税理士法人と会計法人の関係を正しく整理する~競業避止と事業承継の注意点~
- 小杉 啓太

- 2 日前
- 読了時間: 7分
税理士法人の中には、会計法人を併設しているところがあります。税理士業務は税理士法人が担い、記帳代行などの会計業務は会計法人が担うという形です。すべての税理士法人がこの体制をとっているわけではありませんが、併設する税理士法人は一定数存在します。
この体制は、業務を分けて運営する限り問題ありません。しかし、税理士法人と会計法人の関係は、法的に注意すべき点があります。特に、社員税理士の競業避止への抵触と事業承継の際に会計法人を置き去りにすることは、後々大きなトラブルにつながります。
本記事では、税理士法人と会計法人を併設する場合に、日常の運営と将来の事業承継で押さえておきたいポイントを解説します。
税理士法人と会計法人を併設する場合、まず整理すべきなのは、それぞれの法人がどの業務を担うかです。
税理士法人は、税務代理、税務書類の作成、税務相談といった税理士業務を行います。一方、会計法人は、記帳代行や経理代行など、税理士業務に該当しない会計業務を担うことが一般的です。この役割分担が曖昧なまま、税理士法人が会計業務も受託し、会計法人も同じ会計業務を行っていると、社員税理士の競業避止の問題が生じます。
税理士法人の社員である税理士は、自己または第三者のために、その税理士法人の業務範囲に属する業務を行うことができません。税理士法第48条の14は、税理士法人の社員が、自己もしくは第三者のために、その税理士法人の業務の範囲に属する業務を行い、または他の税理士法人の社員となることを禁止しています。
つまり、税理士法人の定款に会計業務を記載し、その業務が税理士法人の業務範囲に含まれている場合、その社員税理士は、自己や第三者のために同じ業務を行うことができません。
たとえば、税理士法人の定款に記帳代行業務を記載し、その税理士法人が顧客から記帳代行業務を受託しているとします。このとき、その社員税理士が、同じ記帳代行業務を行う会計法人の取締役や代表取締役に就任し、その会計法人のために記帳代行業務を行うことは、競業避止に抵触する可能性があります。
この問題は、社員税理士が会計法人の代表取締役を務める場合だけでなく、取締役に就任している場合にも生じます。さらに、取締役に就任していなくても、実質的に会計法人の業務に関与している場合には、競業避止の問題が生じることがあります。
税理士法人と会計法人の併設で競業避止の問題を避けるための主な整理方法は、大きく2つあります。
一つ目は、税理士法人の社員税理士が、会計法人のために税理士法人の業務範囲と重なる業務を行わない体制にすることです。たとえば、社員税理士が会計法人の取締役や代表取締役を兼務している場合には、実際の業務内容にも注意する必要があります。
二つ目は、税理士法人の定款から会計業務を削除し、税理士法人が記帳代行業務を受託しないことです。この場合、記帳代行業務は会計法人が顧客と直接契約する形になります。
重要なのは、単に定款の文言を変更し、請求書の発行者を変えるだけでは不十分だということです。実際の業務運営も契約関係に合わせて整理する必要があります。具体的には、次のような点を確認する必要があります。
たとえば、税理士法人が顧客から税務顧問契約を受託し、会計法人が別途記帳代行契約を受託する場合、両者の契約は明確に分かれている必要があります。税理士法人が会計業務を実質的に行いながら、請求だけ会計法人から行うという形は、実態と契約が一致せず、競業避止の問題を残します。
また、税理士業務は、税理士または税理士法人が顧客から直接受任しなければなりません。会計法人が顧客から税理士業務を含む契約を受け、その税理士業務だけを税理士法人へ外注する形も認められません。
なお、開業税理士(個人事務所)であれば、顧客から税務業務と付随業務(記帳代行等)を一括受任したうえで、付随業務のみを会計法人へ外注することも可能です。一方、税理士法人の場合は、前述の通り、競業避止の問題があるため、会計法人との役員関係や実際の業務分担なども含めて、契約関係を整理しておく必要があります。
税理士法人と会計法人の関係を整理する際は、契約書、請求書、業務分担、顧客への説明、職員の指揮命令、個人情報の管理を一体で見直すことが大切です。
税理士法人と会計法人を併設している事務所で、所長(代表社員)が引退や事業承継を考えるとき、会計法人を別に扱うと後から問題が起こります。
たとえば、税理士法人が顧客との税務顧問契約を持ち、会計法人が記帳代行契約を持っているケースです。所長(代表社員)が引退するとき、税理士法人の社員交代や承継だけを進めても、会計法人の株式や役員構成が旧所長(代表社員)のままであれば、実際の業務運営が一体化しません。
税理士法人の事業承継を考えるとき、顧客との契約、職員の雇用、業務用システム、事務所の賃貸借契約、銀行口座、ウェブサイト、商標など、税理士法人と会計法人のどちらが持っているのかを一つずつ確認する必要があります。
特に注意したいのが、顧客との契約名義です。税理士法人の顧問契約は、所長(代表社員)個人ではなく、法的主体である税理士法人が締結主体になります。そのため、所長(代表社員)が引退しても、税理士法人としての契約は維持されます。
一方、会計法人の契約は会計法人名義です。契約は所長(代表社員)が代わっても会計法人に残りますが、後継者がその契約を扱うには、会計法人についても、株式や役員構成などを含めて承継方法を整理する必要があります。税理士法人の社員交代や承継だけを進めても、会計法人を置き去りにすれば、記帳代行などの契約は旧所長(代表社員)の会計法人に残ったままになり、後継者は扱えません。
会計法人を含めた事業承継を成功させるには、税理士法人と会計法人の両方を、一体の事業として設計することが重要です。
まず、後継者となる税理士が、税理士法人の社員になると同時に、会計法人の株式や役員も引き継ぐのかを決めます。後継者が会計法人の経営にも関与するのか、それとも会計法人は別の者に引き継ぐのかによって、株式の移転方法や役員構成が変わります。
次に、税理士法人と会計法人の業務範囲を、事業承継後も競業避止に抵触しない形で整理します。後継者が社員税理士として税理士法人の業務を行う一方で、会計法人の役員も務める場合には、定款上の業務範囲と実際の業務分担を明確にしておく必要があります。
後継者が税理士資格を持っていない場合には、税理士法人の社員になることができません。その場合、税理士法人の社員は別の税理士が務め、後継者は会計法人の経営を担うという形も考えられます。この場合、税理士法人と会計法人の役割分担をより慎重に設計する必要があります。
また、事業承継の時期と手続も重要です。所長(代表社員)が引退する直前に準備を始めるのではなく、後継者を早い段階から関与させ、顧客への挨拶、担当業務の移管、職員の管理、経営判断への参加を進めることが大切です。
税理士法人と会計法人の関係は、日常の業務運営では問題にならなくても、所長(代表社員)の引退や事業承継のときに一気に表面化します。
税理士法人の社員税理士は、税理士法人の業務範囲に属する業務を、自己または第三者のために行うことができません。会計法人を併設する場合には、この競業避止のルールを踏まえ、税理士法人と会計法人の業務範囲を明確に分けることが基本です。
そして、事業承継を考えるときには、税理士法人だけを見るのではなく、会計法人の経営権、役員、契約、職員まで含めて、一つの事業として引き継ぐ設計が必要です。税理士法人と会計法人を併設するからこそ、日常の運営と将来の承継を一体で考え、定款や契約書を定期的に見直すことが、税理士法人を長く続けるための重要なポイントになります。




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