税理士事務所のM&A・仲介会社の選び方と報酬体系
- 菅原 良平

- 4月25日
- 読了時間: 6分
更新日:5月1日
税理士業界では今、「事務所の将来をどうするか」という問題に頭を悩ませる所長が増えています。特に、身内や職員に後継者がいない場合、「事務所を誰に、どうやって引き継ぐか」は避けて通れないテーマです。そうした中で注目されているのが、他の税理士や税理士法人に事業を譲り渡す“M&A”という選択肢です。
しかし、いざM&Aを進めようとしても、「どうやって相手を探すのか」「何から始めればいいのか」「報酬はどれくらいかかるのか」など、戸惑う場面は少なくありません。そこで重要になるのが、M&A仲介会社の存在です。適切なパートナー選びが、スムーズで後悔のない承継を実現する第一歩になります。
本記事では、税理士事務所のM&Aにおいて、仲介会社を利用するメリットや選び方、報酬体系の種類、そして所長自身が準備しておくべきことについて、わかりやすく解説していきます。これからM&Aを検討する所長の方にとって、実務に直結するヒントをお届けします。

1.なぜM&A仲介会社を利用するのか?
税理士事務所を運営していると、いつかは「この事務所をどう終わらせるか、または引き継ぐか」という問題に向き合う日が来ます。特に近年では、後継者がいない、子どもが他業種に進んだ、職員に継がせるのも難しい、という事情を抱える所長が増えています。そんな背景から、「M&A」という選択肢が現実味を帯びてきています。
M&Aという言葉は耳慣れないかもしれませんが、簡単に言えば「事務所の事業を他の税理士事務所に引き継ぐこと」です。所長の引退前に顧問先や職員、事務所そのものを譲渡することで、所長も安心してリタイアでき、相手にとっても即戦力となる事業を獲得できるという、双方にとってメリットのある仕組みです。
しかし、問題は「どうやって相手を探すのか」ということです。知り合いの税理士に声をかけるにしても、タイミングや条件が合わなければ話が進みません。そもそも、M&Aの手続きや契約内容、価格の設定などは専門的な知識が必要で、独力で進めるのはかなりの負担です。
ここで登場するのが「M&A仲介会社」です。仲介会社は、譲渡を希望する税理士事務所と、譲り受けたい税理士事務所の間に立ち、条件のすり合わせやスケジュール管理、契約の支援までを行ってくれます。まさに橋渡し役としての存在です。特に税理士事務所のように、顧問契約をベースとした信頼ビジネスにおいては、単なる金銭のやり取り以上に、相性や経営姿勢の一致が重要になります。その点、仲介会社のネットワークを活用することで、自分では見つけられない理想的な相手に出会える可能性が広がります。
M&A仲介会社を活用することで、事務所の価値を正しく評価し、スムーズな承継が可能になります。大切に育ててきた税理士事務所を、次の世代へつなぐ手段として、仲介会社の活用はとても現実的かつ有効な手段といえるでしょう。
2.仲介会社を選ぶときに確認すべきポイント
税理士事務所のM&Aを成功に導くために、もっとも重要な要素の一つが「仲介会社選び」です。いくら良い譲渡先が見つかっても、仲介会社のサポートが不十分であれば交渉は頓挫しかねません。だからこそ、税理士事務所の所長が最初に真剣に向き合うべきなのが、仲介会社の選定なのです。
まず確認したいのは、「税理士業界に特化しているか、または実績があるか」という点です。税理士事務所は一般企業とは違い、顧問先との関係や職員の働き方、業務内容が非常に専門的です。そのため、業界理解が浅い仲介会社では、ミスマッチな相手を紹介されてしまうリスクも高まります。過去にどれくらいの税理士事務所のM&Aを手がけたか、また、成功事例を公開しているかを確認しておきましょう。
次に、「サポート体制」が整っているかも重要です。M&Aは一度始まると、数か月から1年ほどの期間がかかる場合もあります。その中で、担当者がどれだけ寄り添って対応してくれるかが、精神的な安心感にもつながります。大手か中小かに関係なく、担当者の対応力、人間的な信頼性は重要視したいポイントです。
また、「報酬体系の明確さ」や「契約の透明性」も見落とせません。契約書を交わす前にしっかりと説明してくれるか、不明点があれば丁寧に答えてくれるかなど、初期対応からその会社の姿勢が見えてくるものです。
税理士事務所のM&Aは、一度きりの大きな意思決定です。納得できる相手と組むためにも、「実績・人・契約内容」の3つを軸に、仲介会社をしっかり見極めましょう。
3.報酬体系の種類と注意点
M&A仲介会社に支払う報酬については、あらかじめしっかり理解しておくことが重要です。「安いから良い」「高いから安心」というわけではありません。大切なのは、報酬とサービス内容が見合っているか、そしてリスクのバランスが取れているかどうかです。
仲介会社の報酬体系には主に次の3つがありますが、実際の現場ではこれらが組み合わされて設定されるケースも少なくありません。
なお、これらの体系は組み合わせて運用されることが一般的で、たとえば「着手金+成功報酬」や「中間報酬+成功報酬」など、契約によってさまざまな形が取られます。
報酬の金額だけでなく、「何に対して」「どこまでサポートしてくれるのか」も含めて確認しておくことが重要です。特に税理士事務所のM&Aでは、契約後の引き継ぎ期間や職員のフォローなど、金額に表れにくいサービスも重視したいポイントです。
4.成功するために所長がやっておくべきこと
税理士事務所のM&Aを円滑に進めるためには、仲介会社任せにせず、所長自身が積極的に準備を進めることが不可欠です。ここでは、成功に向けて所長が取り組むべき具体的なアクションをご紹介します。
税理士事務所のM&Aは、事業承継であると同時に、人生の転機でもあります。所長としての集大成ともいえるこのプロセスを、後悔のないものにするためにも、事前準備を怠らないことが最大の成功要因といえるでしょう。
5.まとめ
税理士事務所のM&Aは、近年ますます一般的になってきています。決して特別なことではなく、「事業を次につなぐ選択肢の一つ」として自然に受け入れられる時代が到来しています。成功の鍵は、「信頼できる仲介会社を選び」、「納得できる報酬体系を理解し」、「自分自身が納得のいく準備をする」ことに尽きます。税理士事務所という独自性の強いビジネスを円満に承継するためには、想いと戦略の両方が必要です。
これから先、税理士事務所のM&Aを考える所長はますます増えるでしょう。ぜひ本記事を参考に、後悔のない一歩を踏み出していただければと思います。





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