えることが何よりも重要なのです。



【4.まとめ】


税理士事務所のM&Aを進めるにあたり、職員への情報開示のタイミングと方法は、M&A成功の鍵を握る最重要要素の一つです。


最初の段階で職員に相談してしまうと、誤解や不安を生むだけで終わってしまいます。職員の将来を真剣に考えるのであれば、まずは所長自身が冷静に状況を見極め、しっかりとした準備を整えたうえで、情報を伝えるべきタイミングを見計らう必要があります。


どうしても相談したい場合には、信頼できる幹部職員に限り、口外しないことを前提に意見を求めることもできますが、それはあくまで例外的な判断です。


職員全体には、譲渡日から1〜2か月前に詳細資料とともに伝えることが最も効果的であり、安心感を与えたうえで新たな体制へ移行できる最善の方法です。何より、「本当に今までよりも良くなるのか?」という問いに答えられる材料を揃えておくことが大切です。


税理士として、そして経営者として、M&Aは単なる「出口戦略」ではなく、職員や顧問先の未来に責任を持つ選択でもあります。その責任を全うするためにも、計画的かつ丁寧な対応を忘れずに進めていきましょう。


KACHIELでは、税理士事務所のM&Aに関するご相談から、職員対応のアドバイス、譲渡条件の設計まで一貫してサポートしております。職員思いの所長先生にこそ、しっかりとしたM&Aの準備をしていただきたいと考えています。ぜひお気軽にご相談ください。



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