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譲受側(買い手)から見た税理士事務所のM&Aのメリットと戦略

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 5月19日
  • 読了時間: 8分

1.税理士事務所のM&Aでの双方のメリット


 税理士業界は今、かつてないほど大きな転換期を迎えています。税理士試験の受験者数・合格者数の減少、所長税理士の高齢化、後継者不在、そして顧問先のニーズ多様化など、さまざまな課題が山積しています。こうした中で、税理士事務所のM&Aが有効な解決策として注目を集めています。


 M&Aは「事務所の譲渡」と「事務所の譲受」、すなわち売り手と買い手の双方にメリットがあります。まず、譲渡側(売り手)の税理士事務所にとっては、後継者がいない場合でも事務所を存続させることができ、長年築いてきた顧問先や職員の雇用、事務所のブランドを守ることができます。特に、所長税理士が高齢化し、後継者問題に悩む事務所にとって、M&Aは事務所の「第二の人生」を切り拓く選択肢となっています。


 一方、譲受側(買い手)の税理士事務所にとっても、M&Aは大きな成長のチャンスです。税理士資格者や経験豊富な職員を一度に確保できるだけでなく、顧問先や地域ネットワーク、事務所のノウハウも引き継ぐことができます。これにより、事業規模の拡大や新たなサービス展開がスムーズに進みます。


 税理士事務所のM&Aは、単なる「事業の売買」ではありません。譲渡側の所長税理士が長年培ってきた信頼や人脈、顧問先との関係性を、譲受側がそのまま引き継ぐことができる点に大きな価値があります。これにより、顧問先はこれまでと変わらないサービスを受けられ、職員も雇用が守られます。


 また、譲渡側の所長税理士が一定期間残るケースも多く、事務所の引き継ぎがスムーズに進むだけでなく、既存職員や顧問先との信頼関係も維持できます。税理士事務所のM&Aは「人」と「信頼」を大切にする業界ならではの特徴があり、双方が納得できる形で事業承継を実現できるのです。


 このように、税理士事務所のM&Aは双方にとって多くのメリットがあり、今後の業界発展のためにも積極的に活用すべき戦略の一つです。本記事では譲受側(買い手)から見た具体的なメリットをさらに詳しく掘り下げていきます。



2.税理士資格者を確保できる


 税理士事務所の経営において、最大の課題の一つが「税理士資格者の確保」です。近年、税理士試験の受験者数・合格者数は大幅に減少しています。たとえば、平成27年(2015年)には約38,000人だった受験者数が、令和3年(2021年)には約27,000人と、5年間で約3割も減少しています。合格者数も同様に減少傾向で、税理士資格者の高齢化も進んでいます。


 このような状況下で、税理士事務所が新たな税理士資格者を採用することは非常に困難です。求人広告を出しても応募が集まらず、採用コストも年々上昇しています。特に地方の税理士事務所では、若手税理士の確保が難しく、事務所の将来に不安を抱える所長も少なくありません。


 こうした中、税理士事務所のM&Aは、税理士資格者を一度に確保できる非常に有効な手段です。M&Aを通じて譲渡側事務所の所長税理士や複数の有資格者、さらに経験豊富な職員を迎え入れることができれば、即戦力として活躍してもらえます。特に、税務代理や税務書類の作成、税務相談など、税理士資格者しかできない業務を安定して提供できる体制が整います。


 また、税理士事務所のM&Aでは、譲渡側の所長税理士が一定期間残るケースが多く、その豊富な経験やノウハウを既存職員に伝承することができます。たとえば、相続税や事業承継、特殊な税務分野に強みを持つ税理士の知見を事務所全体で共有できるのは大きなメリットです。


 税理士資格者の確保は、単なる「人手不足解消」だけでなく、事務所の成長戦略にも直結します。新たな税理士資格者が加わることで、これまで対応できなかった業務や新規事業にチャレンジできるようになります。また、若手職員にとっても、経験豊富な税理士から直接指導を受けられる環境は大きな成長機会となります。税理士事務所のM&Aを活用し、優秀な税理士資格者や職員を確保することは、今後の事務所経営において欠かせない戦略と言えるでしょう。



3.組織体制の強化


 税理士事務所では、所長税理士だけでなく、職員一人ひとりが重要な役割を担っています。特に中小規模の税理士事務所では、担当職員が顧問先との信頼関係を築き、日々の業務を支えています。職員の経験やスキル、コミュニケーション能力が事務所の評価や顧問先の満足度に直結するため、「人材=事務所の資産」と言われることも少なくありません。


