税理士事務所のM&A後、所長はどうなる?譲渡後の働き方と関わり方

税理士事務所のM&Aを検討している所長の中には、「事務所を譲渡したら、すぐに税理士を引退しなければならないのではないか」と考えている方もいらっしゃいます。
しかし、実際の税理士事務所のM&Aでは、譲渡した直後から所長が事務所を離れるようなケースはほとんどありません。むしろ、譲渡後も一定期間は税理士として事務所に残り、これまでの顧問先への対応を続けながら、少しずつ後任へ引き継いでいく形が一般的です。
特に、長年にわたって地域で税理士事務所を経営してきた場合、顧問先との関係は所長個人への信頼によって成り立っていることも少なくありません。そのため、譲受側の事務所から「できるだけ長く残ってほしい」と希望されることも珍しくありません。
税理士事務所のM&Aは、所長がすぐに引退するためだけの方法ではありません。経営者という立場から離れながら、税理士として仕事を続ける方法もあります。今回は、税理士事務所のM&A後に所長がどのように関わっていくのか、代表的な選択肢や引継ぎの流れについて解説します。
税理士事務所を譲渡した後も、譲渡側の所長がそのまま税理士として勤務を続けるケースがほとんどです。その大きな理由が、顧問先への影響です。顧問先の中には、10年、20年、場合によってはそれ以上にわたって同じ税理士に相談してきた方もいます。そのような顧問先に対して、事務所のM&Aを行った直後に「来月から別の税理士が担当します」と伝えても、不安を感じる可能性があります。
一方で、M&A後もこれまでの所長が税理士として残っていれば、顧問先にとって大きな安心材料になります。最初はこれまでどおり譲渡側の所長が中心となって対応し、新しい税理士や担当者を紹介します。その後、面談や決算対応などを一緒に行いながら、少しずつ新しい担当者へ引き継いでいけば、顧問先も新体制を受け入れやすくなります。
また、所長が残ることは職員にとっても安心につながります。税理士事務所のM&Aでは、職員の雇用を継続することも重要なポイントです。しかし、経営者が変わることに対して不安を感じる職員もいます。
その際、長年一緒に働いてきた所長が引き続き在籍していれば、新しい事務所との間をつなぐ役割を果たすことができます。業務の進め方や顧問先ごとの注意点などを共有しながら、新しい環境への移行を支えることも可能です。
このように、譲渡後も所長が一定期間残ることには、顧問先、職員、譲受側の事務所それぞれにメリットがあります。そのため、「M&Aをすると税理士をすぐに引退しなければならない」と考える必要はありません。
税理士事務所のM&A後に所長が残る場合、その立場は一つではありません。代表的な形の一つが、税理士法人の「社員税理士」として残る方法です。特に、現在の事務所をそのまま拠点として残す場合には、譲渡した所長が社員税理士となり、その拠点の責任者や支店長のような立場で引き続き勤務することがあります。顧問先から見ても、これまで担当していた税理士が引き続き同じ場所にいるため、M&Aによる変化を最小限に抑えることができます。
一方、「税理士として仕事は続けたいが、事務所経営からは離れたい」という所長もいらっしゃいます。その場合には、所属税理士として勤務する方法も考えられます。長年、税理士事務所の所長を務めていると、税務業務だけではなく、採用や職員管理、給与、営業、資金繰り、設備投資など、さまざまな経営業務を行わなければなりません。
M&Aによって経営を譲受側の事務所へ任せることができれば、こうした負担から離れ、税理士として顧問先対応や得意分野の業務に集中することができます。「事務所経営はそろそろ終わりにしたい。しかし、税理士の仕事そのものを辞めたいわけではない」という所長にとっては、選択肢の一つになります。
さらに、業務量を大きく減らしたい場合には、顧問という形で関わる方法もあります。毎日事務所へ出勤するのではなく、必要なときに顧問先からの相談に対応したり、後任の税理士や担当者へ助言したりする形です。
このように、M&A後の働き方は「続ける」か「辞める」かの二択ではありません。年齢や体調、希望する勤務日数、顧問先との関係などを踏まえながら、自分に合った関わり方を考えることができます。
