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60代から本気で考える“税理士事務所の未来”

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 2025年11月21日
  • 読了時間: 6分

更新日:2025年11月21日


 税理士の皆様が「自分の引退後」「事務所の未来」を真剣に見つめ直すべき“適齢期”とはいつでしょうか。現場での支援実績から確信するのは、50代や60代前半の税理士が事業承継やM&Aを意識し始め行動を起こすケースが顕著に増えていることです。国税庁や税理士会の統計でも、全国の税理士所長は70代・80代と高齢化が進行していますが、実際にM&Aや承継の相談に踏み出しやすいのは、まだ体力・気力・人的ネットワークも活発な60代前半なのです。


 現実的には、地方の税理士事務所の場合、「若い後継者候補がおらず、職員の採用も困難」「有資格者確保ができない」「自分の健康が不安」といった悩みを抱える税理士が多くいます。こうした現状に対し、多くの税理士が“自分が元気なうち”に承継パートナーを探し、顧問先・職員・地域社会に安心感を与えたいと考えています。M&Aを考える税理士の目的は「譲渡対価」以上に、自分がいなくなった際の事務所存続や職員・顧問先の継続支援にあり、責任感・倫理観から積極的に準備する傾向が強まっています


 また、都市部の事務所でも、税理士自身の高齢化や専門分野の細分化によるスキルの限界意識が追い風となり、戦略的な事業パートナー選定や、法人化・統合による競争力強化ニーズが高まっています。従来型の「引退直前に売却し、利益を得て完全に身を引く」という考え方から、「組織を残し、未来へつなぐ」「現役としてしばらく継続する」形への意識転換が生まれつつあります。税理士という専門職の社会的使命感こそ、事業承継を早期決断するモチベーションなのです。



 税理士事務所の価値とは何でしょうか。収益規模や純資産といった財務情報も重要ですが、税理士事務所ならではの業務継続性・地域信頼・職員のノウハウなど“無形価値”は譲渡やM&A時に評価へ最も大きく影響します。事前の準備なくして、事務所の本質的価値は半減してしまうのが現実です。


 承継・M&A準備の初動では、所長が「自分の強み・事務所の特徴」「どの顧問先がどの税理士・職員に担当されているか」「職員の年齢構成やスキル、リーダー層の有無」「機密管理体制・情報システムの状況」などを可視化し、整理・一覧化することが重要です。属人化が進みすぎていれば「誰が辞めたら困るか、どの業務がブラックボックスになっているか」もリストアップし、対策案を準備しておくべきです。


 また、就業規則や退職金規程、会計ソフトの構成、顧問契約まで整理して、第三者にも理解しやすい状態で資料化する必要があります。税理士法人・個人事務所・会計法人それぞれの「承継スキーム」に応じた手続きや、税理士法人の場合は持分譲渡・出資の詳細ルールも専門家支援のもとで早めに検討しましょう。特に、税理士として引き続き関与を希望する場合には役員報酬及び業務範囲の詳細条件も必ず整理しておくべきです。


 個人事務所では譲渡先事務所への転籍にあたり、譲渡後すぐに廃業手続や税理士会登録変更も必須項目となるため、M&A後のキャリアパスや引退後の資金についても実行プランを練ることが失敗防止につながります。税理士の信頼や顧問先との絆、職員のモチベーションを大切に“承継価値”を最大化したい場合こそ、徹底した準備が不可欠です。



 税理士事務所のM&A実行後、もっとも重要なのは新旧体制の徹底した引継ぎです。税理士業界においては、とくに顧問先や職員の信頼関係を維持しながらスムーズな移行を図るため、譲渡後に少なくとも5年程度は旧所長が現役として在籍し続けるのが理想といわれています。短期間で退任してしまうと「信頼の空白期間」が生じ、顧客離脱や職員の不安増大につながるリスクが高まるためです。一定期間の現役続行期間を確保することで、顧問契約の名義変更や担当者引継ぎ、職員組織の権限移譲、業務フローや会計システムの統一等、あらゆる融合が丁寧に進められます。


 また、税理士M&Aにおいては、「在籍しながら徐々に譲渡対価を役員報酬や退職金として受け取る」スキームが一般的です。とくに5年勤続を満たせば退職金に対して退職所得控除が活用できるため、税務上も極めて有利です。つまり、所長が譲渡後も社員税理士や顧問として残り、役員報酬を受け取り続け、退職時には退職金として一括受領することで、より多くの手取り資金を確保できる仕組みです。これは短期間でM&Aの対価を一時所得として受けるケースと比べ、税率面の優遇が明らかです。


 譲渡後も現役続行しながら、丁寧な引継ぎ・信頼の担保・税務メリットの三拍子を実現することこそが、現場で最も支持されている“理想的な税理士M&Aの設計図”といえるでしょう。



 税理士事務所のM&Aにおける最大のリスクは「人」によるものです。多くの失敗事例で「事務所売却後に職員が一斉退職してしまった」「顧問先が激減した」「所長税理士が譲渡に非協力的だった」など、制度や契約より優先すべき“現場感覚”が欠落していたことが原因となっています。


 特に税理士業界では、所長への信頼が事務所全体の信頼感の源です。急な譲渡の発表や、職員への事前説明の欠如、役割分担の曖昧さは致命的なダメージを招きます。典型例として、契約締結前夜に全従業員が辞表を出した、承継直後に売上が半減した等があります。


 こうした失敗を繰り返さないためには、成功事例で共通する「事前コミュニケーション」「ステップごとの顔合わせ」「職員の公平な扱い」の徹底が不可欠です。約2か月前から交流会や説明会を実施、職員から疑問や不安を拾い上げ、全員が新体制の“仲間意識”を持てるように導く姿勢が求められます。


 税理士事務所は人の力で成り立つ専門職集団です。制度や契約だけではなく、「信頼」「愛」「誠意」をベースとした人的資産の承継こそが、M&A成功の絶対条件です。税理士自身がその重要性を強く意識し、仲間と未来を共創する志こそが税理士事務所のM&Aの成功の鍵となるでしょう。



 税理士事務所の未来を想うとき、所長には“やめない勇気”と“責任感”がより重要になります。税理士自身の引退や事務所運営に不安を抱えたとき、一番良くないのは「何もせず様子見する」ことです。時代は既に、積極的な承継・M&A推進へと移っています。承継・M&Aを進めた税理士からは「経営のプレッシャーが軽減し、仲間と支え合える新たな安心感が持てた」「税理士個人の枠にとどまらず、質の高い税務サービスを広域展開できるようになった」という成功の声が数多く届いています。


 また、税理士にとってM&Aは単なる出口戦略ではありません。働き続けたい税理士が希望に応じて現役として残れる体制、承継後の待遇面・役割分担、職員や顧問先へのメリット提示、地域社会への継続的貢献――こうした要素を踏まえた新しい事務所運営こそ、現代的な“税理士の使命”といえるでしょう。


 税理士業界は大きな転換点に立っています。M&Aや事業承継の正しい知識、現場で培われたノウハウを活かし、事務所の将来像や業界の成長イメージを自ら描き出せる税理士の登場が待たれます。自分の未来、職員の未来、顧問先の未来を真剣に考え抜き、今こそ行動すべきです。所長の決断と勇気ある一歩が、新しい事業承継のモデルとなり、次世代の税理士業界に新たな価値と希望をもたらしていくことでしょう。



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