 税理士事務所のM&Aを活用すると、税理士資格者だけでなく、長年税理士事務所で経験を積んだ職員も一緒に迎え入れることができます。これにより、事務所全体の人員が増加し、業務分担や専門分野ごとのチーム編成がしやすくなります。

たとえば、法人税や相続税、資産税など、専門分野ごとに担当者を配置することで、より高度なサービス提供が可能になります。また、業務プロセスの標準化や効率化を進めることで、ミスの防止や業務品質の向上にもつながります。M&Aによる組織体制の強化は、事務所の競争力を高め、顧問先からの信頼をより一層高めることができます。


 M&Aによって異なる事務所文化や業務スタイルが融合することで、新たな発想やサービスの創出も期待できます。たとえば、譲渡側事務所が得意とする業種や業務分野を譲受側が取り入れることで、これまで対応できなかった顧問先のニーズにも応えられるようになります。


 また、人材が増えることで、繁忙期の業務負担を分散できるほか、新規事業やコンサルティング業務へのチャレンジもしやすくなります。税理士事務所は「人が資産」と言われるほど、職員の質と量が事務所の成長に直結します。M&Aによる組織体制の強化は、今後の収益増加や競争力向上にとって非常に重要な戦略です。



4.顧客基盤の獲得や新たなエリアでの事業展開


 税理士事務所のM&Aにおいて、譲受側にとって最も大きなメリットの一つが「顧問先の引き継ぎ」です。新規顧問先の獲得には多大な時間と労力がかかりますが、M&Aを活用すれば、譲渡側事務所が持つ既存の顧問先を一度に引き継ぐことができます。これにより、短期間で売上の拡大が見込めるだけでなく、顧問先の多様化や新たな業種・業界への対応力も高まります。たとえば、製造業や医療業界、飲食業など、特定分野に強みを持つ税理士事務所を譲り受けることで、自社のサービスラインナップを広げることが可能です。


 さらに、他の都道府県や市区町村の税理士事務所とM&Aを行えば、これまで進出できなかった新たなエリアでの事業展開が実現します。地域ごとの税制や習慣に詳しい職員を確保できるため、スムーズなエリア拡大が可能です。営業活動に多くの時間やコストをかけずとも、事務所の認知度アップやブランド価値の向上が期待できます。

たとえば、東京の税理士事務所が大阪や名古屋、福岡など主要都市の事務所とM&Aを行うことで、全国規模のネットワークを構築できます。これにより、全国の顧問先に対して一貫したサービスを提供できる体制が整い、事務所のブランド力も大きく向上します。


 M&Aによる顧客基盤の拡大や新エリア進出は、税理士事務所の競争力を大きく高めます新たな顧問先や地域での認知度向上は、さらなる新規顧問先の獲得にもつながります。また、複数拠点を持つことで、事務所全体のリスク分散や経営の安定化も図れます。

このように、M&Aは地道な営業活動よりもはるかに効率的に事業拡大を実現できる有力な手段です。顧問先の多様化や新規エリア進出は、税理士事務所の将来にわたる安定経営に大きく寄与します。



5.まとめ


 税理士事務所のM&Aは、譲受側(買い手)にとって多くのメリットをもたらします。税理士資格者や経験豊富な職員の確保、組織体制の強化、顧客基盤の拡大、新規エリアへの進出など、短期間で事務所の成長を実現できる有力な戦略です。


 もちろん、M&Aには譲渡対価の支払いというリスクも伴いますが、それ以上に得られるメリットは大きく、実際にM&Aを積極的に検討する税理士事務所が増えています。また、譲渡を検討している税理士事務所にとっても、事業の継続や職員の雇用維持、顧問先へのサービス提供など多くのメリットがあります。


 譲受側の税理士事務所がM&Aを成功させるためには、単に規模拡大を目指すだけでなく、譲渡側事務所の強みや文化をしっかりと理解し、融合することが重要です。たとえば、譲渡側が得意とする業種や業務分野、地域密着型のサービスなどを活かし、自社のサービスラインナップや事業戦略に組み込むことで、M&Aの効果を最大化できます。


 また、M&A後の組織統合や人材マネジメントも重要な課題です。新たに加わる税理士資格者や職員が既存組織にスムーズに溶け込めるよう、コミュニケーションや研修の機会を設けることが求められます。税理士事務所のM&Aは「人」が主役であるため、組織文化の融合やモチベーション維持が成功のカギとなります。


 今後も税理士業界の発展に向けて、税理士事務所のM&Aは重要な選択肢となっていくでしょう。税理士事務所の所長として、M&Aのメリットとリスクを正しく理解し、自社の成長戦略の一環として活用を検討してみてはいかがでしょうか。



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