税理士事務所のM&Aは自分でもできる?仲介会社を利用する意味とは

税理士事務所の所長が将来の事務所の承継を考え始めたとき、選択肢の一つとなるのが第三者へのM&Aです。KACHIELでは、税理士事務所・税理士法人に特化してM&Aの支援を行っており、初回のご相談から候補となる候補先事務所探し、面談の調整、譲渡対価や働き方などの条件調整、契約、その後の引継ぎまでサポートしています。
実際に税理士事務所の所長からいただくご相談として多いのは、「自分の事務所を引き継いでくれる税理士はいるのか」「まだM&Aをするか決めていないが、一度話を聞いてみたい」といったものです。
一方で、数としては多くありませんが、「すでに事務所を引き継いでくれそうな税理士がいる」という状態でご相談いただくこともあります。その場合、候補先探しではなく、譲渡対価をどのように決めるのか、どのようなスケジュールで進めるのか、契約内容をどうするのかといった部分で仲介会社のサポートを希望されるケースがあります。
そもそも税理士事務所のM&Aでは、必ず仲介会社を利用しなければならないわけではありません。それでも仲介会社が利用されるのはなぜなのでしょうか。今回は、税理士事務所のM&Aにおける仲介会社の役割や利用する意味について解説します。
税理士は、他の税理士とのつながりを持つ機会が多い職業です。税理士会や税理士協同組合をはじめ、税理士向けのセミナーや勉強会、税理士資格の取得を目指していた頃の専門学校の知人、自身で開業する前に勤務していた税理士事務所・税理士法人の先輩・後輩、同じ会計ソフトを利用している税理士同士の集まりなど、さまざまなつながりがあります。
そのため、税理士事務所の承継を考えた際に、以前から付き合いのある税理士へ直接相談することも一つの方法です。すでにお互いの人柄や考え方を理解している関係であれば、安心して相談できることは大きなメリットです。また、仲介会社を利用すると一定の手数料が発生するため、その費用を抑えられることも知り合い同士での承継のメリットといえます。
特に「この税理士に事務所を引き継いでもらいたい」という相手が明確であり、譲渡後の働き方や職員、顧問先の引継ぎについてもお互いの考えが一致しているのであれば、当事者同士で話を進めることも可能です。
一方、知り合いだからこそ難しくなることもあります。たとえば、譲渡対価について「もう少し高くしてほしい」「その金額では引き継げない」といった話を、長年付き合いのある税理士同士で率直に伝えるのは簡単ではありません。職員の給与、譲渡後の所長の報酬、顧問先の引継ぎ、拠点を残すかどうかなど、条件が具体的になるほど意見の違いが出てくる可能性もあります。
実際に、一度は知り合いの税理士との間で承継の話を進めたものの、条件面の調整が難しくなり、途中から仲介会社に条件調整のサポートを依頼したり、知り合いへの承継ではなく、第三者への承継に切り替えて相談されたりするケースもあります。
仲介会社を利用する大きな意味の一つが、候補先となる事務所の選択肢を広げられることです。自分自身で候補を探す場合、どうしてもこれまでに接点のあった税理士が中心になります。
しかし、税理士事務所の承継では、必ずしも近隣の事務所が最適な相手になるとは限りません。隣接する都道府県の事務所や、これからその地域への進出を考えている税理士法人などが候補になることもあります。仲介会社が税理士事務所・税理士法人とのネットワークを持っていれば、自分だけでは接点を持つことが難しかった相手も含めて候補を探すことができます。
複数の候補が見つかれば、単純な譲渡対価だけではなく、「職員の雇用を継続してもらえるか」「現在の拠点を残してもらえるか」「顧問先への対応方針が合っているか」「自分自身が譲渡後も働けるか」といった条件も比較できます。
また、税理士という職業は地域内でのつながりが強く、同じ税理士会の支部や市内・県内の税理士同士で顔見知りということも珍しくありません。そのため、「同じ支部の税理士にはまだ知られたくない」「職員や顧問先に伝わる前に情報が広まることは避けたい」と考える税理士事務所の所長もいらっしゃいます。このような場合、最初から知り合いの税理士へ相談するのではなく、仲介会社を通して候補先を探す方法も考えられます。
税理士事務所のM&Aでは、「いくらで譲渡するか」だけを決めればよいわけではありません。職員の雇用や給与をどうするのか、顧問先をどのように引き継ぐのか、現在の拠点を継続するのか、譲渡側の所長が譲渡後にどのような働き方をするのか、どの程度業務に関わるのかなど、決めなければならないことは多岐にわたります。
たとえば、譲渡側の所長が「職員の雇用条件は変えないでほしい」と考えていても、譲受側の事務所にも、独自の給与体系や勤務ルールがあります。譲渡側の所長が数年間は現役を続けたい場合にも、勤務日数や仕事内容、報酬、引退時期などを具体的に決める必要があります。
こうした条件について、税理士同士が直接交渉すると、お互いに伝えにくいことが出てくる場合があります。そこで第三者である仲介会社が間に入り、「譲渡側の税理士が何を優先しているのか」「譲受側はどこまで対応できるのか」を整理することで、話し合いを進めやすくなります。
譲渡対価についても同様です。税理士事務所の価値は売上だけで単純に決められるものではありません。利益の状況や顧問先の構成、職員体制、所長への依存度、譲渡後の引継ぎ方法など、さまざまな要素によって条件は変わります。過去の税理士事務所M&Aの事例を把握している仲介会社が間に入ることで、双方の希望だけではなく、実際の事務所の状況も踏まえながら条件を整理しやすくなります。
税理士事務所のM&Aでは、契約を締結することがゴールではありません。むしろ大切なのは、その後に職員や顧問先をスムーズに引き継ぎ、事務所の運営を安定させることです。
M&Aを進める過程では、いつ職員へ説明するのか、顧問先には誰からどのように案内するのか、会計データや資料をどのタイミングで移行するのかなど、実務上決めるべきことが数多くあります。
また、契約前の段階では、情報管理にも注意が必要です。事務所の承継を検討していることが早い段階で職員や顧問先へ伝わってしまえば、不安を与えてしまう可能性があります。そのため、候補先への情報開示の範囲やタイミングを考えながら進める必要があります。
仲介会社を利用する場合には、候補先への情報開示や秘密保持、面談の日程調整、条件の整理、契約内容の確認など、M&Aの各段階を順番に進めていくことができます。もちろん、すべての税理士事務所が仲介会社を利用する必要があるわけではありません。信頼できる税理士が身近にいて、お互いの希望条件も明確なのであれば、当事者同士で承継を進めることも一つの選択肢です。
一方で、「誰に引き継いでもらえばよいかわからない」「知り合いの税理士にはまだ相談したくない」「適正な譲渡対価がわからない」「条件交渉を自分ですることに不安がある」という場合には、仲介会社を利用する意味があります。
税理士事務所のM&Aでは、譲渡対価だけではなく、長年働いてきた職員や大切な顧問先、そして所長自身の譲渡後の働き方まで考えることが重要です。仲介会社を利用するか、知り合いの税理士へ直接相談するかに絶対的な正解はありません。それぞれの特徴を理解したうえで、自分の税理士事務所にとってどの方法が適しているのかを考えることが、納得できる事務所の承継につながります。




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