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所長がいきなり亡くなるとどうなる!?税理士事務所の承継失敗

  • 執筆者の写真: 菅原 良平
    菅原 良平
  • 4月24日
  • 読了時間: 6分

 税理士事務所を率いる所長が、ある日突然亡くなったら。想像したくない事態ですが、実際にそうなったとき、事務所はどうなるのか。業務の停止、顧問先の混乱、遺族やスタッフへの影響など、承継準備ができていない事務所ほど深刻な事態に陥ります。本記事では、承継に失敗した事例をもとに、事前にどのような備えが必要なのか、税理士事務所の現実と課題を掘り下げます。


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1.突然の死去――事務所は即停止状態に


 ある日突然、税理士事務所の所長が亡くなった。そんな事態が実際に起こったとしたら、最初に直面するのは「事務所が動かない」という現実です。税理士業務のほとんどは、資格を持つ所長の名義で行われています。つまり、その所長が不在になった瞬間、法的にも業務継続が難しくなってしまうのです。


特に個人事務所の場合、所長が顧問先との連絡・申告書の作成・税務相談・記帳代行などあらゆる業務を中心で担っているケースが多く、「誰も代わりにできない仕事」が山ほどあります。スタッフがいても、税理士資格がなければ、法律上できることは限られており、顧問先の信頼を守ることは困難です。


ある関東の事務所では、所長が突然の病で亡くなり、対応にあたった方々は「どこにどの顧問先の資料があるのか」「どの案件がどこまで進んでいるのか」すら分からず、大混乱に陥ったといいます。


顧問先からの電話が殺到する中、遺族も何がなんだか分からず、対応はすべて後手に回りました。その結果、多くの顧問先が他の事務所に移ってしまい、数十年かけて築き上げた事務所の資産はほぼゼロになったそうです。


税理士事務所の多くは、「所長の頭の中」にしか情報がない状態で日常が回っています。しかしそれは、非常に危険な状態なのです。


2.引き継げる人がいない――後継者不在の落とし穴


 税理士事務所の多くは、所長のワンマン経営に近い形で成り立っています。そうなると、次に問題になるのが「誰がこの事務所を引き継ぐのか」という承継の問題です。


税理士業は、ほかの業種と違い、免許が必要な「専門職」です。つまり、いくら優秀なスタッフや家族がいても、税理士資格がなければ正式な業務は行えません。これが、承継のハードルを大きく高めている理由の一つです。


所長の子どもに税理士資格があるとは限りません。あるいは、職員に資格者がいたとしても、経営を担う覚悟や経験がなければ、事務所を引き継ぐのは難しいでしょう。特に「息子に任せるつもりだったけど、結局税理士にならなかった」というケースは、実際に非常に多く存在します。


後継者がいない場合、M&Aや他の税理士法人への事業譲渡という選択肢もありますが、これも準備には最低でも半年〜1年は必要です。所長が突然いなくなってから慌てて進めても間に合いません。しかも、M&Aをするにしても、事務所の業務や財務状況、顧問先の一覧、過去の対応履歴などが整っていなければ、買い手も付きません。つまり、承継のためには「継げる状態」にしておく必要があるのです。


後継者不在のまま高齢を迎えた所長の末路は、廃業か清算か。事務所の歴史も、顧問先の信頼も、一瞬で消えるリスクがあるのです。


3.相続・廃業手続きの混乱――家族にも大きな負担


 所長が突然亡くなった場合、一番困るのは実は“遺された家族”です。なぜなら、事務所の中身を一切把握していない中で、相続や廃業といった手続きを進めなければならないからです。


税理士事務所は、その性質上、極めて属人的なビジネスです。契約も収入も、基本的には所長個人に紐づいています。したがって、所長が亡くなった段階で、すべての業務は法律上停止状態に入り、顧問契約も「空中分解」する可能性があるのです。

そして、相続手続きの中でも特にやっかいなのが、「目に見えない財産」の取り扱いです。たとえば以下のようなものです。



こうした情報が所長しか知らなかった場合、遺族は何から手を付けていいのか分かりません。結果として、顧問先からの問い合わせにも答えられず、事務所としての信用を完全に失うことになります。


さらに、スタッフの雇用契約、退職金、支払い済みのリース契約やローン、賃貸オフィスの解約など、廃業手続きには膨大な事務作業と金銭的な負担が発生します。何より、突然の死に対する精神的なショックの中で、それをすべて家族が担うのは酷です。

こうした事態を防ぐには所長が「生前から情報の整理とマニュアル作成」を行い、「いざというときは○○税理士に相談するように」と家族に伝えておくことが何より大切です。


4.承継準備があれば防げた――失敗から見える教訓


 多くの承継失敗は、「そもそも承継を準備していなかった」ことに原因があります。「自分はまだ元気だから」「そのうち何とかなるだろう」と考えていた所長が、突然倒れてしまい、事務所は混乱・崩壊してしまう…そんなケースが後を絶ちません。

一方で、承継に成功した事務所の共通点は、「数年前から具体的に準備を始めていた」という点です。


たとえばある関西の事務所では、所長が60歳の時点で承継を意識し、若手税理士を外部から招き入れました。3年かけて業務を段階的に任せ、顧問先にも紹介を済ませ、最終的に税理士法人化。所長は70歳で代表を退き、相談役に。事務所は円滑に引き継がれ、スタッフも雇用を継続できたといいます。


このように、「時間をかけて」「段階的に」「関係者全員と調整しながら」進めるのが、

承継成功の鉄則です。


準備とは、単に後継者を決めることではなく、



といった、実に多くのステップが必要なのです。


そして、承継とは「信頼のバトンタッチ」でもあります。信頼は一朝一夕に築けるものではありません。だからこそ、所長が健在なうちから、後継者にできるだけ多くの場面で表に立たせ、顧問先・金融機関・関係士業に顔を売っておくことが重要です。


5.まとめ


 税理士事務所の所長が突然亡くなるという事態は、想像以上に大きな影響を及ぼします。業務の停止、顧問先の混乱、家族への負担、職員の離職、すべてが「承継の準備不足」から発生します。


特に税理士業界では、所長の存在が大きすぎることが多く、いざいなくなると「誰も何も分からない」という事態になりがちです。しかし、これは“防げる失敗”です。


今こそ、すべての所長が「自分がいなくなったときのこと」を真剣に考える時期です承継は決して「引退」の話ではありません。「責任ある経営」の一部です。現役であっても、日常業務の中で「もしものときのシナリオ」を描き、少しずつ準備を進めていくことが、事務所の未来を守ることにつながります。


たとえば以下のような行動から始めてみてはいかがでしょうか

こうした備えは、所長にとっては“面倒な作業”に思えるかもしれません。しかし、数十年かけて築いてきた事務所を守る最後の仕事として、十分に意味のある行動です。

加えて、承継準備は所長自身の将来設計にも直結します。「いつまで現場で働くか」「誰にバトンを渡すか」「引退後の人生をどう過ごすか」――これらを考えることは、第二の人生を安心して歩むためにも欠かせません。


税理士業務は、資格を持っている限り働ける仕事ですが、「健康である」「判断力がある」うちに準備をすることが、所長としての最良の選択になるはずです。自分が引退した後も、事務所が健全に続いていく。そんな未来をつくることこそ、これまで関わってきた顧問先、スタッフ、家族への最高の恩返しになるのではないでしょうか。


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