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税理士事務所のM&Aで譲渡対価はどう決まる?~評価ポイントと報酬設計の考え方~

執筆者の写真: 小杉 啓太
小杉 啓太
8月7日
読了時間: 6分

 税理士事務所のM&Aでは、「いくらで譲渡するか」だけでなく、「譲渡後に所長がどう関わるか」まで含めて考えることが大切です。この記事では、譲渡対価の考え方と、その後の報酬設計の考え方を整理します。



 税理士事務所の譲渡対価には、実は「この計算式で必ず決まる」という共通のルールはありません。実務では、譲渡側の所長と譲受側の事務所が個別に事情を見ながら、双方が納得できる水準に落とし込んでいくのが一般的です。目安としては、次のような考え方がよく使われます。

 ただし、これらはあくまで「入口の目安」です。税理士事務所は、製造業や小売業のように設備や在庫で価値を測りにくく、価値の中心は「顧問先との関係」「職員の安定」「所長の信用」にあります。そのため、税理士事務所の譲渡対価は、表面的な数字だけでは決まりません。


 たとえば、同じ売上でも、毎月の顧問報酬が安定していて、解約が少なく、職員がきちんと業務を回せる事務所は高く評価されやすくなります。逆に、売上は大きく見えても、特定の顧問先に依存していたり、所長ひとりの力で保っていたりすると、評価は下がりやすくなります。税理士事務所の価値は、過去の数字だけでなく、未来にどれだけ安心して引き継げるかで見られるのです。



 譲渡対価を考えるとき、「売上×何%」「所得×何年分」という見方だけに頼ると、判断を誤ることがあります。税理士事務所の場合、譲受側の事務所が見ているのは、単なる売上の大きさではなく、その売上が今後も続くかどうかです。


プラス評価になりやすい要素は、たとえば次のようなものです。

一方で、マイナス評価になりやすい要素もあります

 つまり、税理士事務所の譲渡対価は、「今いくら稼いでいるか」だけでなく、「これからも安心して続けられるか」が強く影響します。譲受側の事務所は、売上の見た目よりも、事業の安定性、職員の定着、顧問先との関係の深さを見ます。税理士事務所にとっては、日々の運営そのものが価値づくりになっているということです。


 また、所長の関与の仕方も重要です。譲渡後もしばらく現役で関わるなら、顧問先の不安が減り、継続率が上がる可能性があります。その分、税理士事務所の価値は高く見られやすくなります。反対に、引継ぎ期間がほとんどない場合は、譲受側の事務所が慎重になりやすいでしょう。



 譲受側の事務所は、「投資したお金を何年で回収できるか」を重視します。多くの場合、回収期間の目安は3~5年です。


 たとえば、年間の営業利益が1,000万円ある税理士事務所なら、3~5年で回収する考え方から、譲渡対価の目安は3,000万~5,000万円程度になります。もちろん、これは単純な目安であり、実際にはもっと細かい調整が入ります。


 この考え方で大切なのは、譲受側の事務所が「将来の利益」を見ていることです。今の利益が高くても、譲渡後に急に減りそうなら、譲受側の事務所は慎重になります。逆に、現在の利益がそこまで大きくなくても、引継ぎがうまくいき、顧問先が安定して残りそうであれば、評価は上がることがあります。譲受側の事務所が特に気にするのは、次の点です。

 ここで重要なのは、税理士事務所の譲り受けは「すぐに利益が出るか」よりも、「安心して回収できるか」が大事だということです。は、譲渡対価の金額そのものより、回収の確実性を見ています。



 税理士事務所の価値を語るうえで欠かせないのが、数字に表れにくい無形資産です。税理士事務所の中心は、設備ではなく「人」です。所長の人格的信用、職員とのチームワーク、顧問先との長年の信頼関係が、事務所の価値を支えています。


 税理士事務所では、「売上」という過去の結果よりも、「安心して未来を任せられる体制」が重要です。たとえば、所長がいなくなった途端に顧問先が離れてしまう事務所は、見た目の売上が良くても高く評価されません。逆に、所長が変わっても業務が続き、職員が安定していて、顧問先も自然に受け入れられる事務所は、税理士事務所としての価値が高いと見なされます。


 この無形資産は、普段は見えにくいのですが、M&Aの場面ではかなり重視されます。譲受側の事務所は、「将来の安心」を買っているからです。つまり、長年の信頼の積み重ねそのものが、譲渡対価に反映されるといえます。



 税理士事務所のM&Aでは、譲渡対価を一度に受け取る形だけが正解ではありません。実際には、譲渡対価の一部を一時金で受け取り、残りを役員報酬の上乗せや退職金として分けて受け取る設計がよく検討されます。


 その理由は、税務上の負担や受け取りの安定性を考えやすいからです。税理士事務所の譲渡対価は、一般に雑所得として扱われることが多く、受け取り方によって手取りが変わります。そのため、譲渡先での所長の在籍期間が長いほど、税効率を意識した設計をしやすくなります


 この方法の利点は、税理士事務所の引継ぎと収益確保を両立しやすいことです。譲受側の事務所にとっても、最初から大きな支払いを一度に負担するより、数年かけて支払うほうが受け入れやすい場合があります。譲渡側の所長にとっても、譲渡後すぐに引退任するより、一定期間関与することで顧問先の安心感を保ちやすくなります。


 ただし、重要なのは「受け取り方を複雑にすること」ではなく、「実情に合った無理のない形にすること」です。無理に数字だけ合わせても、実際の業務が回らなければ意味がありません。譲渡側の所長の働き方、後継者の配置、顧問先の不安の少なさを見ながら、自事務所にとって自然な形を選ぶことが大切です。



 税理士法人の譲渡対価の考え方は、個人の税理士事務所と大きくは変わりません。基本は、売上や利益といった収益力をベースに見ます。ただし、税理士法人では純資産、特に余剰の現預金が加わる点が特徴です。

 

 長年堅実に経営している税理士法人では、利益が内部にたまりやすく、その結果として純資産が大きくなりがちです。これは一見すると良いことですが、M&Aの場面では注意が必要です。純資産が大きすぎると、譲渡対価が高くなりすぎて、買い手がつきにくくなることがあります


 つまり、税理士法人の場合は、収益力と純資産のバランスを見ながら考える必要があります。税理士法人を守るために蓄えたお金が、いざ譲渡するときには価格の重さになることがあるのです。


 税理士法人でも、結局は「安心して引き継げるか」が重要です。利益があっても、仕組みが弱ければ評価は伸びません。逆に、組織として安定していれば、税理士法人の価値はきちんと伝わります



 税理士事務所M&Aの譲渡対価は、「売上×%」や「所得×年数」だけで決まりません。事務所の将来性、職員の安定、顧問先との関係、譲渡側の所長の関与の仕方が、価格を大きく左右します。


 また、譲渡後の報酬設計は、単に税務上の有利不利を見るだけでなく、引継ぎのしやすさや顧問先の安心感まで含めて考える必要があります。税理士事務所の価値は、数字と人の両方でできています。その両面を丁寧に整えることが、納得できる譲渡につながります。


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