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税理士の高齢化時代、70代からの承継準備とは?

  • 執筆者の写真: 菅原 良平
    菅原 良平
  • 5月14日
  • 読了時間: 8分

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税理士の「引き際」に向き合う時代へ


 かつて「定年」という概念がなかった税理士という職業。70代、時に80代になっても現役で活躍される先生方も多くいらっしゃいます。「まだまだ元気」「引退なんて考えていない」とおっしゃる税理士の声も珍しくありません。しかし今、業界全体に“見えない壁”が立ちはだかっています。それは「いつか考えよう」という先送りの習慣が、事務所の未来に大きなリスクを招くという現実です。


本記事では、税理士の高齢化が進む中で、70代からでも実行できる承継の考え方・具体的な準備・現実的な選択肢としてのM&Aについて解説していきます。「もう遅い」ではなく、「今だからこそできること」があります。


1.なぜ“70代からの承継”が問題になるのか?


税理士業界に迫る「引き際を見失う」リスク


日本の税理士業界では、平均年齢の上昇が顕著です。国税庁の調査によれば、60代以上の税理士が全体の半数以上を占めており、70代の税理士も一定数存在しています。医師や弁護士と同様、国家資格を活かし続けられる職種ではありますが、「定年がない」ことは、時に“引き際”を曖昧にします。


「元気だから大丈夫」は本当に安全か?


確かに、70代になっても日々顧問先と丁寧に向き合い、現場で活躍している税理士の姿は多くの信頼を集めています。しかし、身体は正直です。突然の入院や体調不良、認知機能の一時的な低下は誰にでも起こり得ること。特に「ひとり所長」で運営されている事務所では、税理士本人が倒れただけで業務が完全に止まる、という事態も少なくありません。


さらに見落としがちなのが、職員の“将来不安”です。所長が70代を迎え、「この先もずっとここで働けるのか」という不安を感じる若手職員は、別の職場を探し始める可能性があります。「まだ元気だから」は所長の感覚であって、周囲はすでに危機感を覚えているケースがあるのです。


「そのうち考える」は通用しない時代へ


70代からの承継は、時間的にも体力的にも「待ったなし」です。60代で準備を始める方と比べ、残された時間は限られています。それでも「今すぐ動けば間に合う」ことも多くあります。税理士が築き上げた信頼と顧問先との関係性は、承継にとって最大の価値です。しかし、それを誰かに引き継ぐには「準備期間」が必要です。「考えておけばよかった」と後悔しないように、今こそ一歩を踏み出す時です。


2.承継は“引退”ではない──年齢を理由に諦めない


「譲ること」と「働き続けること」は両立できる


「承継」と聞くと、「もう仕事を辞めるのか」「自分の出番は終わりか」と受け止めがちです。しかし、それは過去の考え方です。今は「働きながら譲る」「得意分野だけ関与し続ける」など、新しい形の承継が増えています。


“全部譲る”ことが必ずしも正解ではない


たとえば、M&Aで事務所を第三者に譲渡したとしても、税理士本人が一定期間アドバイザーとして残るという形も一般的になっています。これは「引退」ではなく、「役割の再編成」です。日々の経理処理や申告書チェックなどの業務は後継者や買い手に任せ、自分は顧問先の経営相談や相続対策など、“本当に価値ある部分”だけに集中できるようになります。70代という年齢は、「引退のサイン」ではなく、「役割を選ぶタイミング」だと考えてみてください。


“働きながら譲る”ことで、信頼関係をつなげる


長年付き合ってきた顧問先にとって、税理士は単なる外部の専門家ではありません。「あの先生じゃないと相談できない」という深い信頼関係があるからこそ、承継は慎重に進める必要があります。いきなり「今月で引退します。来月からは別の人です」では、顧問先も不安になって当然です。


そこで重要なのが「段階的な承継」です。たとえば、まずは業務の一部を後継者に任せ、税理士本人も並行して関わる期間を設ける。顧問先にも徐々に慣れてもらうことで、スムーズな引き継ぎが実現します。


3.70代の所長が抱えがちな“属人化リスク”とは?


─ 顧問先・職員・ノウハウの集中が承継の障害に─


税理士事務所では、長年の業務の中で“属人化”が進んでしまっているケースが多くあります。これは「特定の人がいなければ回らない仕組み」ができてしまっている状態を指します。特に70代の所長税理士の場合、次のような傾向が強く見られます。


「所長じゃないとダメ」な顧問先


顧問先からの信頼が深いのは素晴らしいことですが、それが裏返すと「所長以外では無理」という依存状態を生んでしまいます。これは、後継者が入った際に大きな壁となります。「知らない人に税務を任せるのは不安」という声から、契約解除に至るリスクもゼロではありません。


職員も「所長依存」に?


