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税理士法人の“1人化”が意味するもの──なぜ廃業リスクに直結するのか?

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 8月11日
  • 読了時間: 6分

 税理士法人を設立して十数年。「ともに設立に携わった共同社員が退職・死亡などにより抜け、自分一人だけが社員として残った」そんな状態に心当たりのある税理士も少なくないかもしれません。

 一見、法人として事業が継続しているようでも、社員が1人となった状態の税理士法人には、想像以上に大きなリスクが潜んでいます。最悪の場合、「事業の継続は可能だが、法人としては廃業せざるを得ない」という状況に陥ることもあります。

 本記事では、税理士法人における“社員1人”の問題を、制度面から明らかにし、そのまま放置することの危険性と、6か月以内に手を打つべき理由について解説します。



1.社員が1人では税理士法人としての要件を満たさない


  税理士法人は、税理士法に基づく法人格を持つ専門職業法人です。最大の特徴は、「法人の構成員(社員)は、2名以上の税理士でなければならない」という規定がある点にあります。これは、税理士法人の継続要件そのものであり、1人となった時点で“法的には要件を欠いている状態”と判断されます。税理士法第48条の18では、以下のように規定されています。


社員が一人になり、そのなつた日から引き続き六月間その社員が二人以上にならなかつた場合においても、その六月を経過した時に解散する。


つまり、6か月以内に2人目の社員を確保できなければ、法人としての資格を失い、「廃業手続き」に進まざるを得なくなるのです。



2.見落とされがちな「6か月猶予」の本当の意味


 この「6か月以内に再び2人以上の社員体制に戻せばよい」という規定を、楽観的に捉えているケースもあります。しかし、実務上は決して簡単な話ではありません。

そもそも、税理士法人に新たな社員を加えるには、下記の複雑な手続きが伴います。

単なる雇用関係とは異なり、責任・権限・利益配分などを共有できる“仲間”を見つけなければならないという点で、ハードルが高いのです。

 また、法人内部の人材では対応できず、新たに外部の税理士を迎え入れるとなれば、文化・顧問先との関係性・職員体制の適合など、慎重な調整が必要となります。



3.実態は「一人法人」のまま放置、そして突然の廃業へ


 実際には、税理士法人において、当初は複数名の社員で運営されていたものの、退職や死亡などを理由に1人が抜け、結果として代表社員1人に経営権が集中しているケースも少なくありません。職員や所属税理士が複数在籍していても、実質的に法人運営の意思決定を担っているのが1人のみという状況に陥り、「法人である意味があるのか」と問われるような状態になっていることもあります。そして、6か月という期限を前にしても、下記の理由から手を打てずに“時間切れ”を迎えることになります。

その結果、本来であれば事業としては健全に継続できたはずの法人が、「制度上の都合」によって廃業を余儀なくされるという事態が起こるのです。



4.廃業手続きは想像以上に負担が大きい


 税理士法人が廃業に至った場合、まず法人としての「解散・清算」の手続きが必要になります。具体的には下記となります。

法人格を消滅させるための正式な法的手続きが一連で発生します。これには時間もコストもかかり、従業員や顧問先にも混乱を招く恐れがあります。特に、顧問契約が法人名義となっていた場合は、顧問先との再契約が必要となるケースもあり、信頼関係や業務の継続性に重大な影響を与えることもあります。



5.社員1人の税理士法人が取り得る選択肢ーM&A


 税理士法人の社員が1人となった場合、6か月以内に新たな社員を迎え入れる必要があります。しかし、制度上の要件を満たすためだけに、焦って人選を誤るのは本末転倒です。では、現実的にどのような選択肢があるのでしょうか。


(1)社員を「内部登用」で確保する方法の限界

 もっとも望ましいのは、法人内部の人材を社員登用する方法です。たとえば、長年在籍している勤務税理士や、信頼の厚い若手税理士などが候補になり得ます。しかし実際には、次のような障壁があります。

こうした事情から、「登用しようとしても断られる」「話が進まない」といったケースが非常に多いのが現実です。


(2)「新規社員を外部から迎える」という高難易度ミッション

 やむを得ず外部から税理士を招き入れようとすると、さらに難易度は上がります。税理士業界は基本的に独立志向が強く、法人に社員として加入する意思を持つ人材は限られています。仮に「社員として加わってもいい」という税理士が見つかったとしても、以下のような条件交渉が避けられません。

これらを6か月以内にすべて合意形成し、登記まで済ませるのは至難の業です。


(3)M&Aによって「存続と承継」を両立する選択肢

 そこで注目されているのが、「税理士法人M&A」という解決策です。

M&Aというと、大手同士の資本提携や企業買収のようなイメージを持たれるかもしれませんが、ここでいうM&Aは「税理士法人としての登録や契約、組織体制は維持したまま、他の税理士法人に吸収され、支店として継続する」という形です。

具体的には、以下のような流れをとります。

この方法であれば、6か月以内に法人格を維持したまま制度上の問題を解消でき、顧問契約もほぼそのまま引き継げるという大きなメリットがあります。



6.M&Aを選ぶメリット


税理士法人におけるM&Aには以下のようなメリットがあります。

特に、今後引退を見据えている所長にとっては、「事務所のブランドと信頼」を残したまま、徐々にフェードアウトできる手段として非常に有効です。

 もちろん、M&Aにも注意すべき点があります。譲渡先がどのような経営方針を持っているか、職員や顧問先の受け入れ体制はどうか、契約内容に不備はないかといった観点での事前検討が欠かせません。

また、M&A仲介業者によっては、「営業優先」で進めてくるケースもあるため、税理士法人ならではの制度的リスクを理解している仲介会社を選ぶ必要があります。



7.社員1人化の段階で“終わり”ではない


 社員が1人になった時点で、「もう法人は終わりだ」と諦める必要はありません。重要なのは「6か月の間に適切な対応をとること」です。

 新たな社員を迎えるのが難しい場合、M&Aは現実的かつ建設的な選択肢です。法人格を維持し、顧問先やスタッフへの影響も抑えつつ、将来の引退や縮小に向けた準備を進められるからです。税理士法人としての看板を守るためにも、社員が1人になった時点で、「あとで考える」ではなく今すぐ“次の一手”を検討するべきでしょう。



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