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税理士事務所M&A後の譲渡側の所長の役割と働き方の選択肢

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 1 日前
  • 読了時間: 7分

更新日:1 日前


 ここ数年、税理士事務所のM&Aが全国的に増えています。後継者不足や職員の採用難を背景に、「今のうちに次の担い手を探したい」と考える税理士が増えているのです。その一方で、「M&Aをしたらすぐに引退しなければならない」と誤解している先生も少なくありません


 実際には、M&A後も譲渡側の所長が税理士として長く活躍するケースが非常に多くなっています。承継先の事務所からも「少なくとも1年以上は残っていただきたい」と依頼されるのが一般的で、むしろ引退を引き止められることすらあります。理由は明確です。顧問先は長年付き合ってきた税理士に対する信頼が深く、急な交代には不安を覚えます。そこで、譲渡側の所長が引き続き事務所に残ることで、顧問先の安心感を守り、スムーズな承継を実現できるのです。


 さらに、この形は職員にとっても大きな安心材料になります。長年一緒に働いてきた所長が引き続き在籍していることで、突然の環境変化に戸惑うことなく、新しい体制に馴染みやすくなります。職員にとって、引き続き相談できる存在がいることは心強く、業務の質や士気の維持にもつながります。結果的に、職員が安心して働ける環境が整うことは、顧問先へのサービス品質の向上にも寄与します。


 現場では、「これまで通り顧問先対応をお願いします。それ以外のことは自由にしていただいて構いません」との立場で迎えられることが多く、実質的に業務の自主性は高いままです。一定期間現役を続けながら、徐々に業務を整理していく流れこそ、税理士としても、顧問先・職員にとっても理想的な承継と言えるでしょう。



 譲渡後の一般的な形が「社員税理士」として残る選択です。社員税理士とは、法人の社員として引き続き関与する立場であり、税理士としての存在感を保ちつつ、新体制のもとで仕事を継続できます。特に、事務所拠点をそのまま継続する場合、譲渡後も現地責任者(支店長)として残ってもらうことが多く、実質的に“地域の顔”としての信頼を守る役割を担うことになります。


 社員税理士としての出資はごくわずか、設備などの現物出資でも問題ない場合が大半です。役員報酬の設定は、現在の営業利益を基準とし、70~80%を目安に調整されることが多いです。もちろん、引退に近づく中で役割が減れば報酬も柔軟に減額されますが、それも事前に協議して納得のうえで決められます。


 この働き方のメリットは、税理士としての誇りを保ちながら、無理なく現役を続けられるです。顧問先との関係も維持でき、スタッフも心強い支えを得られるため、事務所全体の士気が保たれます。


 一方で、M&A後にはこれまでとの変化もあります。経営の最終判断は、承継先の事務所の代表や他の社員税理士と話し合いながら決めていくことになります。以前のように単独で判断することは減るかもしれませんが、その分、組織としての一体感や相互理解が深まる機会にもなります。新しい体制の中で協働しながら進めることで、より多角的な発想や業務改善のきっかけが生まれることも多く、良い意味での“経営の転換期”として受け止める方が増えています。


 重要なのは、事業譲渡契約の段階で「どこまで経営に関与するか」「引退のタイミングをどう定めるか」を明確にすることです。しっかり線引きをすることで、譲渡後もトラブルなく、税理士としての立場を安定的に保てます。



 もちろん、社員税理士以外にも多様な働き方があります。たとえば、経営から離れて自分のペースで仕事をしたい税理士には、「所属税理士」という形もあります。所属税理士であれば、経営判断や人員管理といったプレッシャーから解放され、目の前の顧問先業務や専門業務に集中できます。「もう事務所運営はしたくないけれど、税理士としてはまだまだ顧問先に貢献したい」という所長には、この形がもっとも自然です。


 また、顧問として残る方法もあります。顧問であれば、承継先の経営陣に対して助言する立場を保ちながら、事務所運営そのものには関与せずに済みます。現場指導や相談対応、紹介案件などを通じて事務所の成長を支援できるため、「実務引退後も業界に関わりたい」と考える税理士に向いています


