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60歳税理士、廃業or第三者承継 どっちが有利?

  • 執筆者の写真: 大竹 邦明
    大竹 邦明
  • 6月17日
  • 読了時間: 7分

税理士事務所を経営してきた皆さまにとって、60歳という年齢は一つの節目かもしれません。これまで築いてきた事務所を、どのように終わらせ、あるいは引き継ぐのか。廃業か、第三者承継(M&A)か。その選択は、税理士としてだけでなく、経営者としても非常に重要です。


この記事では、廃業」と「M&A(第三者承継)」の違い、そしてそれぞれがもたらす影響について、専門用語を避けながら、税理士事務所の所長向けにわかりやすく解説していきます。特に、職員や顧問先への影響、自身の引退後の生活を見据えた視点で整理しています。



【1.税理士事務所の廃業とは?】


現在でも、多くの税理士事務所が廃業という道を選んでいます。実際、毎年かなりの数の個人事務所が、所長の高齢化や後継者不在を理由に閉鎖されているのが現実です。一方で、同じように後継者問題に直面しているにもかかわらず、M&Aや経営統合を選択する税理士事務所も増えてきました。


税理士事務所を廃業するということは、所長の引退により、すべての業務を終了し、事務所を閉じるという決断を意味します。顧問先との契約はすべて解除となり、長年勤務してくれた職員も全員解雇せざるを得ません。


「知り合いの税理士に職員を引き取ってもらえばいい」と考える所長もいますが、その受け入れ先の税理士事務所が本当に人件費を支払える状況にあるのかどうかはわかりません。仮に受け入れを申し出てもらえても、正社員として雇用される保証はなく、待遇が下がることも多いのが現実です。


特に地方都市や田舎では、税理士事務所の求人自体が限られており、職員が再就職に苦しむ例は少なくありません。給与水準も下がる傾向があり、職員にとっては生活基盤の喪失につながる重大な問題です。


また、顧問先にとっても、突然税理士が廃業してしまうことは大きな不安要素です。長年親身に対応してきた税理士から突然契約終了を告げられ、自力で新たな税理士を探さねばならないとなると、その労力や不安は計り知れません。中には、現在利用している会計ソフトの互換性がなく、新たに導入し直す必要が出てくることもあります。


さらに、所長が長年付き合ってきた顧問先は、同様に高齢の経営者が多い傾向にあります。税理士として「安くても丁寧に対応する」というスタンスでやってきた結果、顧問料も相場より安いことが少なくありません。新たな税理士に変更することで顧問料が倍額になるケースもあり、負担が大きすぎると判断して税理士変更を断念する企業もあります。


このように、廃業という選択は、所長本人だけでなく、職員や顧問先にとっても非常に大きな影響を及ぼす可能性があります。果たして本当に「廃業」が最善の選択肢なのでしょうか?



【2.税理士事務所の第三者承継(M&Aとは?)】


では、もう一つの選択肢である「第三者承継」、つまりM&Aとはどのようなものなのでしょうか。一般的に「M&A」と聞くと、大企業の売却や買収といったイメージを持たれるかもしれませんが、税理士事務所におけるM&Aは、もう少し実務的で、現場の継続性を重視したものです。


税理士事務所のM&Aでは、「職員」と「顧問先」の両方をきちんと引き継ぐことが基本です。単に売却して終わり、ということではなく、サービスを途切れさせずに継続させるというのが本来の目的です。


よく「M&Aをするとすぐに引退しなければならないのでは?」と心配される所長がいらっしゃいます。しかし、それは実は大きな誤解です。買い手となる税理士法人にとっても、M&A後すぐに所長が抜けてしまうのは避けたい状況です。むしろ、一定期間は所長にそのまま残ってもらい、職員や顧問先が新体制に慣れるまで事務所の運営を継続してもらいたいというのが本音です。


多くのケースでは、現在の事務所をそのまま税理士法人の「支店」として残し、現所長が支店長という形で継続する流れが一般的です。この形であれば、税理士としての実務もマネジメントも、これまで通りに近い形で続けることができます。


また、役員報酬についても、M&A後も従来と同水準を維持することが可能なケースが多く、いわば「経営の負担を軽減しながら、現役を続ける」という理想的な形が実現します。


