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事業承継に向いている税理士事務所とは?

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 6月9日
  • 読了時間: 8分

 税理士事務所の承継について悩んでいる所長は多いのではないでしょうか。その背景には、税理士業界全体の高齢化や、後継者不足という社会的な課題があります。税理士事務所の承継は、単なる事務所の引き継ぎにとどまらず、顧問先や職員の将来、そして所長自身の人生設計にも大きく関わる重要なテーマです。

 

 しかし、いざ承継を考え始めても、「自分の事務所が本当に承継してもらえるのか」「どんな準備をすればいいのか」がわからず、漠然とした不安を抱えたまま時間だけが過ぎてしまうことも少なくありません。


 この記事では、税理士事務所の所長が知っておくべき「事業承継に向いていない税理士事務所」「向いている税理士事務所」の特徴をわかりやすく解説し、今からできる事業承継への備えについても具体的にご紹介します。税理士としての経験や思いを、次の世代へしっかりとバトンタッチするためのヒントになれば幸いです。



1.事業承継に向いていない税理士事務所の特徴


 まず、税理士事務所の事業承継がスムーズに進まない、あるいは承継自体が難しいとされる事務所には、いくつかの共通した特徴があります。


 最も大きな問題は、業務が「属人化」してしまっていることです。たとえば、所長の頭の中にしか業務のノウハウや顧問先の情報がなく、事務所全体で共有されていない場合、承継後に新しい税理士が業務を引き継ぐことは非常に困難です。もし、所長が突然不在になった場合、職員も顧問先もどう対応してよいかわからず、事務所の機能が一気に止まってしまうリスクが高まります。


 また、顧問先への対応や訪問を所長が全て担っている事務所も、承継にはあまり向いていません。税理士事務所の承継においては、顧問先がそのまま残ること、そして職員の雇用が継続されることが大前提です。しかし、顧問先が所長に強く依存している場合、承継後に新しい税理士へスムーズに信頼が移らず、顧問契約が解消されてしまうリスクが高くなります。特に、顧問先が「先生でなければダメだ」と考えている場合、いくら承継を進めても、肝心の顧問先が離れてしまっては意味がありません。


 さらに、売上が大きく見えても、実際には交際費や販管費が多く、利益がほとんど残らない事務所も承継には不向きです。事業承継における譲渡対価は、将来の利益やキャッシュフローをもとに算定されることが一般的です。具体的には「譲渡直後から発生する年間営業利益額×3~5年分」を基準とすることが多いです。したがって、利益が少ない事務所は、承継先の税理士にとっても魅力が薄れ、譲渡対価の支払いが難しくなります。たとえば、年間売上が高くても、経費を差し引いた後の利益が極端に低ければ、「この事務所を引き継いでも本当にやっていけるのだろうか」と不安を感じるのは当然です。


 また、所長が職員とのコミュニケーションを十分に取れておらず、職員の意向や状況を把握できていない場合も、承継時に大きな問題となります。承継の話を進める中で、職員が突然退職を申し出たり、反発したりするケースもあります。職員の定着率が低い事務所や、所長と職員の信頼関係が希薄な事務所は、承継後も安定した運営が難しくなりがちです。



2.事業承継に向いている税理士事務所の特徴


 では、反対に事業承継がスムーズに進みやすい税理士事務所には、どのような特徴があるのでしょうか。


 まず第一に、業務の「見える化」や「マニュアル化」がしっかりとできている事務所は、承継に非常に向いています。たとえば、顧問先ごとの対応方法や業務フローが文書化されており、誰が見てもわかるようになっていれば、所長がいなくなっても事務所の運営が滞ることはありません。承継先の税理士も、マニュアルを参照しながら業務を進めることができるため、引き継ぎがスムーズに進みます。


 また、職員が顧問先の窓口となり、日常的なやり取りや対応を担っている事務所も、承継後のリスクが低くなります。顧問先が職員と信頼関係を築いていれば、新しい税理士が所長になっても、顧問先が離れる心配は少なくなります。


 さらに、所長と職員、職員同士の信頼関係がしっかりと築かれている事務所も、事業承継に向いていると言えるでしょう。職員が安心して働ける環境が整っていれば、承継後も職員が定着し、事務所の運営が安定します。また、職員同士のコミュニケーションが活発で、チームワークが良い事務所は、承継先の税理士にとっても魅力的です。



3.所長が仕事をしていない方がいい?

