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親族内承継か第三者承継か?税理士事務所の承継で見落とされがちな設計課題

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 2025年12月19日
  • 読了時間: 6分

 税理士法人・税理士事務所における親族内承継の最大の特徴は、「血縁だからこそ難しい」という点にあります。子どもや配偶者などを後継者と想定していても、いざバトンを渡す段階になると、経営能力・人望・家庭内の力関係といった要素が複雑に絡み合い、「本当に任せて大丈夫か」「他の兄弟への公平感はどうするか」といった問題が一気に顕在化します。親族内での対立がこじれると、事務所外の第三者が絡むトラブルよりも深刻化しやすく、顧問先にまで悪影響が及ぶことも珍しくありません。


 税理士法人を親族内承継する場合は、出資持分の相続税評価が重くのしかかります。内部留保が多いほど純資産価額は膨らみ、持分を引き継ぐ子の相続税負担が増大します。他方で、事務所を継がない兄弟には現金や不動産など別の財産でバランスを取る必要があり、「事務所の価値をどのレベルで見るか」という評価の決め方次第で、相続人同士の納得感に大きな差が出ます。こうした事情から、親族内承継では、事務所の承継スキームと遺言・遺産分割を切り離さず、「誰が経営権を持ち、誰がどの程度の財産を受け取るのか」を一体として設計することが求められます。


 また、親族内承継は時間軸が長い分、先送りの誘惑も強くなります。後継者候補が事務所に入所してから所長交代までの間に、権限移譲や顧問先引き継ぎを徐々に進められる一方、「まだ自分が元気だから」「子どもの経験が足りないから」と判断を先送りし続けると、気付いたときには先代も後継者も高齢になってしまい、第三者承継や撤退を選びづらい状況に追い込まれかねません。親族内承継を前提とするなら、早い段階から「いつ」「どの範囲で」「誰に」権限と持分を移していくのか、スケジュールと数値を伴った設計が不可欠です。



 第三者承継は、親族に後継者がいない事務所や、規模拡大・地域展開を狙う事務所にとって、現実的で有力な選択肢になりつつあります。しかし、「買い手さえ見つかれば万事うまくいく」というほど簡単な話ではありません。第三者承継で最初のハードルになるのは、「そもそも候補先が見つかるかどうか」です。税理士事務所・税理士法人の価値は、顧問先の解約率、職員の定着状況、所長依存度、内部管理体制といった要素で大きく変動しますが、これらは数カ月で作り込めるものではなく、日々の経営の積み重ねそのものです。


 さらに、候補先が見つかった後も、条件交渉と統合プロセスでのリスクが待ち受けています。譲渡対価・支払方法・勤務条件・拠点の扱いなどを巡って齟齬が生じると、相手との信頼関係が一気に冷え込み、交渉が頓挫することもあります。仮に合意に至って契約を締結できたとしても、その後に顧問先への説明、担当変更、報酬改定、システム移行、人事評価制度の統一といった課題が次々と押し寄せます。この統合フェーズで職員と顧問先の離脱が続けば、「数字の上では成立した取引」が実質的には大きな損失を生むことになりかねません。


 第三者承継は、親族承継に比べて「経営能力や方針が合う相手」を選びやすい反面、「時間切れ」のリスクが高い点も注意が必要です。所長自身の年齢や健康状態、市場環境を踏まえると、売り手にとって有利な条件で交渉できる期間にはどうしても限りがあります。準備不足のまま高齢になってから動き出すと、顧問先の高齢化や職員の流出、売上減少などが重なり、条件を大きく譲らないと相手が見つからない、最悪の場合は承継自体を断念せざるを得ない、といった状況になりかねません。



 税理士法人の承継では、目に見える売却価格や斡旋料だけでなく、相続税評価や債務控除の扱いが、親族内承継か第三者承継かによって意味合いを変えます。税理士法人のような持分会社では、社員が無限責任を負う構造になっているため、法人が債務超過で無限責任社員が死亡した場合、その持分に応じた債務超過額を相続税の債務として控除できる余地があります。ただし、これはあくまで「被相続人がその債務を負担することが確実と認められる場合」に限られ、決算書や契約関係、債権者とのやり取りなど、相当程度踏み込んだ証拠が求められます。


 親族内承継では、所長の死亡と承継がほぼ同時期に起こるケースが少なくないため、債務控除・出資持分の評価・遺産分割をワンセットで考える必要があります。無限責任社員の死亡時に債務超過が大きい場合には、債務控除により相続税負担を大幅に抑えられる可能性がある一方、証拠が十分でなければ否認リスクも高く、慎重な準備が欠かせません。出資持分や払戻請求権は、純資産価額に基づき評価されるため、内部留保をどの程度事前に外へ逃がしておくかが、承継時の税負担を左右します。


 第三者承継の場合、相続と切り離してスキームを組めるため、債務控除よりも「どのタイミングでどの形で内部留保を処理するか」が中心的な論点になります。営業権の譲渡対価(斡旋料を含む)についても、親族承継であれば退職金や持分払戻しと組み合わせて、所得税・法人税・相続税のバランスを取りにいく余地がありますが、第三者承継では、旧所長個人の事業所得や一時所得とみなされて重く課税されるリスクもあります。誰の権利に対応する対価なのか、どの部分が法人対価でどの部分が個人対価なのかを整理しておかないと、「せっかくの承継で手取りが思ったほど残らない」という結果になりかねません。




 税理士法人・税理士事務所において、数字や税務の話とは別に、最終的な満足度を左右するのは「人と文化」の問題です。親族内承継は、理念や価値観が比較的スムーズに引き継がれやすく、顧問先や職員も心理的な抵抗は小さい傾向があります。長年顔を見てきた子どもや親族が後継者になるケースでは、「誰だか分からない人に買われた」という印象は薄く、顧問契約の継続率も高くなりやすいと言えます。しかしその一方で、親族だからこそ言いづらいことが増え、経営上の緊張感が薄れてしまう可能性もあります。後継者が本気で組織を変えたいと考えていても、先代が口を出し続けたり、親族間の関係が足かせになったりすると、改革は中途半端なまま宙に浮きます。


 第三者承継は、「誰に承継するか」を選べる自由度が高い点が魅力です。事務所の強みや価値観に共感してくれるパートナーを見つけられれば、職員の活躍の場が広がり、顧問先にも新たなサービスを提供できる可能性があります。所長自身も、引退後のライフプランや仕事との距離感を比較的柔軟に設計できます。ただし、外部から見れば魅力的な承継であっても、内部の職員や顧問先にとっては大きな環境変化であり、不安の種にもなります。統合プロセスの設計を誤ると、「所長にとっては良い出口だったが、残された人には負担ばかり」という評価に終わってしまう危険があります。


 こうした違いを踏まえると、税理士事務所・税理士法人・会計法人など複数の器をどう組み合わせ、どこに価値を蓄積し、どこで出口を取るのか。開業から引退までの道筋を意識しながら、「親族」と「第三者」のどちらにも対応できる設計をしておくことで、将来の選択肢を広く保つことができます。



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