税理士事務所のM&A、譲渡したらサラリーマンになる?ならない?
- 小杉 啓太

- 5月23日
- 読了時間: 7分
更新日:5月23日
1.現役続行前提のM&Aが増えている
近年、税理士業界でも「M&A」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。かつて税理士事務所の承継といえば、親族や所内の職員、あるいは知り合いの税理士へのバトンタッチが主流でした。しかし、少子高齢化や若手税理士の減少、事務所の規模拡大・多様化などが進む中、従来の方法では円滑な承継が難しくなっています。そのため、外部の税理士事務所や会計事務所とのM&Aが、事業承継の有力な選択肢として急速に広がっています。税理士事務所のM&Aは、単なる「事務所の売却」や「引退のための手段」ではなく、事務所の存続と成長、顧問先や職員の将来を守るための戦略的な選択肢となっています。
税理士事務所のM&Aというと、「譲渡=すぐに引退しなければならない」と思い込んでいる方が多いのが実情です。しかし、これは大きな誤解です。実際には、譲受側の税理士事務所も「現所長には最低でも1年以上、場合によっては生涯現役でいてほしい」と考えているケースがほとんどです。
なぜなら、税理士事務所の信頼関係は一朝一夕に築けるものではないからです。長年にわたり現所長が顧問先や職員と築いてきた信頼やノウハウは、事務所の最も大きな財産です。M&A直後に所長が引退してしまうと、顧問先や職員が不安を感じ、最悪の場合は顧問契約の解約やスタッフの退職といった事態を招きかねません。そのため、譲受側の税理士事務所は、現所長に引き続き現役で事務所を運営してもらい、緩やかに引継ぎを進めていくことを強く望んでいます。現所長が現役を続けることで、顧問先や職員の不安を和らげ、事務所の安定運営が図れるからです。
現役続行型のM&Aには、譲渡側・譲受側の双方に多くのメリットがあります。譲渡側である現所長にとっては、経営の負担を減らしつつ、自身の経験や人脈を活かして現役を続けることができます。譲受側にとっても、現所長のノウハウや顧問先との信頼関係を維持しながら、事務所の成長を図ることができます。
また、現役続行型M&Aでは、譲渡後も現所長が「事務所の顔」として活躍できるため、顧問先や職員の安心感が高まります。事務所のブランドやサービス品質を維持しやすく、スムーズな事業承継が実現しやすくなります。
今後、税理士業界では現役続行型のM&Aがますます増えていくと考えられます。税理士事務所の所長として、M&Aを「引退のための最後の手段」と捉えるのではなく、「事務所の未来を切り開くための新たなスタート」として前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
2.M&A、譲渡したらサラリーマンになる?ならない?
税理士事務所のM&Aを検討する際、多くの所長が「譲渡したらサラリーマンのように働かなければならないのでは?」という不安を抱きがちです。特に長年独立開業してきた税理士にとって、自由な裁量や経営判断が制限されるのではないかという懸念は大きいでしょう。
しかし、実際には税理士事務所のM&A後も、現所長がサラリーマンのように管理されるケースはほとんどありません。むしろ、譲受側の税理士事務所は「これまで通りの運営をお願いします。それ以外は自由です」というスタンスが一般的です。
税理士事務所のM&Aでは、譲受側が現所長を厳しく管理したり、細かく指示を出したりすることはほぼありません。なぜなら、M&Aの目的は「顧問先や職員の継続」「サービス品質の維持」にあり、現所長の経験やノウハウが不可欠だからです。特に、M&A直後は顧問先や職員の不安が高まる時期です。ここで現所長がサラリーマンのように扱われたり、急激な体制変更が行われたりすると、顧問先や職員の離脱リスクが高まります。そのため、M&A後も現所長の裁量や自由度が維持されることが多いのです。
税理士事務所のM&A後は、現所長がすぐに引退するのではなく、徐々に引退に向けた準備を進めるのが一般的です。たとえば、数年かけて後継者を育成したり、顧問先への引継ぎを丁寧に行ったりするなど、段階的な移行が行われます。このように、M&Aをしたからといって、現所長がサラリーマンのように管理されることはありません。むしろ、これまで通りの裁量と自由度が維持されるため、安心してM&Aに臨むことができます。
3.M&A後の所長の役割と期待される業務
