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税理士法人に内部留保が溜まる構造と税務リスク ― 退職金・外注費・解散時課税を踏まえた承継設計の実務 ―

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 1月30日
  • 読了時間: 5分

 税理士法人は、税理士法に基づく士業法人として、原則すべての社員が無限責任を負う合名会社型の法人形態を採っています。そのため、形式上は法人であるものの、法人に帰属する利益や財産も含め、経済的・法的リスクは最終的に社員個人の責任と表裏一体の関係にあります。にもかかわらず実務上は、株式会社と同様の感覚で利益が法人内に滞留し、明確な出口を持たないまま内部留保が過度に積み上がっているケースが少なくありません要因としては、以下の理由が挙げられます。

 実際、税理士法人の解散や社員退社時には、持分払戻し額が「純資産価額」に基づいて算定されるため、内部留保が膨らんでいればいるほど法人の評価額が上昇し、結果として法人解散時に多額の残余財産分配が生じ、社員や相続人側で課税インパクトを受ける構造になります。こうした課税面・事業承継面のリスクを見据えると、「内部留保を貯めない経営設計」が税理士法人などの士業法人には必須です。



 最も王道的な内部留保取り崩し策が、代表社員や社員への退職金支給です。法人の損金算入要件を満たせば、税理士法人は退職金として支給額を損金に計上でき、法人税を軽減しつつ内部留保を実質的に個人側へ移すことが可能となります。損金算入の基本ルールは以下の3点です。

とくに税理士法人の場合、社員=無限責任社員であり使用人兼務役員にあたらないため、支給根拠や算定基準の明文化が重要となります。


 一方、留意すべきは所得区分の判定です。税法上、退職所得控除が認められますが、法人からみて「事業の対価」と認定されると報酬(給与所得)と判断されるリスクがあります。また、支給後に法人がすぐに解散すると「役員退職金の否認リスク」が高まるため、実態として長期の勤続・引退実績が求められます。


 結局のところ、退職金を活用する場合は、事前に支給規程や功績倍率、支給時期を慎重に設計することが実務的な成功条件です。



 実務上よく使われるもう一つの手法が、外注費を通じて法人外へ資金を流すスキームです。税理士法人が会計法人(記帳代行・事務代行会社)に外注料を支払い、内部留保を圧縮する形です。法人間で業務委託契約を締結していれば、形式上は適正な外注取引ですが、実質判定では「税務否認のリスク」が常に伴います。


 具体的には、税理士法人の行う業務(申告書の作成、税務相談など)は税理士法に定義される「税理士業務」であり、資格者でない会計法人には委託できません。したがって、会計法人への外注が記帳処理・資料整理など補助業務に限定されていない場合、形式的な契約でも実質的には「税理士業務の名義預け」と見なされ、支出全額が損金不算入とされるおそれがあります。


 さらに、税理士法人の職員が実際には税理士法人の方で勤務し、給与が法人側から支給されているのに、売上が会計法人側に多く計上されている場合は、収益帰属の不整合が指摘されます。税務調査で最も典型的に否認されるのがこのパターンです。したがって、外注スキームを活用する場合は、以下のような基本管理を徹底する必要があります。



 税理士法人が解散する場合、その残余財産は純資産価額に基づき社員に分配されます(会社法)。このとき、法人の内部留保はそのまま社員への分配対象となるため、分配金には譲渡所得または配当所得に準じた課税関係が生じます。とくに税理士法人は持分の譲渡制限が厳く、社員間での時価評価が困難なため、清算時には思わぬ高額課税につながりやすい点が問題です。


 このリスクを軽減する一案が、解散前に退職金・外注費等で利益を先行処理しておく、つまり「清算前の内部留保圧縮」です。ただし行き過ぎれば「みなし配当」とされるおそれがあります。たとえば社員持分割合に応じない資金分配をすると、他の社員に対して利益移転(贈与)と認定されるリスクが生じます。


 また、税理士法人の出資持分は「取引相場のない株式」と類似の評価方法が適用されるため、内部留保を含む純資産価額ベースで評価されます。このため、社員死亡や相続により持分評価が行われる際にも高評価となり、結果的に相続税負担が重くなる点にも注意が必要です。


 結局、税理士法人の解散設計では、「定款で残余財産処分を明記しておく」「清算直前に必要経費処理を徹底する」「功労補償や退職慰労金を支払う」など、計画的な内部留保削減策が不可欠です。



 そもそも賢明な税理士法人経営のポイントは、「内部留保を作らない設計」にあります。税理士法人の承継を円滑に行うためには、法人側の収益を減らし、個人側に所得を適切に配分する方針が基本とされています。


 実務的には、税理士法人と会計法人の二層構造モデルを採用し、税理士法人は税務申告・顧問契約の窓口、会計法人は補助業務受託窓口とする形で業務を分離します。この際、法人間の利益配分を適正化しておくことで、税理士法人に過度な利益が残ることを防ぎます


 また、承継を見据えて早い段階から代表社員の報酬や退職金積立を増やしておき、引退時に法人利益を「退職金」としてスムーズに取り崩せるようにしておくことも重要です。事前の経営設計なくしては、解散時に初めて内部留保の課税インパクトに直面するという「設計ミス」に陥ります。


 以上から、税理士法人の内部留保対策は、単なる会計処理の問題ではなく、法人設計・承継戦略・税務リスクマネジメントを統合的に考える経営上の課題といえます。



 実務の現場では、税理士法人の内部留保対策は「節税策」というよりも、「組織のサステナビリティを維持するための財務設計」として位置づけられています。法人の利益をどう分配し、次世代へどのように繋ぐかという観点が欠かせません。近年の税務調査では、法人から個人への利益移転に関して「実質的役務提供の有無」「支給根拠の合理性」が厳格に問われています。したがって、退職金・外注費いずれの手法を取るにしても、法人としての意思決定過程を議事録などの形で残し、客観的なエビデンスを整備しておくことが極めて重要です。


 これからの時代、税理士法人の経営者には「内部留保をどう使うか」ではなく、「内部留保を作らず、常に動かす経営設計」が求められます。利益の寝かせ込みはリスクであり、流動化こそが持続的な事業承継の鍵となるのです。



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