【悲惨】税理士同士のM&A 仲介会社はどこまで支援してくれる?
- 大竹 邦明

- 8月4日
- 読了時間: 7分

1.買い手税理士法人から聞いたM&A仲介会社の実態
税理士業界でもM&A(事業の承継や統合)が活発化している昨今、多くの税理士が「どこに相談すればいいのか」「どう進めればいいのか」と不安を感じているのではないでしょうか。
今回は、関東地方で複数の支店を展開しているある税理士法人の代表社員の先生から伺った、実際のM&Aの事例を紹介します。その内容は、まさに「悲惨」という言葉がふさわしいものでした。
数年前、その税理士法人が譲り受けたのは、70代の先生が営んでいた税理士事務所でした。仲介に入っていたのは、士業特化を謳うコンサルティング会社です。
当初の説明では、年商5,000万円規模の事務所で、職員も5名在籍。所長は引退希望で、すぐにでも経営を引き継げるとのこと。
M&A仲介会社からの詳細な資料開示は十分ではなかったものの、「そこまで問題のある内容ではなさそうだ」と判断し、譲渡価額5,000万円で契約を締結し、譲渡日を迎えることになりました。
ところが、譲渡当日に驚くべき事態が起きました。
買い手法人の代表が事務所を訪れた際、売り手の所長はその場で初めて職員に
「本日をもって私は引退します」と引退宣言。
職員たちはその発表を聞き「意味が分からない」と怒ることとなり、その場で5名中3名が「辞めます」と言って即日退職したといいます。
また、売上5,000万円と説明されていたうちの1,000万円以上が、実は単発の生命保険販売による手数料収入であり、継続性のないものだったということが発覚しました。
結果、職員の離脱と収益源の消失が重なり、譲渡から半年後には売上が2,500万円にまで減少。譲渡金額と見合わない状態にまで事業は縮小してしまったのです。
しかし、この買い手の税理士先生は決して諦めませんでした。残った職員を大切にしながら、顧問先との関係を一つひとつ築き直し、支店の立て直しを図っていったのです。
1年後には黒字化を達成し、利益の回収フェーズへと移行。事務所の規模こそ以前より小さくなったものの、安定した運営体制を築き直すことに成功しました。
このような再建を実現できる税理士は、決して多くはありません。もしこの先生が、経営や組織づくりに長けていなければ、事務所は立ち直ることなく損失だけが残ったでしょう。今回のようなケースは、M&Aの本質的な怖さを改めて浮き彫りにしています。
2.M&A仲介会社の担当者は90%以上ただの「営業」
では、なぜこのような失敗が起きてしまったのでしょうか。
最大の要因は、M&A仲介会社の支援内容、あるいは支援の「なさ」にありました。
この案件を担当したM&A仲介会社の担当者は、当初から「売上5,000万円」「職員5名在籍」といった表面的な情報しか提供せず、それ以外の踏み込んだ情報はまったく示されなかったといいます。
買い手の税理士法人が、「他に気をつけるべき点はありますか?」と尋ねても、「特にはないと思いますよ」と曖昧な回答に終始していたとのことです。
さらに問題だったのは、この担当者が税理士事務所のM&Aにおける「何が重要か」をそもそも理解していなかった点にあります。たとえば、
職員へのM&A事前説明や合意形成
単発収入と継続収入の内訳
顧問契約の名義変更や引継ぎスケジュール
売却後の所長の関与予定や引継ぎ体制
といった、当たり前に確認すべき項目について、一切触れられていなかったのです。
このような担当者は、残念ながら「営業マン」でしかありません。
つまり「事務所が売れるかどうか」「契約が成立するかどうか」にしか関心がなく、M&A後のことは買い手・売り手まかせ。表面的なマッチングと価格交渉しか関わらず、重要な現場支援にはノータッチというケースが非常に多いのです。
実際、この税理士法人の先生は「営業マンがM&Aを回しているのが現実」と話してくれました。特に、税理士業界におけるM&Aは一般企業の売買と異なり、経営者=現場の中心であることが多く、職員や顧問先の心理的な影響も大きいのが特徴です。それにもかかわらず、そうした事情を考慮できていない仲介担当者が多すぎるのです。
もちろん、全てのM&A仲介会社が悪いわけではありません。しかし、業界の実情として「単なる営業マン」がM&Aを回しているというのは、残念ながら多くの現場で見られる現象です。そして、税理士にとっては人生をかけた重要な決断であるM&Aが、そんな営業的な温度感で進められてしまうのです。
このような状況では、当然のように「買い手が損をする」「職員が辞める」「顧問先が離脱する」といった事態が起こってしまいます。M&Aは一度の失敗で、何年もかけて築いてきた信用や経営基盤を失うリスクがあるということを、我々はもっと真剣に考える必要があります。
3.KACHIELで当たり前とする支援内容
M&Aにおいて仲介会社が十分な支援をしないことが多い現実を見たとき、「では理想的な支援とは何か?」という疑問が湧いてきます。
その点について、弊社KACHIELが提供している支援内容をご紹介します。
私たちは、これらを「特別なサービス」とは考えておらず、むしろ“当たり前”のものとして提供しています。
以前、あるM&A仲介会社に自社の支援体制を説明した際、「PMI(統合プロセス)までやってるんですね」と驚かれたことがありました。しかし、私たち自身にPMIを支援しているという意識は一切ありません。それほど、他社が「売買契約の成立」で役割を終えてしまっていることを裏返しに表している言葉だと感じています。
私たちは、税理士事務所の所長が安心して事業を譲渡・承継できるよう、以下のような事項を“標準の支援範囲”として行っています。
<独占交渉開始後の経営統合へ向けた打合せ内容>