税理士事務所のM&A後、現所長には「これまで通りの事務所運営」が強く期待されます。譲受側は、譲渡対価を支払って事務所を引き継ぐわけですから、売上や利益の維持はもちろん、顧問先や職員の継続も重要なミッションとなります。現所長は、これまで築いてきた信頼関係やノウハウを活かし、事務所の安定運営を図る役割を担います。特にM&A直後は、顧問先や職員の不安を和らげ、スムーズな引継ぎを実現するための「橋渡し役」としての役割が重要です。
M&Aを機に、事務所の業務分担を見直すケースも増えています。たとえば、これまで現所長が一手に担っていた給与計算や社会保険、採用活動、請求・経理業務などのバックオフィス業務を、譲受側の事務所が引き受けることで、現所長の業務負担を大幅に軽減できます。これにより、現所長は本来の税理士業務や顧問先対応に専念できるようになります。特に、税理士業務の専門性が高まる中で、こうした分業体制は事務所全体の効率化やサービス品質の向上にもつながります。
また、M&A後の所長の役割として、後継者の育成も重要なミッションです。引退までの期間に応じて、後任の税理士を配置したり、社員税理士や所属税理士、コンサルタントとして関与したりするなど、さまざまな形で事務所に関わり続けることができます。現所長の人脈やネットワークを活かして新規顧問先を開拓したり、専門分野でのコンサルティング業務を拡大したりすることも可能です。M&Aをきっかけに、事務所の新たな成長戦略を描くことができるのも大きな魅力です。
税理士事務所のM&Aでは、現所長の経験や人脈、専門性が最大の価値となります。譲受側も、これらの資産を活かして事務所の成長を図りたいと考えています。M&A後は、現所長が「事務所の顔」として引き続き活躍し、顧問先や職員の信頼を維持することが求められます。
4.M&A後の所長のキャリア
税理士事務所のM&A後、所長がどのように事務所に関わるかは、その後のキャリアに大きな影響を与えます。経営権を譲った後でも、所長として事務所運営に関与し、後継者のサポートを続ける道もありますし、一定期間の引継ぎを経て完全に引退し、第二の人生を歩むこともできます。
また、M&Aを早い段階で進めることで、引退後の選択肢が大きく広がります。たとえば、M&Aによってまとまった資金を確保し、新規事業へのチャレンジや、税理士会での活動、コンサルタントとしての独立など、さまざまなキャリアパスが考えられます。
M&Aを成功させるためには、準備段階から自身のキャリアプランをしっかり考え、譲受側との交渉を進めることが重要です。たとえば、「何年後に引退したい」「どのような形で事務所に関わりたい」「報酬や役割はどうしたいか」など、自分の希望やビジョンを明確にしておくことがポイントです。譲受側との交渉では、譲渡後の役割や報酬体系、業務分担、引退までのスケジュールなどをしっかり話し合い、納得のいく形で合意することが大切です。これにより、M&A後も安心して事務所に関与し続けることができます。
税理士事務所のM&Aは、単なる「引退の手段」ではなく、現所長にとって新たなキャリアのスタートでもあります。これまで培ってきた経験や人脈を活かしつつ、次の世代へバトンを渡す、そんな前向きな承継が、今後ますます求められていくでしょう。
また、M&A後は税理士としての専門性をさらに高めたり、新しい分野にチャレンジしたりするチャンスでもあります。たとえば、資産税や事業承継、医業・福祉分野など、特定の業種・分野に特化したサービスを展開することで、税理士としてのキャリアをさらに広げることができます。
5.まとめ
税理士事務所のM&Aは、単なる事業承継の手段にとどまらず、現所長が引き続き現役として活躍できる新たな選択肢として広がっています。M&A=すぐに引退、サラリーマン化という誤解は根強いですが、実際には「これまで通りの運営をお願いします」というケースが大半です。
M&A後も、税理士としての経験や人脈、顧問先との信頼関係を活かしながら、事務所の安定と成長に貢献できる環境が整っています。業務負担の軽減や後継者育成、キャリアの多様化など、税理士事務所のM&Aには多くのメリットがあります。
今後、税理士業界におけるM&Aはさらに増加が見込まれます。税理士事務所の所長として、M&Aを前向きに捉え、自身のキャリアや事務所の未来を見据えた準備を進めていくことが、これからの時代に求められる姿勢といえるでしょう。
税理士事務所のM&Aは、「事務所の未来を切り開く新たな一歩」です。現役続行型M&Aのメリットを最大限に活かし、顧問先や職員、そしてご自身の将来のために、ぜひ積極的に情報収集と準備を進めてみてください。



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