長年一緒に働いてきた職員もまた、業務の進め方を所長に頼っている場合があります。「何かあったら所長が判断してくれる」「難しい案件は所長に聞けばいい」──こうした状態では、所長が不在になった瞬間に混乱が生じます。


業務ノウハウの“見える化”がカギ


まず取り組むべきは、「所長の頭の中」をデータやマニュアルに落とし込む作業です。業務フローや取引先の特徴、過去の対応履歴など、日々の判断を支えている知識を“見える化”しておくことで、属人化リスクは大幅に減少します。税理士としての経験やノウハウは貴重な財産です。それを引き継ぐ準備が、承継成功の第一歩となるのです。


4.70代からでもできる“承継準備”のステップ


残された時間を最大限活かす「逆算型」の進め方


70代で承継準備を始める場合、時間的な余裕は決して多くはありません。しかし、要点を押さえた進め方をすれば、短期間でも十分に効果的な承継が可能です。ここでは、実行性のある5ステップを紹介します。


ステップ①:現状の棚卸し


まずは「自分の事務所がどんな状態か」を客観的に整理することから始めます。

具体的には以下の項目を見直しましょう。


・顧問先の件数・業種・契約形態

・職員の人数・年齢構成・業務内容

・所長自身の担当範囲・裁量の度合い

・財務状況・月次利益・借入金の有無

・将来的に退職金や譲渡収入が必要かどうか


税理士として日々業務をこなしていると、自分の事務所の「全体像」が見えにくくなるものです。この棚卸しが、承継戦略を立てる出発点となります。


ステップ②:希望条件の明確化


次に、「自分はどういう形で事務所を承継したいか」を考えます。


たとえば、


・身内や職員に譲りたいのか

・外部の税理士や法人に譲渡したいのか

・完全に引退したいのか、少し関与を残したいのか

・報酬や譲渡金額の希望があるか


ここでの希望は、後から調整が可能です。

ただ、最初に方向性を明確にしておくことで、動き方がぶれにくくなります。


ステップ③:内部体制の整備


「譲れる状態にする」ための準備です。


具体的には、


・顧問先との契約書の見直し・整理

・職員への情報共有(突然の発表は混乱の元)

・業務マニュアルの作成やITツールの見直し


税理士事務所の“価値”は、関係性の安定と、

業務の再現性です。後継者が迷わずに引き継げるよう、準備を進めましょう。


ステップ④:外部アドバイザーの活用


70代からの承継にはスピードと専門性が求められます。

特に第三者への譲渡やM&Aを考える場合は、経験豊富な

仲介会社やアドバイザーに相談するのが賢明です。


彼らは、


・候補先の紹介

・価値評価や条件交渉の支援

・契約や法的手続きのフォロー


などを一手に引き受けてくれます。税理士業界に特化したM&A支援会社であれば、

業界の慣習も理解しており、安心して任せられます。


ステップ⑤:顧問先・職員への丁寧な説明


承継が決まった後は、顧問先や職員に誠実に説明することが重要です。「どんな人が引き継ぐのか」「なぜ今承継するのか」「所長は今後どう関わるのか」などをしっかり伝え、不安を取り除きましょう。税理士の信頼関係は、透明性と誠意によって保たれます。


5.70代でも可能な「M&A」という選択肢


後継者がいなくても事務所を未来につなぐ方法──


「うちには後継者がいない」「職員にも継がせられない」──このような税理士にとって、M&Aは非常に現実的な承継手段です。M&Aというと、「企業買収」「巨大な資金の動き」といったイメージを持たれがちですが、税理士事務所のM&Aはもっと身近で、堅実な取引が中心です。


実際のM&Aの進め方


一般的な税理士事務所M&Aは、以下のような流れで進みます。


1.アドバイザーへの相談・希望条件の整理

2.候補先の提案(同業者や税理士法人など)

3.面談・相性確認

4.譲渡条件の調整・契約

5.引き継ぎ期間の設計と実行


70代からでも、事務所の規模や収益、顧問先との関係性がしっかりしていれば、

十分に売却対象となり得ます。


譲渡後も「働き続ける」M&Aが増えている


近年では「事務所は譲渡するが、自分は引き続き働く」というスタイルが増えています。


たとえば、


・顧問契約の“引き継ぎ”に一定期間関与

・月数日だけ来所して後継者のフォローをする

・得意な案件だけ限定的に対応する


これはM&Aの魅力の一つで、「引退か、継続か」の二者択一ではなく、「段階的に引いていく」という柔軟な働き方ができるのです。


税理士にとっての“もう一つの出口戦略”


M&Aは、税理士のキャリアにおける「出口戦略」の一つです。後継者が不在でも、築いてきた顧問先や職員の未来を守るために、“次の持ち主”にバトンを渡す。これは、責任ある選択であり、感謝される承継です。


6.まとめ


税理士として長年築き上げてきた事務所。その“次の一手”を考えるのに、遅すぎるということはありません。むしろ、70代というタイミングだからこそ、承継への一歩が求められます。先延ばしにするほど、選択肢は減っていきます。しかし「今からならできること」は確実に存在します。


・顧問先や職員を守るために

・自分自身が望む形で仕事を終えるために

・長年の信頼を、次の世代につなげるために


税理士にとっての承継は、引退ではなく「新しい役割」の始まりです。そしてM&Aは

その選択肢の一つ。70代の今、あなたが動けば、事務所の未来は大きく変わります。


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