"生涯現役"でいるための体制づくりとしての税理士事務所のM&A
- 小杉 啓太
- 3 日前
- 読了時間: 8分
1.生涯現役であるための税理士事務所のM&A戦略
税理士という仕事は、知識と経験が積み重なるほど顧問先からの信頼も厚くなり、年齢を重ねても現役で活躍できる専門職です。多くの税理士が「生涯現役」でいたいと考えるのも当然のことです。しかし、税理士事務所を一人で経営している場合、自分に何かあった時のリスクは常に頭の片隅にあるのではないでしょうか。
たとえば、突然の病気や事故で長期間の休養を余儀なくされた場合、税理士事務所の運営はどうなるでしょうか。顧問先への対応が遅れたり、職員の雇用が不安定になったり、最悪の場合、事務所の存続自体が危うくなる可能性もあります。税理士という責任ある立場だからこそ、「自分がいなくなった後も顧問先や職員が困らない体制を作っておきたい」と考える所長は少なくありません。一方で、「まだまだ働きたい」「引退するつもりはない」という税理士の声もよく耳にします。税理士事務所のM&Aは、こうした“生涯現役でいたい”という想いを持つ所長にこそ検討していただきたい選択肢です。
「M&A」と聞くと、多くの税理士が「事務所を譲る=引退」というイメージを持ちがちです。しかし、実際の税理士事務所のM&Aは、必ずしも引退を前提としたものではありません。むしろ、税理士が現役で活躍し続けるための“経営戦略”として活用されるケースが増えています。たとえば、M&Aを活用して経営パートナーや後継者を迎え入れることで、税理士事務所の運営体制を強化し、所長自身はこれまで通り税理士としての業務に専念できる環境を作ることができます。また、M&Aによって事務所の経営基盤が安定すれば、顧問先や職員に対する責任も果たしやすくなります。
税理士事務所のM&Aは、万が一のリスクを分散しつつ、所長自身が現役で働き続けられる体制を構築する有効な手段です。たとえば、M&Aを通じて複数の税理士が在籍する体制に移行すれば、所長が不在の間も顧問先対応が継続できるため、事務所の信頼性が高まります。また、M&Aの交渉時に「所長が引き続き現役で関与すること」を条件にすることも可能です。これにより、税理士としてのキャリアを継続しながら、事務所の将来も守ることができます。
これまで税理士事務所のM&Aは、主に高齢化や後継者不在による“引退のための出口戦略”として語られることが多くありました。しかし、最近では「生涯現役」を目指す税理士にとって、M&Aは非常に有効な選択肢となっています。
2.生涯現役でいたいのなら早めの準備が大切
税理士事務所の所長が「生涯現役」を目指すなら、「M&Aはまだまだ先の話」と考えるのは非常に危険です。なぜなら、税理士事務所のM&Aは、準備期間が長いほど選択肢が広がり、自分にとって理想的な体制を作りやすくなるからです。税理士事務所のM&Aを成功させるためには、事務所の業績や運営状況が安定しているうちに準備を始めることが重要です。たとえば、顧問先が減少していたり、職員の入れ替わりが激しかったりすると、M&Aの条件が不利になりがちです。逆に、事務所の経営が順調なうちにM&Aを検討すれば、より良い譲渡先を選ぶことができ、譲渡条件も有利に進めやすくなります。
税理士事務所の価値は、単に売上高や利益だけで決まるものではありません。顧問先の安定性、職員の定着率、事務所のブランド力、地域での評判など、さまざまな要素が評価されます。M&Aを見据えた準備を早めに始めることで、こうした事務所の「見えない価値」を高めることができるのです。また、税理士としての専門性や独自のサービス、地域密着型の経営スタイルなど、事務所の強みを明確にしておくことも大切です。
M&Aの準備を早く始める最大のメリットは、「自分がどのように事務所に関わり続けるか」を計画的に決められることです。たとえば、譲渡後も税理士として現場で活躍し続けたいのか、経営からは一歩引いて顧問として関与したいのか、あるいは後進の指導役として経験を伝えたいのか。自分の希望やライフスタイルに合わせて、最適な関わり方を選ぶことができます。
また、早めの準備によって、譲渡先との交渉も有利に進めやすくなります。たとえば、「〇年間は現役で関与したい」「特定の顧問先は自分が引き続き担当したい」といった希望を事前に伝え、合意形成を図ることができます。これにより、譲渡後も納得のいく形で税理士として活躍し続けることが可能となります。
実際に、50代の税理士所長がM&Aを検討し始めたケースでは、事務所の運営が安定しているうちに譲渡先を探し始めたことで、複数の候補から自分に合ったパートナーを選ぶことができました。また、譲渡後も税理士として現役で働き続けることができ、顧問先や職員からも「所長が引き続きいてくれるので安心だ」と高い評価を受けています。このように、税理士事務所のM&Aは「生涯現役」を実現するための体制づくりとして、早めの準備が何よりも大切なのです。
3.M&A後は管理されてしまうのか?