 特に、高齢の税理士や「今後はもう少し緩やかに関与したい」と考える先生にとっては、顧問という形が非常に相性が良い選択肢です。フルタイム勤務の負担を減らしつつ、長年培った経験を承継先に還元できるため、無理なく“生涯現役”を実現できます。業界とのつながりを保ちながら、ペースを調整できる点も大きな魅力です。


 この形態は、譲渡対価の支払い方法にも柔軟性をもたらします。たとえば、譲渡対価を分割で受け取る仕組みにすれば、税理士としても安定的な収入を維持でき、承継先にとってもキャッシュフローの負担を軽減できます。また、仕事とプライベートのバランスをとりながら、徐々に引退へシフトできる点も魅力です。


 つまり、「社員税理士」も「所属税理士」も「顧問」も、それぞれのライフステージに応じて選べる選択肢です。税理士としての肩書を失うことなく、引退を自分のペースで迎える時代。これからの税理士事務所M&Aでは、こうした多様な“働き方設計”こそが成功の鍵を握ります。



 譲渡が成立した後のキャリア設計を軽視してはいけません。税理士としての“第二の人生”をどう描くかによって、M&Aの満足度は大きく変わります。多くの失敗は、契約前に「引退後どう過ごしたいのか」を明確にしていないことに起因します。形式的に譲渡したものの、引退後の生活が物足りない、やりがいを失ってしまう、そうした声は決して珍しくありません。成功する事例の多くは、譲渡側の所長が「引退後の自分」を具体的に思い描いています。


 また、キャリアの活かし方は事務所だけに限りません。セミナー講師、執筆活動、事業承継のアドバイザーなど、税理士としての経験を活かせるフィールドは広がっています。譲渡を「終わり」と捉えるのではなく「新しいステージへの移行」と考えれば、より充実したキャリアを築くことができます。


 一方で、精神的な切り替えも重要です。長年、経営者として事務所を率いてきた税理士にとって、M&A後は一定の喪失感を伴います。しかし、次世代へのバトンタッチを使命と捉えれば、その経験自体が後進育成や地域支援に活かされていきます。“譲渡=退くこと”ではなく、“芽を継ぐこと”。そう考えるだけで譲渡後の世界が変わって見えるはずです。



 税理士事務所のM&Aは、単なる経営上の取引ではなく、税理士として積み上げてきた人生の節目です。事務所を次世代に譲り渡すという行為は、ひとつの引退のようでもありますが、その後のキャリアをどのように描くかによって、まったく違う意味を持つものになります。


 税理士としての経験や信頼、顧問先との関係は、譲渡と同時に失われるものではありません。むしろ、承継先に引き継がれた後もその価値は生き続け、税理士業界全体を支える力になります。承継先の事務所も「すぐに完全引退してほしい」とは望んでいません。多くの場合、「引退せずに、少しでも長く残って欲しい」といった声が寄せられます。


つまり、「M&A=終わり」ではなく、「M&A=新しい始まり」。譲渡側の所長が、これまでの経験を次世代に伝えつつ、自分らしい形式で働き方を再構築していくことが、これからの承継の理想形です。社員税理士として経営に緩やかに関わる、所属税理士として現場で力を発揮する、顧問として外から支援する、どの形にも価値があります。


 また、引退を計画的に進めることで、心の余裕が生まれます。税理士として一時代を築いた所長が安心して次のステージに向かう姿は、職員や後継者にも良い影響を与えます。M&Aは「活動を終えること」ではなく、「新しい貢献の形を選ぶこと」。これからは、税理士という職業の柔軟性を活かし、自分らしい生涯現役の道を歩む時代です。


 税理士事務所のM&Aを検討する際には、「誰に譲るか」だけでなく、「その後どう生きるか」までを含めた設計をぜひ意識してください。税理士として培った経験は、必ず次のステージでも活かせます。引退という言葉に縛られず、税理士としての新しい人生を前向きに描くこと、それが、税理士事務所のM&Aの成功の鍵です。



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