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税理士事務所の「支店成り」とは?~働き続けながら承継するという選択肢~

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 6 日前
  • 読了時間: 7分

 税理士事務所の承継にはいくつかの形がありますが、その中でも弊社ご支援のなかで、個人の税理士事務所(開業税理士)の所長から選ばれることが増えているのが「支店成り」です。後継者がいない、採用が難しい、DX対応が追いつかない、マネジメントに疲れを感じている。こうした課題が重なるなかで、事務所を閉じずに続けながら、所長自身も働き続けられる方法として注目されています。



 支店成りとは、個人で営んできた税理士事務所が、別の税理士法人の支店として再スタートする形です。単に看板が変わるだけではなく、事務所の立場そのものが変わります。売上や経費は譲渡先の税理士法人の会計に組み込まれ、所長は社員税理士や所属税理士として位置づけられるのが一般的です。


 一見すると大きな変化に見えますが、顧問先対応や日々の実務が大きく変わらないように設計できれば、現場への影響は抑えやすくなります。個人事務所では、所長が経営と実務の両方を一人で抱えます。売上の管理、採用、育成、設備投資、業務改善まで、判断のほとんどが所長に集中します。


 それに対して支店成りでは、組織の一部として運営されるため、負担と責任を分散しやすくなります。これが「事務所を手放す」のではなく、「続けやすい形に整える」という意味で選ばれる理由です。



 支店成りで大きく変わることの1つが、所長の所得に対する考え方や働き方です。個人の税理士事務所では、利益のすべてがそのまま所長の所得に近い感覚でしたが、税理士法人に入ると、収入は役員報酬や給与という形に整理されます。つまり、「売上がどうか」だけでなく、「法人全体としてどう配分するか」を考える必要が出てきます。


 この変化を不安に感じる所長は少なくありません。特に、長年自分の判断で事務所を動かしてきた方ほど、所得の見え方や経営の考え方が変わることに戸惑いが出やすいものです。ただ、見方を変えれば、毎月の収入がある程度見通しやすくなり、採用や設備投資のための判断を一人で背負わなくてよいという利点もあります。


 支店成りは、引退のための仕組みというより、働き続けるための仕組みとして捉えるほうが自然です。「まだ現場で働きたい」「顧問先との関係は続けたい」「ただし経営の重さは少し下ろしたい」。こうした希望を持つ所長にとって、支店成りは現実的な選択肢になります。


 もっとも、支店成りを選んだからといって、所長が完全にサラリーマンのようになるわけではありません。担当先への向き合い方や、日々の仕事の進め方には、これまで培ってきた裁量や自由度が残る場面も多くあります。経営の重さを少し下ろしながら、自分らしい働き方を続けられる点こそ、支店成りの大きな魅力といえるでしょう。



 支店成りを進めるうえで、所長自身の条件以上に重要なのが、職員と顧問先との調整です。事務所を支えてきた職員が不安を抱えたまま統合を迎えると、離職につながるおそれがあります。逆に、雇用条件や働き方が大きく変わらないように工夫できれば、移行はかなりスムーズになります。


 特に気をつけたいのは、税理士法人側の就業ルールをそのまま当てはめないことです。勤務時間、休暇の取り方、評価の考え方などが急に変わると、職員にとっては「これまでと別の職場になった」と感じやすくなります。支店成りでは、譲渡先の税理士法人のルールに合わせる必要はありますが、譲渡側の事務所の運用や慣習をできる限り尊重して調整することが大切です。


 顧問先への説明も重要です。担当者が変わらず、業務の進め方も大きく変わらないのであれば、契約継続そのものに大きな問題は出にくいと考えられます。ただし、契約主体が個人から法人に変わるため、契約書の名義変更や請求方法の見直しは必要になります。とくに引落しや収納代行を使っている場合は、口座名義の変更や再契約が必要になることがあり、手続きに時間がかかる点に注意が必要です。こうした変更点も事前に丁寧に案内しておけば、顧問先も納得感を持って受け入れられます。



 支店成りが終わると、一段落したように見えて、実はそこから実務が本格化します。名義変更、口座の切り替え、契約の再設定、ソフトの整理など、細かな作業が次々に発生します。一つひとつは難しくなくても数が多いため、所長一人で抱えると負担がかなり大きくなります


 まず対応が必要なのが、事務所関連の契約です。賃貸借契約、水道光熱費、電話やインターネット、コピー機や業務機器のリースなど、日常的に使っている契約はほぼ確認が必要です。名義変更で済むものもあれば、再契約が必要なものもあります。相手先ごとに対応が違うため、早めに一覧を作って進めることが大切です。


 次に、金融機関や収納代行の変更です。法人口座の開設には時間がかかり、その後の引落し設定やテストまで含めると、移行には数カ月かかることもあります。顧問先への案内も遅れると混乱を招きやすくなります。請求先や振込先が変わる場合は、事前にわかりやすく伝えておく必要があります。


 業務ソフトの名義変更やデータ整理も見落とせません。会計ソフトや申告ソフト、請求管理、ログイン権限の整理など、細かな作業が続きます。こうした作業は職員の協力が欠かせないため、支店成り前から「誰が何を担当するか」を決めておくと、移行後の負担を抑えやすくなります。



 支店成りでは、契約や名義だけでなく、働き方の条件をどこまで文書にしておくかが重要です。たとえば、どこまで顧問先対応を担うのか、新規先の獲得を求められるのか、職員の育成や評価にどの程度関わるのか、といった点です。


 報酬の金額だけを決めても、役割が曖昧なままだと、あとで負担感がずれてしまいます。ここは、後でトラブルになりやすいポイントほど、先に話しておくのが大切です。口頭で済ませず、できるだけ書面で残しておくことで、時間がたっても考え方のズレを確認しやすくなります。また、「将来は業務を少し減らしたい」「何歳くらいまで働きたい」といった見通しも、早い段階で共有しておくと、条件設計がしやすくなります。


 支店成りは、単なる手続きではありません。所長、職員、顧問先の関係を組み直す作業でもあります。だからこそ、制度そのものよりも、事前の話し合いの質がその後の満足度を左右します。



 弊社ご支援の事例を見ても、50代のうちから将来を見据えたご相談をいただく所長が増えており、早めに動く方が結果的に無理のない承継につながっているケースが多いです。この年代は、まだ現場で十分に働ける一方で、採用の難しさやDX対応、人材育成の重さを強く感じ始める時期でもあります。「続けたいが、一人で抱え続けるのは難しい」と感じたときが、検討の出発点になります。


 60代以降でも支店成りは可能ですが、時間に余裕がないほど調整は慌ただしくなります。一方で、50代のうちに動けば、条件や役割を落ち着いて整理でき、顧問先や職員への説明も丁寧に行いやすくなります。早すぎるように見えても、実際にはこの時期が最も無理の少ない承継につながりやすいのです。



 支店成りは、事務所を縮小するための制度ではありません。むしろ、所長がこれからも働き続けるために、責任と負担を整理する方法です。自分の事務所をどう残すかだけでなく、自分自身がどう働き続けるかを考えるきっかけにもなります。


 個人の税理士事務所を長く守ってきた所長ほど、「ここで形を変えるのは迷う」と感じるものです。ですが、支店成りは決して後ろ向きな選択ではなく、これからの10年を無理なく働くための現実的な選択肢です。顧問先や職員との関係を大切にしながら、自分の負担を適切に下げていく。その考え方に合うなら、十分に検討する価値があります。今、事務所の将来を考えるなら、支店成りは有力な選択肢の一つです。まだ余力のあるうちに、一度じっくり検討してみてはいかがでしょうか。



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