税理士事務所のM&Aを検討する際、多くの所長が「M&A後はサラリーマンのように管理されてしまうのでは?」と不安を感じます。確かに、M&Aによって経営権を譲ることになるため、従来のように自分がすべてを決定できる立場ではなくなります。しかし、実際のM&A現場では、こうした不安はほとんど現実になりません。
税理士事務所のM&Aにおいて、譲受側の事務所が最も重視するのは「顧問先や職員の継続」と「サービス品質の維持」です。そのため、現所長である税理士が引き続き現場に残り、これまで通りの運営を続けてくれることを強く希望するケースがほとんどです。たとえば、「これまで通りのやり方で顧問先を担当してください」「経営方針については協議のうえ決定しますが、日々の業務は自由に進めてください」といったスタンスが一般的です。税理士事務所のM&Aは、所長が「管理される」というよりも、「これまでの経験やノウハウを活かして引き続き事務所を支えてほしい」と期待される場面が多いのです。
もちろん、経営権を譲る以上、最終的な意思決定は譲受側が行うことになります。しかし、税理士事務所のM&Aでは、現所長の意見や希望が尊重されることが多く、むしろ「これまでのやり方を尊重します」「顧問先との関係維持を最優先します」といった柔軟な対応が一般的です。
税理士事務所のM&Aは、所長が「管理される」のではなく、「新たな組織の一員として共存する」イメージです。譲受側も、現所長の経験や人脈、顧問先との信頼関係を高く評価しているため、むしろ積極的に現場での活躍を期待しています。実際にM&Aを経験した税理士の多くが、「思ったよりも自由に働ける」「以前よりも経営の負担が減り、本業に集中できるようになった」といった前向きな感想を持っています。税理士事務所のM&Aは、所長が生涯現役で働き続けるための“新しい働き方”を実現する手段なのです。
4.M&A後の所長の関わり方
税理士事務所のM&A後、所長がどのように事務所に関わるかはさまざまな選択肢があります。たとえば、社員税理士として引き続き経営に携わる道、所属税理士として専門業務に専念する道、あるいは顧問やアドバイザーとして後進の育成に力を注ぐ道など、税理士の希望やライフスタイルに応じて柔軟に選ぶことができます。
M&Aを通じて事務所の体制が強化されれば、これまで一人で担ってきた申告や決算書作成などの業務を、譲渡先のスタッフに引き継ぐことも可能です。これにより、税理士としての本業である顧問先対応やコンサルティング業務に集中できるようになります。また、事務所の運営や経営に関する負担が減ることで、より専門性の高いサービス提供や新たな分野へのチャレンジも実現しやすくなります。
M&A後の最大の課題は「引継ぎ」です。顧問先や職員が安心して働き続けられるよう、所長がしっかりと後任の税理士と連携し、信頼関係を維持することが求められます。たとえば、顧問先への紹介や業務の引継ぎ、職員とのコミュニケーション、事務所の方針や文化の共有など、細やかな対応が必要です。税理士事務所のM&Aは、単なる「事業譲渡」ではありません。所長自身が生涯現役で活躍し続けるための「新しいステージ」として、積極的に関わり続けることが大切です。
実際にM&Aを経験した所長からは、「経営の負担が減り、顧問先対応に集中できるようになった」「後進の税理士と協力して事務所を発展させている」「M&A後も現役で働ける安心感がある」といった声が多く聞かれます。税理士事務所のM&Aは、自分の強みや希望を活かした働き方を実現するための有効な手段なのです。
5.まとめ
税理士事務所の所長が「生涯現役」を目指すなら、M&Aを“引退のための手段”と捉えるのではなく、“現役を続けるための戦略”として前向きに活用することが重要です。税理士事務所のM&Aを通じて、もしもの時にも顧問先や職員を守れる体制を整えつつ、自分自身は税理士として長く活躍し続けることができます。
そのためには、早めに準備を始め、事務所の現状を見つめ直し、理想の働き方や将来像を明確にしておくことが大切です。M&A後も、税理士としての専門性や信頼関係を活かし、多様な関わり方で事務所や顧問先に貢献できる道が開けています。
税理士という職業は、知識や経験が財産となり、年齢を重ねても価値を発揮できる素晴らしい仕事です。M&Aを上手に活用し、生涯現役の税理士として、これからも地域や顧問先の発展に貢献し続けてください。
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