知っておきたい税理士事務所のやめ方・続け方
- 菅原 良平

- 4月22日
- 読了時間: 6分
税理士として長年、顧問先や地域に貢献されてきた所長の中には、「そろそろ自分の引き際を考える時期ではないか」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これまでの税理士業界では、所長が引退する際には“廃業”という選択肢が一般的でした。しかし、最近では「税理士法人化」「合併」「支店成り」「売却」といった新たな選択肢も広がってきており、それぞれに特徴とメリットがあります。
この記事では、税理士事務所のやめ方・続け方について、5つの視点から整理しました。廃業も選択肢の一つですが、必ずしもそれが最善とは限りません。ご自身にとって、職員にとって、顧問先にとって納得のいく選択を見つけるためのヒントになれば幸いです。

1.廃業か継続か?「 5つの道」
税理士事務所の未来をどうするか。まず考えるべきは、どんな「やめ方・続け方」があるのかを知ることです。現在、税理士事務所が取り得る選択肢は大きく5つあります。それぞれに特徴があり、メリット・デメリットも異なります。
このように、今では「やめる」と「続ける」の間に、さまざまな選択肢が存在するのです。廃業だけが選択肢ではないことを、ぜひ知っておいてください。
2.職員にとって良い選択肢とは?
税理士事務所の未来を考えるとき、忘れてはならないのが「職員」の存在です。長年一緒に働いてきたスタッフに、安心してもらえる道を選ぶことは、所長としての責任とも言えるでしょう。もし、廃業を選んだ場合、職員は全員退職を余儀なくされます。再就職の支援をしたとしても、年齢や地域によってはなかなか次の仕事が見つからないこともあるでしょう。これは職員にとって大きな不安材料です。
一方、税理士法人化を行えば、法人として雇用を引き継げる体制が整います。社会保険や福利厚生の整備も進みやすく、働き続けられる環境を提供できるのが魅力です。また、法人の一員として働くことで、職員の将来にも選択肢が広がります。
合併や支店成りを選んだ場合は、大きな組織の一部となることで教育体制や待遇改善などのチャンスも生まれます。もちろん、組織のカラーが変わることで戸惑う職員も出てくるかもしれませんが、丁寧な説明やケアを行えば、むしろ働きやすさが増す可能性もあります。
売却による事業譲渡も、スタッフが継続して雇用される場合が多く、実際には業務内容もあまり変わらずに働き続けられることがほとんどです。
いずれの方法を選ぶにしても、職員としっかり話し合い、誠実に情報を共有することが鍵になります。将来に不安を抱かせないこと。それが職員にとって最も良い選択肢を導く第一歩です。
3.顧問先にとって良い選択肢とは?
税理士事務所にとって、顧問先は言うまでもなく最も重要な存在です。所長が事務所の方向性を変える際、顧問先がどう感じるか、どんな影響を受けるかを考慮することは不可欠です。
廃業を選ぶと、顧問先は強制的に別の税理士を探さなければならなくなります。突然の解約通知は驚きと不安を招き、長年築いてきた信頼関係が一方的に断たれてしまう恐れがあります。何より、「次の税理士が信頼できるか」という不安が残るのです。
税理士法人化であれば、所長はそのまま残るケースも多く、顧問先にとっては大きな変化なくサービスが継続されます。組織としての安定感もあり、「この先もずっとお願いできそう」という安心感にもつながります。
合併や支店成りの場合、所長が一定期間残ることが多いため、顧問先との関係を継続したまま、新体制に慣れてもらえるのが大きなメリットです。新しいスタッフやサービスの幅も広がり、むしろ「以前より手厚くなった」と好評を得ることもあります。
売却でも、顧問先への丁寧な引継ぎが行われていれば、同じ担当者やスタッフがそのまま継続して関わることが多いため、大きな不安は発生しにくいです。
つまり、顧問先にとって最も望ましいのは、信頼できる人が引き継ぎ、安心してサービスを受けられることです。その意味で、廃業よりも法人化・支店成り・合併といった形の方が、顧問先の満足度は高まりやすいと言えるでしょう。
4.所長自身にとって良い選択肢とは?
最後に大切なのは、所長ご自身がどう納得して引退するかという視点です。税理士としてのキャリアの終わり方は、そのまま人生の一大転機でもあります。廃業は確かに一番シンプルですが、事後処理や顧問先・職員への対応で、実際にはかなりの労力が必要になる場合があります。また、廃業は経済的な見返りがなく、精神的にも引退後の空白を強く感じる方も少なくありません。
税理士法人化を選んだ場合は、事務所を後輩に引き継ぐ準備がしやすく、長期的に関わりながら徐々に退くことも可能です。法人としての継続性を保ちつつ、無理なく所長を卒業できる点は大きな魅力です。
合併や支店成りであれば、業務を分担しながら「第一線」をゆるやかに退くことができ、
引退までの準備期間を設けながら、役割を残す選択肢も取れます。売却では、まとまった退職金代わりの譲渡収入を得ることができ、将来の生活資金の不安が軽減されるというメリットもあります。すでに老後の生活設計ができている場合は、非常に合理的な選択肢と言えるでしょう。
大切なのは、「所長自身の一番の希望は何か?」自分の意思で選べる時代になっているということです。後悔しない決断のためには、早めの準備と情報収集がカギになります。
5.まとめ
税理士事務所のやめ方・続け方は、以前と比べて格段に選択肢が広がっています。廃業、税理士法人化、合併、支店成り、売却など、それぞれに特徴があり、事務所の状況や所長の意向に応じて柔軟に選べる時代になっています。
ただし、いずれの方法を選ぶにしても、その影響は所長一人にとどまらず、職員や顧問先にまで及びます。だからこそ、自分の希望だけでなく、関係者全体にとって納得できる形は何かを冷静に考える必要があります。
また、判断を誤らないためには、過去の慣習に頼らず、情報を正しく整理し、比較検討する姿勢が求められます。主観や感情で動くのではなく、将来を見据えた論理的な判断が、最終的な満足度を左右するポイントとなるでしょう。
そしてもう一つ重要なのが、準備のタイミングです。引退や事業の引き際は「まだ早い」と先送りにされがちですが、いざというときに動けない状況こそが最大のリスクです。選択肢を現実的に確保するためにも、早い段階での準備が不可欠です。
税理士として築いてきた事務所を、どのように次の世代や社会に引き継ぐのか。その最適解は一つではありませんが、判断と準備を主体的に進めることが、結果として後悔のない選択につながります。





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