「もし所長が引退したら、私たちはどうなるのでしょうか」と職員に言われたら? ~税理士事務所の承継を考える~
- 小杉 啓太

- 4 日前
- 読了時間: 6分
税理士事務所にとって、職員の存在は単なる「人手」ではありません。税理士として顧問先対応を所長が中心に行っている場合でも、日々の入力業務や資料整理、申告書作成の補助など、事務所の基盤を支えているのは職員でないでしょうか。また、顧問先が特定の職員についている税理士事務所も多く、実質的に顧問先との関係を維持しているのが職員であるケースも少なくありません。
つまり、税理士事務所の価値は、所長である税理士個人の能力だけでなく、職員の存在によって大きく左右されます。だからこそ、税理士として事務所経営を考える際には、「職員が安心して働き続けられる環境があるか」という視点が欠かせません。本記事では、税理士事務所における職員の不安、働き方の変化、承継問題、そして解決策としての税理士事務所のM&Aについて、わかりやすく解説します。
税理士事務所で働く職員は、日々の業務を着実にこなしながらも、将来に対する不安を抱えていることがあります。この不安は表面化しにくく、所長本人が気づきにくい点が特徴です。
特に多いのが、「この税理士事務所は今後も続くのか」という不安です。多くの税理士事務所は、所長である税理士に依存した経営構造になっています。そのため、税理士が元気なうちは問題がなくても、将来についての見通しが見えにくいという課題があります。実際に、職員から次のような声が出ることがあります。
「所長はまだ事務所を続けますよね。住宅ローンを組んでも大丈夫でしょうか」
「もし所長が引退したら、私たちはどうなるのでしょうか」
これらは単なる不安ではなく、人生設計に直結する重要な問いです。税理士としては日々の業務に集中している中で見落としがちですが、職員にとっては極めて現実的な問題です。
特に、税理士が一人で運営している個人事務所の場合、この不安はより大きくなります。万が一、所長である税理士に何かあった場合、事務所の継続が困難になる可能性があるためです。所長本人が「まだ大丈夫」と考えていても、職員は常に「もしも」を考えています。このギャップが、職員の離職やモチベーション低下につながることもあります。
近年、税理士事務所の働き方は大きく変化しました。特にコロナ禍以降、リモートワークの導入やクラウド会計の普及により、税理士事務所の業務は場所に縛られない形へと進化しています。
現在では、フルリモートで働く職員や、業務委託として関わる人材を活用する税理士事務所も珍しくありません。これにより、税理士事務所の運営は柔軟性を増しましたが、一方で職員の価値観にも変化が生まれています。
この変化により、税理士事務所は柔軟な運営が可能になりましたが、一方で職員の意識にも変化が生じています。それは、「働く場所を選べる時代になった」という点です。従来であれば、税理士事務所に就職した職員が長く勤め続けるケースが一般的でした。
しかし現在では、条件の良い税理士事務所への転職や、在宅勤務可能な環境への移行も現実的な選択肢となっています。つまり、税理士事務所は「職員に選ばれる存在」へと変化しているのです。
このような環境の中で、所長が意識すべきなのは、「なぜこの事務所で働き続けるのか」という理由を明確にすることです。給与や労働時間だけでなく、「この税理士事務所は将来も安心できる」という見通しが重要になります。
特に若手職員ほど、将来の安定性を重視する傾向があります。所長としては、短期的な業務効率だけでなく、中長期的な事務所の方向性を示すことが求められています。
税理士事務所の将来を考えるうえで避けて通れないのが、承継の問題です。税理士はいつまで続けることのできる仕事である反面、税理士の高齢化が進む中で、「いつかは引退する」という現実はすべての税理士に共通しています。このとき重要になるのが、「職員の雇用をどう守るか」という視点です。
実際に、弊社へいただくご相談でも、「職員の雇用を守りたい」という声は非常に多く聞かれます。なかには、「自分の引退後の職員の雇用を守るまでが、経営者の仕事だ」と明確におっしゃる税理士法人の代表社員もいらっしゃいます。
一方で、何も対策を講じないまま所長が引退、または事務所を廃業した場合、職員は厳しい状況に置かれます。地域によっては、再就職先を探すのが難しいだけでなく、仮に転職できたとしても給与や待遇が下がる可能性があります。
また、税理士事務所の職員は専門性の高い業務に従事している一方で、そのスキルが特定の事務所に依存しているケースもあります。そのため、突然の環境変化は大きな負担となります。
さらに、顧問先と職員の関係が深い場合、事務所の廃業は顧問先にも影響を与えます。結果として、所長だけでなく、職員や顧問先を含めた広い範囲に影響が及ぶことになります。
こうした課題に対する現実的な解決策の一つが、税理士事務所のM&Aです。M&Aという言葉に難しさを感じる所長も多いですが、実際には「事務所の運営を後任の税理士に引き継ぐ仕組み」として理解するとわかりやすいでしょう。
税理士事務所のM&Aでは、現在の拠点を維持したまま運営を継続することが多く、また、職員の雇用条件についても、できる限り維持される形で進めるケースが一般的です。
例えば、給与水準や勤務形態を大きく変えずに引き継ぐことや、中小企業退職金共済制度などの外部制度を継続することも可能なケースが多いです。これにより、職員にとって不利益の少ない形で事務所の継続が実現できます。
さらに、税理士事務所のM&Aは単なる「引退対策」ではありません。税理士事務所の成長戦略として活用されるケースも増えています。後継者がいない場合だけでなく、より強い組織を作るためにM&Aを選択する所長もいます。
特徴的なのは、職員がきっかけとなってM&Aの検討が始まるケースもあることです。職員自身が事務所の将来に不安を感じ、税理士に提案したり、外部に相談したりする例も見られます。これは、職員がそれだけ真剣に「この税理士事務所で働き続けたい」と考えている証拠でもあります。
所長としては、「まだ早い」と感じる段階でも、職員の安心を確保するという観点からは、早めの検討が重要です。将来の方向性が明確になることで、職員は安心して業務に集中することができます。
税理士事務所の経営は、所長である税理士一人で成り立つものではありません。職員とともに築き上げていくものです。だからこそ、税理士としての役割は、現在の業務を遂行するだけでなく、「事務所の未来を設計すること」にもあります。職員の雇用を守るための選択肢として、税理士事務所のM&Aを前向きに検討することは、これからの時代における重要な経営判断の一つです。
税理士事務所の将来を考える際には、売上や顧問先だけでなく、職員が安心して働き続けられる環境という視点も重要になります。将来への備えの方法は一つではありませんが、税理士事務所のM&Aのように、現在の雇用や運営をできるだけ維持しながら継続を図る選択肢も存在します。こうした方法があることを踏まえたうえで、状況に応じて情報収集を進めてみてはいかがでしょうか。





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