税理士事務所のM&Aでは、譲渡後すぐに事務所を閉鎖し、すべての顧問先を譲受側の事務所へ移すとは限りません。これまで使用していた事務所をそのまま支店などとして継続し、所長や職員も同じ場所で勤務を続けるケースが多くあります。
この方法であれば、顧問先にとっても変化を抑えることができます。事務所の場所も同じ、これまでの所長もいる、職員も変わらないという状況であれば、顧問先にとってM&Aによる負担は比較的小さくなります。その環境の中で、少しずつ引継ぎを進めていきます。
たとえば、顧問先との面談に譲受側の事務所の税理士や担当者が同席し、顔を覚えてもらうことから始めます。その後、日常的な問い合わせや月次業務などを新しい担当者へ移し、決算や重要な相談については当面、譲渡側の所長も一緒に対応するといった方法があります。すべての顧問先を一斉に引き継ぐ必要はありません。顧問先によって、所長との関係性や業務内容は異なります。比較的引き継ぎやすい顧問先から進め、長年所長自身が深く関与してきた顧問先については時間をかけるなど、それぞれに合わせて進めることが大切です。
また、この期間は顧問先だけではなく、職員にとっての移行期間でもあります。譲受側の事務所の業務方法やルールなどを確認しながら、新しい体制に慣れていきます。譲渡側の所長が間に入ることで、これまでのやり方と新しい事務所の方針を調整しやすくなるでしょう。
税理士事務所の承継では、「誰に引き継ぐか」だけではなく、「どのように引き継ぐか」も重要です。時間をかけて顧問先と職員の双方に新しい体制へ慣れてもらうことが、円滑な承継につながります。
M&A後も可能な限り税理士として働き続けることはできます。一方で、将来的な引退を考えているのであれば、いつまでも譲渡側の所長だけが顧問先対応を続けるのではなく、一定期間をかけて後任の税理士へ引き継いでいくことも重要です。
たとえば、M&A直後はこれまでとほぼ同じように勤務し、顧問先対応を継続します。その後、後任の税理士や担当者との同行や面談を増やし、少しずつ担当を移します。そして、数年後には日常的な顧問先対応から離れ、重要な相談や決算時だけフォローする形へ移行することもできます。
さらに引継ぎが進めば、後任の税理士に拠点運営を任せ、譲渡側の所長は非常勤の税理士や顧問として週に数日だけ勤務することも考えられます。最終的には相談対応のみとし、無理のない形で引退することも可能です。
たとえば「65歳でM&Aをして、70歳頃までは税理士として働きたい」と考えている場合、5年間をかけて徐々に業務量を減らすような計画を立てることもできます。このような段階的な引継ぎは、顧問先にとっても安心です。長年付き合ってきた所長が突然いなくなるのではなく、これまでの所長から「今後はこちらの税理士(担当者)が担当します」と紹介してもらい、一定期間一緒に対応してもらうことで、後任の税理士との信頼関係を築く時間を確保できます。
税理士事務所のM&Aを考える際には、譲渡時点だけではなく、その後数年間をどのように過ごしたいのかまで考えておくことが大切です。「経営からは離れたいが税理士として働きたい」「週3日程度に勤務を減らしたい」「数年間かけて顧問先を引き継いでから引退したい」など、希望する形は所長によって異なります。
M&Aは、税理士としての仕事を終わらせるためだけのものではありません。事務所経営という責任を次の世代へ引き継ぎながら、税理士としての経験を生かして働き続けることもできます。そして、一定期間をかけて顧問先や職員を新しい体制へつなぎ、自分自身も無理のないペースで仕事を減らしていくことができます。
税理士事務所のM&Aを検討する際には、「いつ譲渡するか」だけでなく、「譲渡した後に自分はどのように関わりたいか」についても、譲受側の事務所と一緒に考えていくことが大切です。お互いの希望をすり合わせながら進めることで、譲渡後の働き方についても、自分の希望に合った形を実現しやすくなるでしょう。





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