職員にとっても、勤務場所や仕事内容が変わらず、雇用条件も維持されることが多いため、離職リスクが抑えられます。買い手となる税理士法人も、職員の離職によって顧問先を失うリスクを避けたいと考えるため、雇用条件の変更は最小限に抑えるのが一般的です。


顧問先についても同様です。基本的には、担当税理士が変わらず、料金体系やサービス内容も変更されることはほとんどありません。結果として、廃業時のように「次の税理士を自分で探す」必要もなく、これまで通り安心してサービスを受けられるのです。


さらに、M&Aの大きな利点として「譲渡対価」や「退職金」を受け取れる点があります。税理士事務所を廃業する場合には、基本的に無収入で幕を閉じることになりますが、M&Aであれば、事務所の価値に応じた譲渡代金を受け取ることができます。


税理士個人のM&Aの場合、その譲渡対価は雑所得として課税される可能性が高いのですが、もし60歳でM&Aを実行し、引退を5年後以降に設定する場合には、「退職金」として受け取る方法も選択できます。退職金には税制上の優遇措置があり、税理士としての引退後の生活にとっても大きな安心材料となります。


このように、税理士事務所における第三者承継(M&A)は、単なる売却とは異なり、職員・顧問先・所長本人の三方にとって、それぞれのメリットを享受できる現実的かつ有効な選択肢なのです。




【3.60歳から考える廃業と第三者承継】


ここまで、税理士事務所の廃業とM&A(第三者承継)について、仕組みやメリット・デメリットを整理してきました。では、実際に「どちらの方が経済的に有利か?」という視点で考えてみましょう。


仮に、ある税理士事務所の年間売上が6,000万円、所長である税理士の年間所得が2,000万円とします。そして、このまま70歳で廃業するまで事務所を続けると仮定すると、あと10年間で得られる総所得はおおよそ2億円になります。


一方で、60歳の時点でM&Aを実行した場合はどうでしょうか。仮に譲渡後も現役として事務所に残り、年間1,800万円の役員報酬を受け取りながら、70歳で退職したとします。その上で、譲渡対価や退職金を含めた金額が合計4,000万円になると仮定します。


この場合、役員報酬10年分で1億8,000万円、譲渡対価・退職金4,000万円を合わせて2億2,000万円となり、廃業時よりも2,000万円多く手元に残る計算です。


さらに重要なのは、M&Aによる譲渡対価が退職金として認定されれば、税務上の控除を受けることができ、実際に手元に残る金額はさらに大きくなる可能性がある点です。


加えて、M&A後もこれまでと同様に業務を続けられ、経営の責任からはある程度解放されるという点でも精神的な負担は軽くなります。廃業の場合、最終的には職員の解雇手続きや顧問先への説明対応など、精神的な重荷を一手に担う必要があります。


一方、M&Aであれば、引継ぎや今後の運営に関しては新しい法人がサポートしてくれるため、トラブルが起きにくく、所長としても安心して次のステージに進むことができるのです。


もちろん、M&Aの条件や対価は事務所の状況によって変動しますが、「60歳からの引退設計」として考えたときには、M&Aの方が金銭的・精神的・社会的に有利であると言えるのではないでしょうか。


【4.まとめ】


税理士事務所の未来をどうするか。廃業か、第三者承継(M&A)か。その選択は、所長である税理士自身だけでなく、職員や顧問先にとっても重大な意味を持ちます。


廃業の場合、職員は職を失い、顧問先は自ら新しい税理士を探さなければならず、地域の中小企業にとっても大きな負担となります。そして、所長自身にとっても、長年築いてきたものを手放すだけで何も得られないという結果になりかねません。


一方で、M&Aであれば、職員の雇用を守り、顧問先にも継続したサービスを提供することができます。所長自身も現役を続けながら、引退時には譲渡対価や退職金を受け取り、安心した生活設計が可能となります。


税理士業界では、今後ますます人手不足が進み、事務所の後継問題が深刻化していくことが予想されます。その中で、いち早く自分の将来を見据えて動いた所長こそが、有利な条件で次のステージを選択できるのです。


先生ご自身の状況に合わせた最適な選択肢を見つけるために、専門家のサポートを受けながら、ぜひ早めの準備をおすすめします。私たちKACHIELでは、税理士専門のM&Aアドバイザーとして、先生の立場に立ったご提案をさせていただきます。お気軽にご相談ください。



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