税理士事務所のM&Aで候補先はいつ1つに絞る?独占交渉までの流れ

税理士事務所のM&Aを検討する際、「いつ候補先を1つに絞ればよいのか」「どの段階で独占交渉に進むのか」と疑問を持つ所長もいらっしゃるのではないでしょうか。税理士事務所のM&Aは、譲渡側の所長にとって初めての経験となる場合がほとんどであり、最初に面談した相手とそのまま話を進めるものなのか、それとも複数の候補先を比較してから決めるものなのか、イメージしにくいかもしれません。
実際には、最初から1つの事務所に絞る必要はありません。複数の候補先と面談し、それぞれの考え方や条件を確認したうえで、「この相手であれば、さらに具体的な話を進められそうだ」と判断できた段階で候補先を絞っていくことが一般的です。
今回は、弊社が税理士事務所のM&Aをご支援する際の進め方をもとに、候補先の選定から独占交渉に進むまでの流れや判断する際のポイントについて解説します。なお、M&A
の進め方は仲介会社や案件によって異なりますので、一つの例としてご覧ください。
税理士事務所のM&Aについてご相談をいただいてから、実際に事務所の譲渡を実行するまでには1年程度かかるケースが多くあります。もちろん、すべての税理士事務所が1年かかるわけではありません。条件が早い段階でまとまり、双方の確認も順調に進めば、半年程度で譲渡に至るケースもあります。
一方で、1年半、場合によっては2年以上かけて慎重に進める所長もいらっしゃいます。税理士業界の場合年間を通して同じペースで話し合いを進められるとは限りません。特に2月から3月にかけては確定申告の繁忙期となるため、税理士業界全体が忙しくなります。また、法人の顧問先が多い税理士事務所では、特定の月に決算や申告が集中していることもあります。
そのため、実際に候補先との面談や条件の話し合いを行っている期間だけを見ると9か月程度でも、繁忙期などを挟むことで、ご相談から譲渡まで結果として1年程度経過していることがあります。
「M&Aの検討を始めたら、すぐに事務所を譲渡しなければならない」というわけではありません。税理士事務所のM&Aでは、譲渡対価だけでなく、顧問先への対応、職員の雇用、拠点の継続有無、譲渡側の所長の譲渡後の働き方や関わり方など、確認しておきたいことが数多くあります。そのため、ある程度の時間がかかることを前提として、余裕を持って動き始めることが大切です。
税理士事務所のM&Aを進める場合、最初から譲渡する相手が決まっているとは限りません。弊社ではまず、譲渡を希望する税理士事務所について、事務所名などを伏せたノンネーム情報をもとに候補先の事務所を探していきます。そのうえで、それぞれの候補先が事務所の譲受についてどのような考えを持っているのかを確認し、譲渡側の所長に情報をお伝えします。
候補先を選ぶ際に確認するポイントは一つではありません。たとえば、相手の事務所の規模、所在地、所属する税理士の人数などの基本的な確認事項に加えて、職員の雇用条件は変わるのか、統合後も現在の事務所を残す考えがあるのか、別の拠点へ統合する予定なのか、現在利用している会計ソフトを継続できるのかといった点も重要です。もちろん、譲渡対価についてどのような考えを持っているかも確認しておく必要があります。
ただし、資料だけですべてを判断することは難しいものです。税理士事務所のM&Aでは、条件だけでなく、相手の税理士の人柄や顧問先に対する考え方、職員との接し方なども、その後の承継を左右します。そのため、条件面で一定の可能性がある候補先が複数ある場合には、まず複数の候補先の事務所と初回面談を行うケースが多いです。
初回面談の目的は、その場で統合先を決定することではありません。「この税理士であれば、自分の顧問先を任せられそうか」「職員が一緒に働くイメージを持てそうか」「もう少し具体的な話を聞いてみたいと思えるか」といったことを確認する場だと考えるとよいでしょう。
初回面談が終わった後は、譲渡側と譲受側の双方に今後も検討を続けたいかを確認します。どちらかが「考え方が合わない」と感じた場合には、無理に次へ進める必要はありません。
一方で、双方が引き続き検討したいという意向であれば、ここから少しずつ具体的な話に入っていきます。たとえば、顧問先の構成や売上、職員の担当業務、雇用条件など、初回面談前には開示していなかった詳しい情報を共有していきます。
その情報を確認しながら、「統合後も現在の場所で事務所を続けるのか」「職員の働き方や雇用条件をどのようにするのか」「顧問先へのサービスをどのように引き継ぐのか」「譲渡する所長本人は何年間、どのような形で統合先の事務所に残るのか」など、統合後の具体的な形について話し合います。
ここで大切なのは、初回面談をしたからといって、すぐに1つの事務所へ候補を絞らなければならないわけではないということです。初回面談を終えた段階で「この相手と進めたい」と双方の意向が一致し、候補先を1つに絞るケースもあります。
一方、複数の候補先の事務所と複数回の面談を行い、詳細な情報や条件を比較したうえで候補先を決めるケースもあります。税理士事務所ごとに重視するポイントは異なります。譲渡対価を重視する所長もいれば、職員の雇用を最優先に考える方、顧問先への対応方針を重視する方、ご自身の統合後の関与の仕方を重視する方など、さまざまです。
そのため、「何回面談したら決める」という回数ではなく、自分が大切にしたい条件について確認できたかどうかを基準に考えることが重要です。
では、どのタイミングで候補先を1つに絞り、独占交渉に進むのでしょうか。弊社が支援する税理士事務所のM&Aでは、顧問先や職員に関する情報、事務所の各種資料などを確認し、統合後の大まかな形が見えてきた段階で独占交渉に進むことが多くあります。
特に重要になるのが、譲渡対価とその支払い方法です。税理士事務所の譲渡では、「総額でいくらになるか」だけを確認すればよいとは限りません。一括で支払うのか、数年間に分けて支払うのか、顧問先の引継ぎ状況によって金額を調整するのかなど、実際の支払い方法まで確認しておく必要があります。
こうした条件について双方の認識がある程度そろい、「この内容であれば具体的に進められそうだ」という段階になると、譲受側から今後の条件や希望をまとめた書面(意向表明書)が提示されたり、双方で基本的な合意内容をまとめた書面(基本合意書)を取り交わしたりします。
そして、それを一つの区切りとして候補先を1つに絞り、独占交渉に移るケースが多くあります。独占交渉に進むということは、他の候補先との話をいったん止め、その相手との成約を目指して、より具体的な確認を進めるということです。だからこそ、「初回面談の印象がよかった」という理由だけで決めるのではなく、詳細な情報を開示し、重要な条件について一定の認識を合わせてから判断することが大切です。
税理士事務所のM&Aでは、譲渡対価だけでなく、顧問先、職員、事務所、所長本人の今後など、多くの要素が関係します。すべての条件が完全に確定してからでなければ独占交渉に進めないわけではありませんが、少なくとも「自分が譲れない条件」と「相手が考えている統合後の姿」に大きなずれがないかは確認しておきたいところです。
初回面談は相手を知るための機会、その後の面談は具体的な条件や統合後の姿を確認する機会、そして独占交渉は「この相手とのM&Aを具体的に進めたい」と判断した段階と考えると、全体の流れをイメージしやすいでしょう。
税理士事務所のM&Aは、必ずしも短期間で相手を決める必要はありません。複数の候補先を比較しながら、自分の顧問先や職員を安心して任せられる事務所を見極め、納得できる条件を確認したうえで候補先を絞ることが、その後の円滑な承継につながります。





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