会社法と税理士法が生む税理士法人の制度的リスク整理
- 小杉 啓太

- 8 時間前
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税理士法人は、会社法上の「持分会社(合名会社)」を準用することで成立しています。これは、税理士法に基づき設立される士業法人でありながら、その内部構造は明らかに一般の企業体とは異なります。根拠条文上は「会社法の合名会社に関する規定を準用する」とされ、社員(社員税理士)は無限責任を負います。この「合名会社型」の準用こそが、税理士法人等の士業法人特有の法的リスクを内包している点です。
たとえば、税理士法人では社員の責任範囲に制限がなく、法人の債務が社員(社員税理士)個人に波及する可能性があります。とはいえ実務上、税理士法人が銀行借入や顧問先への損害賠償義務を負うことは稀です。しかし、破産・脱退・死亡といった境界事象では、無限責任が再び「生き返る」ことになります。死亡した社員(社員税理士)の債務引継ぎや脱退後の債務負担をめぐる取扱いは、会社法上の一般原則と相続税法上の「債務控除」規定が複雑に交錯します。つまり、法制度そのものが税務上・相続上のトリガーを内包しているのです。
例として、無限責任社員が死亡した場合、法人が債務超過にあるときは、その「債務を弁済すべき義務が確実」と認められる限度で、相続財産からの債務控除が可能とされています。しかしその判断は、実質的な経営破綻や清算手続の進行状況など、極めて事実認定的な領域に委ねられることが多く、税務訴訟上も非常にグレーな判断が続いています。
持分会社制度の最大の特徴は「社員=オーナー=経営者」である点にありますが、税理士法人もこの仕組みを前提としており、社員(社員税理士)が出資と経営、業務執行の責任を一体で担う構造となっています。株式会社のような「資本と経営の分離」は想定されておらず、意思決定・責任・利益配分が社員(社員税理士)個人に直結するため、専門家同士の信頼関係を基礎とした共同経営には適している一方で、属人性が高く、外部から見た場合の継続性や安定性には課題を抱えやすい構造といえます。
税理士法人における出資持分は、会社法上の「持分」ではあるものの、譲渡や相続に自由がないという制約があります。すなわち、出資持分を自由に第三者へ譲渡できないため、相続時には「払戻請求権」という中間的権利に変化します。もし相続人が税理士資格を持たない場合、当該持分を承継することができず、法人からの払い戻しを受けるしかありません。この時点で純資産価額評価が課され、場合によっては含み資産課税が発生することもあります。
また、社員(社員税理士)の脱退時には、その持分評価が債務控除や譲渡所得の算定に影響します。評価時点の会計処理や純資産価額の算定を誤ると、のれん代の扱いや退職金課税との整合性が取れなくなるため、実務的には「定款での評価ルール明記」を事前に準備しておくことが必須です。士業法人の“持分”は、株式のように流動的ではないため、設計段階で出口戦略を織り込まなければ、承継・脱退・死亡のいずれの局面でも経済的損失が顕在化します。
会社法上、持分会社は法人格を有するため、当然に内部留保が形成されます。問題は、税理士法上の性質が「人的信頼関係を基礎とした専門サービス共同体」である点です。つまり法人であっても実質的には「個人事業の延長」に近い構造です。この乖離が、解散・退出時に大きな税務リスクを生みます。
税理士法人を解散する際、その残余財産は「純資産価額」で評価し、持分に応じて分配されます。解散時点で法人内に内部留保が多額に残っていれば、それが社員(社員税理士)への分配時に所得課税(配当又は譲渡所得)として顕在化します。逆に純資産がマイナスであれば、社員(社員税理士)個人に債務負担が波及する可能性が否定できません。
実務的には「内部留保を法人に残さない」ことが重要とされ、役員報酬・外注費・退職金等の形で定期的に取り崩す運用が一般的です。これは単なる節税策ではなく、「無限責任構造の外へのリスク回避策」として極めて合理的な設計思想といえます。
一方で、会計法人(例えばグループ内の会計業務受託会社)に業務を外注化するスキームは慎重を要します。税務調査では「税理士の独占業務に該当する業務の外部委託」として形式的に否認される事例も少なくなく、報酬の帰属先を巡る契約実態の整合性が問われます。「法人間取引だから安全」とは限らないことを肝に銘じるべきです。
税理士法人の承継・営業譲渡は、通常の会社M&Aと構造が全く異なります。なぜなら、クライアント関係(顧問契約)が人的信頼に基づくものであり、資産価値ではなく「営業権=顧問報酬継続性」で評価されるためです。業界慣行として、M&A対価は「直近1年分の安定顧問料」が基準とされ、これがいわゆる「斡旋料」として前代表者に支払われます。
この斡旋料は、原則として譲渡所得または雑所得(一時金受領の場合)として課税されますが、分割受領により給与所得または退職所得扱いとする実務も存在します。この区分によって税負担が数十%変動することもあり、設計の巧拙が、のちの課税関係を大きく左右します。さらに、会計法人が受領する形を採用すれば、法人課税での処理も可能ですが、その場合は法人間の業務委託契約や顧問権移転契約の存在証明が必要です。
また、持分譲渡・合併・事業譲渡のいずれのスキームを取るかによって、法人格の存続性や税理士資格者の地位承継の可否が異なります。特に合併は失敗事例の多い手法で、社員同意、債権者公告、日税連届出など複雑な手続が要求されます。税務上も、のれん計上の妥当性や債務引当金の処理が課題となります。
最後に、税理士法人などの士業法人や非公開会社では、「出資比率とは異なる配当を行う設計(いわゆる属人株)」が検討されることがあります。
しかし、この仕組みには、贈与税のリスクが潜んでいます。非公開会社では、定款で配当ルールを柔軟に定めることができますが、それを利用して特定の社員・株主に利益を集中させる設計は、税務上「実質的な利益移転」と見なされ、みなし贈与として課税される可能性があります。
たとえば、同額出資の2人がいるにもかかわらず、一方にだけ大きな配当を行えば、その差額部分が「贈与」と判断される余地が生じます。もっとも、定款に属人配当の規定があるだけで、直ちに贈与税が課されるわけではありません。実際に不均衡な利益配分が行われた時点で、その合理性や意図が問われることになります。特に税理士法人などの士業法人は、人的関係が強く、経営と個人の距離が近いため、「意図的な利益移転」と判断されやすい傾向があります。
このように、税理士法人などの士業法人は複数の法律が交差する構造を持ち、制度上のグレーゾーンが生じやすい法人形態です。 したがって、設立時や承継時に、法人形態・定款・利益配分の設計を慎重に行うことが、将来の税務トラブルを防ぐ最も確実な対策だと言えます。初期設計の一手が、将来の法務・税務リスクを決定づけるという意識を持つことが、税理士法人などの士業法人を安全に運営するための前提条件になるでしょう。




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