○譲渡契約内容の合意までの打合せ
○登記手続きや税理士会への必要届出のタスク確認・スケジューリング
○職員の転籍同意までの雇用条件・就業環境の整備
○顧問契約の引継ぎ支援(解約抑止策の提案含む)
○譲渡(経営統合後)の実務運営方法
○水道光熱費、インターネット回線、賃貸契約などの名義変更
○譲渡(経営統合後)の総務・経理体制の打合せ
どれも、実際にM&Aを進めるうえで欠かせない観点です。特に職員の転籍は、単なる合意書にサインをもらうだけでは不十分で、労働条件や評価制度がどう変わるかなど、細かく説明をしなければなりません。顧問先に関しても、譲渡や経営統合の事実をどのタイミングで、どう伝えるのか、どのような引継ぎ資料を用意するのかを、事前に打合せしておく必要があります。
私たちは、これらを一緒に検討し、必要に応じて面談や文案作成のサポートも行っています。もちろん、最終的な判断は税理士である所長の責任のもとで行われるものですが、「何が起こるのか」を予測し、それに備えるための支援があってこそ、M&Aは“成功”につながるのです。
そして忘れてはならないのが、「その担当者が、どこまで本気であなたの事務所のことを考えているか」です。
たとえば、担当者があなたに「職員さんの退職金制度の引継ぎはどう考えますか?」「所内経理・総務は本店に集約しますか?それともこれまで通りに支店で継続しますか?」といった質問をしてくれるかどうかが、実は非常に重要な見極めポイントです。
質問が的を射ていなければ、担当者は事務所経営の実態を理解していない可能性が高いのです。
「見た目がよくて営業トークが上手な担当者」ではなく、「当事者目線で一緒に考えてくれる担当者」こそが、あなたのM&Aの成否を左右します。担当者の実力を見極めるためには、遠慮せず具体的な運営上の質問をぶつけてみるべきです。
4.まとめ
税理士業界におけるM&Aは、単なる「売り買い」ではなく、人と人、事務所と顧問先の信頼関係を継承する繊細なプロセスです。にもかかわらず、今なお多くのM&Aが「売買成立」というゴールのみを目指して進められており、結果として悲惨な結果を招くことがあります。
とりわけ、M&A仲介会社の多くが「売ること」しか考えていない営業マンであることは、業界全体として深刻な問題です。買い手としても、売り手としても、こうした担当者に任せてしまえば、あなたの事務所や職員、顧問先を傷つける結果になりかねません。
M&Aは、誰にとっても初めての経験であることが多く、不安を感じるのは当然です。だからこそ、「なんとなく良さそう」「大手だから安心」といった表面的な評価ではなく、「中身があり、実務を知っている」担当者を見極めることが最重要です。
税理士として長年築いてきた事業の集大成として、また、今後さらに飛躍を目指すための統合手段として、M&Aは非常に有効な選択肢です。しかし、その成功には「誰と進めるか」が何よりも大切です。
KACHIELでは、買い手・売り手いずれの立場にも立ち、当事者目線での支援を行っております。少しでも不安を感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。無理に進めることは決してありません。あなたの想いに寄り添い、誠実に向き合います。





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