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「職員と顧問先を守る税理士事務所の承継」 ~ 2つの実例から見る現実的な承継の進め方~

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 11 時間前
  • 読了時間: 7分

 税理士事務所の承継を考えるとき、多くの先生が最初に気にされるのは「いくらで譲渡できるのか」という点かもしれません。もちろん、長年築いてきた事務所ですから、その価値がどのように評価されるのかは重要なポイントです。事務所の売上規模や顧問先数、地域性などによって、譲渡条件は大きく変わります。


しかし、実際に多くの税理士の先生方から承継のご相談をお受けしていると、必ずしも「金額」だけが判断基準になっているわけではありません。むしろ多くの先生が気にされているのは、下記の点です。

税理士事務所は、単なる「事業」ではなく、長い年月をかけて築いてきた人間関係の上に成り立っています。顧問先の中には、創業当初から付き合いのある企業や、二代・三代と続く関係になっている会社もあるでしょう。


また、職員についても、長年一緒に事務所を支えてきた方が多いのではないでしょうか。だからこそ、承継を考えるときには「誰に引き継ぐのか」という点が非常に重要になります。


今回は、実際に弊社にご相談いただいた事例の中から、職員と顧問先を守ることを第一に考えた事務所承継のケースを2つご紹介します。



 まずご紹介するのは、税理士登録から30年を迎えるF先生からのご相談です。F先生は、2年以内の引退を考えていらっしゃいました。長年にわたり事務所を運営してこられ、顧問先との関係も安定していました。顧問先数も一定数あり、事務所としては安定した状態でした。


そのため、一般的に考えれば「そのまま事務所を閉じる」、「顧問先を知り合いの税理士へ紹介する」といった方法も選択肢としては考えられました。


しかし、F先生にはどうしても気がかりなことがありました。それは、長年働いてくれている職員の存在です。特に、10年以上勤務しているママさん職員の方がいらっしゃり、その方の将来を考えると、単純に事務所を閉じるという選択は難しいと感じていらっしゃいました。税理士事務所では、長く働く職員ほど、顧問先との関係も深くなります。


顧問先によっては、所長よりも職員の方が担当として長く関わっているケースもあります。

そうした関係を考えると、「自分が引退した後も、安心して働ける環境を用意してあげたい」というお気持ちは自然なもだったと言えるでしょう。


また、顧問先についても同じ想いがありました。多くのお客様とは長いお付き合いがあり、税務だけでなく経営の相談にも乗ってきました。そのため、「自分が引退するからといって、お客様に負担をかけたくない」というお気持ちが強くありました。


そこでF先生は、次のような形での承継を希望されました。


・職員が安心して働き続けられること(待遇の改善)

・顧問先が今までと大きく変わらない形でサービスを受けられること


こうした条件を満たす承継先を探すため、弊社へご相談をいただきました。


まずは、税理士向けメールマガジンを通じてノンネーム情報として情報配信を行いました。すると、わずか1週間ほどで7事務所からお問い合わせがありました。税理士業界では、同業者同士のネットワークがある程度存在しているとはいえ、実際に事務所承継の話が表に出る機会はそれほど多くありません。そのため、こうした情報が公開されると、一定数の事務所から関心が寄せられるケースも少なくありません。


ただし、すべての事務所が条件に合うわけではありません。そこで、次の3つの条件で候補事務所を絞り込みました。


・会計ソフトが同じ事務所

・今の規模感に近く、職員が安心して働けそうな事務所

・今の拠点を一定期間維持してくれる事務所


これらの条件は、いずれも顧問先や職員への影響をできるだけ小さくするためのものです。特に会計ソフトが変わると、業務フローが大きく変わる可能性があります。また、拠点がすぐに移転してしまうと、顧問先にとっても大きな負担になります。このように条件を整理したうえで、候補となる事務所との面談を進めていきました。


その後、約5か月ほどかけて打ち合わせや意見交換を重ね、最終的には信頼できる個人事務所へ事務所を引き継ぐことになりました。また、引き継ぎにあたっては、職員の待遇改善についても前向きなお話をいただくことができました。F先生としても、長年一緒に働いてきた職員の将来が安心できる形となり、安心して事務所を託すことができました。この事例は、金額だけではなく、人を大切にした承継の一例と言えるでしょう。



 次の事例は、税理士法人の支店に関するご相談です。H税理士法人の支店で社員税理士を務めていたI先生が、健康上の理由により業務を続けることが難しくなりました。その結果、本部としても支店の継続は困難と判断されました。しかし、その支店には複数の職員、多くの顧問先がいらっしゃいました。


そのため、「職員の雇用を守ること」、「顧問先へのサービスを継続すること」を最優先に考え、支店承継の形で引き継ぎ先を探すことになりました。ただ、この事務所には一つの大きな不安がありました。それは、立地が地方の田舎であることです。都市部であれば、税理士事務所の数も多く、承継先の候補も見つかりやすい傾向があります。


一方で、地方では税理士の数自体が限られているため、「そもそも候補となる税理士がいるのだろうか」という不安がありました。I先生としても、「職員や顧問先のことを考えると、何とか引き継ぎ先を見つけたい」という強い想いを持っていらっしゃいました。


そこで弊社では、まず税理士向けメールマガジンでノンネーム情報を配信しました。すると、配信から数日で全国11の事務所からお問い合わせがありました。その中から、次の4つの条件を満たす事務所を候補として選びました。


・現在使用している会計ソフトを継続できること

・職員の雇用・待遇を維持してくれること

・今の拠点を維持してくれること

・現地に税理士資格者を配置してくれること


この条件を満たす2事務所との面談を実施し、約4か月間の検討期間を経て、最終的にはJ税理士法人へ事業を引き継ぐことになりました。


J税理士法人は一定の規模があり、将来的な事務所の発展も期待できる法人でした。また、引き継ぎにあたっては、事前に職員の皆様との顔合わせや個別面談の機会を設けました。新しい体制について丁寧に説明を行い、不安や疑問を解消したうえで手続きを進めていきました。その結果、職員は一人も離職することなく、支店を引き継ぐことができました。地方の拠点であっても、条件整理と候補者探しを丁寧に行うことで、事務所を継続させることができた事例です。



 今回ご紹介した2つの事例には、共通している点があります。それは、どちらの先生も

「事務所をいくらで譲るか」よりも「誰に託すか」を重視していたという点です。


税理士事務所は、単なるビジネスではありません。長年働いてくれた職員がいて、長く付き合ってきた顧問先があり、その積み重ねの中で事務所は成り立っています


だからこそ、税理士事務所の承継を考える際には、下記の点も重要になります。


また、承継先を探す際には、早めに動き始めることも大切です。今回の事例でも、約4~5か月といった検討期間を経て、最終的な承継先が決まっています。実際には、その前の情報収集や条件整理の期間も含めると、さらに時間がかかることも珍しくありません


もし、「将来引退を考えている」、「事務所の将来を少し考え始めている」という段階であれば、早めに情報収集を始めておくことで、より多くの選択肢を持つことができます


税理士事務所の承継は、決して珍しいものではなくなってきています。しかし、税理士事務所の承継の形は一つではありません。職員や顧問先を守りながら事務所を引き継ぐ方法も、確実に存在します。税理士事務所の未来を考えるうえで、本記事が少しでも参考になれば幸いです。



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