税理士事務所のM&Aにおけるトラブルの回避方法~統合のプロセス編~
- 小杉 啓太

- 7月4日
- 読了時間: 6分
1.契約締結前後に起きやすいトラブルと回避方法
税理士事務所のM&Aは、契約書を交わした時点で「これで一安心」と思いがちですが、実は本番はここから始まります。税理士として事務所を守り、発展させていくためには、契約締結前後の繊細な対応が欠かせません。多くの税理士事務所のM&Aでは、契約書の締結がゴールのように扱われることが多いものの、実際にはその後のプロセスで多くのトラブルが発生します。例えば、職員や顧問先への説明が不十分だと、信頼関係が損なわれ、離脱や混乱を招くことがあります。税理士事務所のM&Aが成功するかどうかは、契約後の「人」への対応にかかっていると言っても過言ではありません。
職員への情報伝達のタイミングは、税理士事務所のM&Aにおいて非常に重要です。譲渡先の選定段階から一部の職員に相談しているケースもありますが、多くの場合、契約締結の直前や直後に全体へ公表することが多いでしょう。その際には、突然の発表による動揺を避けるため、できるだけ早い段階から「将来の事務所のために検討していることがある」と伝えておくことが望ましいです。職員の中には「M&A=リストラ」などの不安を抱く人もいるため、雇用や待遇に大きな変更がないことや、今後の方針を丁寧に説明することが求められます。また、質問や不安に個別に対応する場を設けることで、職員の離脱やモチベーション低下を防ぐことができます。税理士事務所のM&Aでは、職員が安心して働き続けられる環境づくりが最優先課題となります。
顧問先に対しても、税理士事務所のM&Aでは透明性の高い情報提供が必要です。なぜ統合するのか、今後どのような体制になるのか、サービス内容や担当者は変わるのかなど、具体的な情報を明確に伝えることが不可欠です。事務所の名義や契約主体が変わる場合には、顧問契約書の更新や再締結も必要となります。これを怠ると、後々のトラブルや誤解につながる恐れがあります。顧問先の信頼を維持し、安心してサービスを受けてもらうためにも、税理士として誠実な対応が欠かせません。
M&Aに関する契約書は、税理士事務所の将来を左右する重要な書類です。内容が曖昧だったり、リスクの洗い出しが不十分だと、後から大きなトラブルに発展することがあります。専門家のサポートを受けながら、契約内容を明確にし、法的リスクを最小限に抑えることが大切です。
このように、税理士事務所のM&Aは契約締結後が本番であり、職員や顧問先への丁寧な説明と対応が不可欠です。職員の不安や離脱を防ぐため、早期かつ誠実なコミュニケーションを心がけ、顧問先には透明性の高い情報提供と必要な契約更新を徹底することが求められます。契約書は専門家とともに慎重に作成し、法的リスクを回避する姿勢が重要です。
2.統合プロセス(PMI)段階でのトラブルとその対応
M&A後の統合プロセス、いわゆるPMIの段階は、税理士事務所同士が実質的に「一つの組織」として機能するための非常に重要な局面です。ここでの対応を誤ると、せっかくのM&Aも現場での混乱や信頼喪失によって、失敗に終わってしまう可能性があります。税理士事務所のM&Aでとくに注意すべきは、職員への対応です。M&Aを通じて税理士事務所が統合する際、ただ「統合しました」と伝えるだけでは不十分で、職員がこれまでと変わらず安心して働ける環境づくりが求められます。人材の流出や士気の低下を防ぐには、制度や働き方の変化について、納得感を持ってもらえる説明と配慮が欠かせません。
たとえば、リモートワークやフレックス制度などの働き方に違いがある場合には、統合と同時に一律で変更するのではなく、拠点ごとにルールを変えたり、移行期間を設けて段階的に導入することが望ましいでしょう。また、給与体系や評価制度に違いがある場合も、「今までとここが違う」「評価制度は来期から変更予定」など、変更点を具体的に示しながら丁寧に説明することが重要です。
また、見落としがちなのが暗黙のルールや事務所文化の違いです。「うちではこうしていた」「それは前の所長の方針だった」など、表面には出にくい違和感が積み重なることで、職員のストレスや不満につながることがあります。これを防ぐには、職員一人ひとりと向き合う姿勢が求められます。必要に応じて個別面談を実施し、不安や疑問を聞き取る場を設けるのも効果的です。
多くの税理士事務所のM&Aでは、譲渡側の所長が一定期間残るケースも少なくありません。このような状況は、現場の声を吸い上げやすい貴重な機会でもあります。拠点ごとの事情に配慮しながら、柔軟に対応することで、職員にとっても受け入れやすい統合が実現できます。
M&A後の統合プロセスでは、職員との継続的なコミュニケーションが不可欠です。定期的な面談や食事会など、非公式な場も活用しながら、職員の不安や疑問に寄り添うことが大切です。所長が積極的に職員と対話し、組織文化や業務フローの違いについて丁寧に説明し、疑問点を解消する努力が求められます。必要に応じて外部の専門家(社労士など)のサポートも活用し、職員が安心して働ける環境を整えることが、税理士事務所のM&A成功のカギとなります。
3.M&A成功のためには地道な準備が必要
税理士事務所のM&Aを成功させるためには、派手な戦略よりも地道な準備と誠実な対応が何よりも大切です。M&Aの初期段階から関係者全員に対して正確な情報を提供し、リスクをしっかり評価することがトラブル回避の基本となります。税理士として、デューデリジェンス(事前調査)を徹底し、潜在的なリスクを洗い出しておくことが肝要です。契約書は専門家とともに内容を精査し、曖昧な表現や抜け漏れがないようにします。税理士事務所のM&Aでは、特に雇用や顧問契約、税務処理に関する条項を明確にしておくことが重要です。
統合プロセス(PMI)は、事前に計画を立てておくことでスムーズな実行が可能となります。職員・顧問先への対応、業務フローやシステムの統一、税務処理の整備など、具体的な実行計画を用意し、関係者と共有することが大切です。M&Aは「人と人」の統合であり、職員や顧問先、関係者とのコミュニケーションを密にし、不安や疑問には迅速かつ誠実に対応することが求められます。税理士事務所のM&A成功の秘訣は、地道な対話と信頼の積み重ねにあります。税理士だけでなく、弁護士や社労士、M&Aアドバイザーなど、必要に応じて外部の専門家の力を借りることも大切です。第三者の視点を取り入れることで、見落としがちなリスクや課題にも気づきやすくなります。
4.まとめ
税理士事務所のM&Aは、単なる契約書の締結で終わるものではありません。むしろ、契約後の統合プロセス(PMI)が本当の勝負です。職員や顧問先への誠実な説明と対応、税務・業務面のリスク管理、そして何よりも「人」を大切にする姿勢が、税理士事務所のM&A成功のカギとなります。契約締結前後は、職員・顧問先への丁寧な説明と契約書の明確化が不可欠です。統合プロセス(PMI)段階では、職員の安心感を守り、税務・業務面の統合を着実に進めることが求められます。税理士事務所のM&A成功のためには、地道な準備とコミュニケーション、専門家の活用が重要です。
税理士事務所の未来を切り開くM&A。その成功のために、税理士としての誠実さと準備力を最大限に発揮しましょう。トラブルを未然に防ぎ、すべての関係者が納得できるM&Aを実現することが、税理士事務所の所長としての最大の使命です。




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