 

 事業承継に向いている税理士事務所の特徴として、よく言われるのが「所長が仕事をしていない方がいい」という点です。これは、所長がいなくても事務所が自走できる体制が整っていることが承継成功の大きなポイントになるからです。


 実際、所長が日常業務から一歩引き、職員が主体的に業務を進めている事務所は、承継後も大きな混乱が起きにくい傾向があります。たとえば、職員が顧問先の対応や業務の管理を自分たちで行い、所長は全体のマネジメントや経営判断に専念しているような事務所は、承継先の税理士から見ても非常に魅力的です。「うちは所長がいなくても仕事が回る」と職員が自信を持って言える状態が理想的だと言えるでしょう。


 ただし、所長がまったく業務を把握していない、職員だけが事務所の全てを知っているという極端な状況は避けるべきです。所長が最低限の業務内容や顧問先の状況を把握し、必要な時には適切な指示やサポートができる体制が求められます。バランスが大切であり、所長の存在感がゼロになる必要はありません。


 また、所長の存在感が大きい事務所の場合、承継を急いで進めると、顧問先や職員が不安を感じてしまうこともあります。そのため、3年~5年程度の時間をかけて、徐々に承継を進めていくことが望ましいです。所長が少しずつ現場から離れ、職員や承継先の税理士が徐々に役割を担っていくことで、無理なくスムーズな承継が実現できます。



4.今からできる事業承継に向けた事務所づくり


 では、税理士事務所の所長として、今からできる事業承継への備えにはどのようなものがあるのでしょうか。


 まず大切なのは、自分の事務所の現状を客観的に「自己点検」することです。業務の属人化が進んでいないか、顧問先や職員との信頼関係は十分か、利益率は適正かなど、さまざまな観点から事務所の状態を見直しましょう。第三者の目線で点検することで、普段は見落としがちな課題や改善点が見えてくることも多いです。


 次に、所長自身が「いつ引退するのか」「今後どのような形で顧問先に関与していくのか」を明確にしておくことも重要です。将来のビジョンがはっきりしていれば、職員や顧問先も安心して今後のことを考えることができます。たとえば、「あと5年で承継を進める」「3年後には現場から離れる」など、具体的なスケジュールを立てることで、事務所全体が同じ方向を向いて準備を進めることができます。


 また、業務のマニュアル化や見える化も、今すぐ始められる重要な取り組みです。たとえば、顧問先ごとの対応方法や業務フローを文書化し、誰でもすぐに確認できるようにしておくことで、所長が不在でも事務所がスムーズに回るようになります。さらに、業務の属人化を防ぐために、定期的に業務内容を職員同士で共有する機会を設けるのも効果的です。


 顧問先や職員との信頼関係を再構築することも、事業承継に向けて欠かせないポイントです。日頃からコミュニケーションを大切にし、職員が安心して働ける環境を整えることが、承継後の安定した運営につながります。顧問先にも、事務所の将来像や承継の方針を早めに伝えておくことで、不安や疑問を解消しやすくなります。


 さらに、事業承継に詳しい専門家と連携することも検討しましょう。第三者の視点からアドバイスを受けることで、自分では気づかなかった課題や改善策が見えてくることもあります。また、承継のプロと協力することで、よりスムーズに計画を進めることができます。



5.まとめ


 税理士事務所の事業承継は、所長の思いや努力だけでなく、事務所全体の体制や日々の業務の積み重ねが大きく影響します。業務が属人化していたり、所長への依存度が高かったり、利益率が低い事務所は、承継が難航しやすい傾向があります。一方で、業務の見える化やマニュアル化が進み、職員が自立して働ける環境が整っている事務所は、承継先の税理士から見ても魅力的であり、スムーズな引き継ぎが可能です。


 また、所長が現場から少しずつ離れ、職員が主体的に業務を進めている事務所は、事業承継に最も適しています。しかし、所長がまったく業務を把握していない状態は避け、バランスの取れた役割分担が重要です。


 事業承継に向けた備えは、今すぐにでも始めることができます。自己点検を行い、業務のマニュアル化や見える化、職員や顧問先との信頼関係の強化に取り組むことで、事務所の価値を高めることができます。また、承継の専門家との連携も、スムーズな承継を実現するための大きな助けとなります。


 税理士事務所の事業承継は、一朝一夕で実現できるものではありません。しかし、日々の積み重ねと早めの準備が、所長・職員・顧問先の全員にとって幸せな承継を実現するカギとなります。税理士としての誇りと経験を、次の世代へしっかりとバトンタッチするために、ぜひ今日からできることに取り組んでみてください。



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