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税理士事務所の承継・合併、職員の雇用は守られるのか

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 5月21日
  • 読了時間: 6分

 税理士事務所を長年経営されてきた所長の皆様にとって、「事務所のこれから」をどうするかは大きな課題です。近年、税理士業界でも高齢化や人材不足が進み、事務所の承継や合併(M&A)を選択肢として検討するケースが増えています。


 しかし、いざ承継や合併を検討し始めると、「本当に職員の雇用は守られるのか」「待遇や働き方はどう変わるのか」「顧問先との関係は維持できるのか」など、さまざまな不安や疑問が浮かんできます。特に、税理士事務所のM&Aは、一般企業のM&Aとは異なり、専門性の高い業務や長期的な顧客対応が求められるため、より慎重な対応が求められます。


 そこで本記事では、税理士事務所の所長の皆様に向けて、承継や合併における職員の雇用や待遇、就業規則の取り扱い、そして職員が安心して働き続けられるためのポイントについて解説します。



1.税理士事務所のM&A、成立の前提は職員の継続


 税理士事務所の承継や合併(M&A)を考えるとき、多くの税理士事務所の所長が最も心配するのは「長年一緒に働いてきた職員の雇用が守られるのか」という点です。税理士事務所のM&Aは、単なる経営権の移転ではなく、これまで築いてきた組織やお客様との関係性をいかに維持できるかが大きなテーマとなります。


 実際、税理士事務所のM&Aにおいては、職員の継続雇用が前提条件として掲げられることが多く、譲受側(買い手)から「職員の継続勤務」を条件にされるケースも一般的です。なぜなら、税理士事務所では職員が日々の業務を担い、顧問先との信頼関係を築いていることが多いため、職員がいなくなれば業務が回らなくなるリスクが高いからです。


 また、譲受側にとっても、経験豊富な職員がそのまま加わることは大きなメリットです。税理士事務所の業務は専門性が高く、すぐに新しい人材を育てるのは難しいため、既存職員のノウハウや顧客対応力をそのまま承継できることは、組織力の強化につながります。


 このように、税理士事務所の承継や合併を成功させるためには、職員の継続が大前提となっており、所長が安心して引退できるよう「職員の雇用を守ること」を目的としたM&Aの相談も増えています。単なる事業の売却ではなく、これまで一緒に頑張ってきた職員の未来を守るための選択肢として、税理士事務所の承継や合併が注目されているのです。



2.職員の待遇や雇用形態は変わるのか


 税理士事務所の承継や合併に際して、「雇用は引き継がれても、待遇が下がってしまうのではないか」と不安を感じる職員も少なくありません。たしかに、譲受側の税理士事務所に統合されることで、雇用契約や給与体系、就業規則などが変わる可能性はあります。

 

 しかし、実際には職員の待遇が大きく下がることはほとんどありません。なぜなら、譲受側の事務所にとっても職員の離脱は大きなリスクだからです。特に税理士事務所の場合、職員が顧問先との関係を支えているため、待遇を大幅に下げてしまうと優秀な人材が流出し、顧問先も離れてしまう恐れがあります。

 

 そのため、譲受側の事務所では、既存社員とのバランスを考慮しつつも、基本的には現状の待遇を維持する方向で調整されることが多いです。また、退職金制度やリモートワーク制度、フレックス制度、インセンティブ制度などについても、拠点ごとに柔軟に対応してくれる譲受側の事務所も増えています。


 雇用契約については、事業譲渡の場合は新たに譲受側と契約を結び直すのが一般的ですが、その際にも一定期間は従来の条件が引き継がれることが多く、職員の同意を得てから条件変更が行われます。このように、税理士事務所の承継や合併では、職員の雇用や待遇が守られるよう最大限配慮されているのが実情です。



3.就業規則の考え方と注意するべきポイント


 税理士事務所の承継や合併では、就業規則の統一や見直しも重要なポイントとなります。譲受側の事務所の制度を活用することで、昇給しやすくなったり、これまでになかった研修制度が導入されてキャリアアップの道が広がるなど、職員にとってプラスとなる事例も多く見られます。


 一方で、職員の雇用や待遇を守るためには、事業譲渡契約書の内容をしっかり確認することが不可欠です。たとえば、下記のような条項を盛り込むことで、職員の雇用や待遇が守られるようにすることができます。


「従業員の雇用:乙は、本件事業譲渡以降最低〇年間は従業員の雇用を原則維持するとともに、譲渡日時点の労働条件を実質的に下回らないことを保証する」


 また、就業規則のすり合わせや統一を進める際には、社会保険労務士(社労士)への相談が非常に有効です。税理士事務所ごとに働き方やルールが異なるため、社労士の専門的なアドバイスを受けながら、自社の実態に合った就業規則を整備することで、職員も所長も安心して働ける環境をつくることができます。


 就業規則は、給与や労働時間、休暇、退職金、福利厚生など、職員の働き方に直結する重要なルールです。承継や合併の際には、必ず現行の就業規則と譲受側の規則を比較し、職員に不利益が生じないよう丁寧に調整を行いましょう。



4.職員が所長の引退後も働き続けられるように


 税理士事務所の承継や合併で雇用条件が守られたとしても、それだけで職員の離脱を防げるとは限りません。特に、長年慣れ親しんだ所長が引退することで、職員が「これからの職場の雰囲気がどう変わるのか」「新しい税理士と上手くやっていけるのか」といった不安を感じるケースが多いです。


 このような不安を和らげ、職員が安心して働き続けられるようにするためには、所長が引退前に譲受側の後任の税理士とのコミュニケーションの橋渡しを丁寧に行うことが重要です。たとえば、引継ぎ期間をしっかり設けて、所長が職員や顧問先に後任の税理士を紹介し、業務の流れや事務所の雰囲気を共有することで、スムーズな移行が可能になります。


 また、M&Aの公表タイミングや説明方法にも配慮が必要です。職員にとって突然の発表は大きなストレスとなるため、最終契約の締結する前から随時、所長自らが職員に説明し、譲受側の幹部も同席して今後の方針や待遇について丁寧に説明することが望ましいとされています。職員が新しい環境でも安心して働き続けられるよう、所長が積極的に関わり、コミュニケーションの機会を設けることが、承継や合併の成功につながります。



5.まとめ


 税理士事務所の承継や合併は、単なる経営権の移転ではなく、長年築いてきた組織や顧問先、そして職員の未来を守るための大切な選択肢です。もちろん、すべての雇用がそのまま守られるとは限りませんが、譲受側の事務所も職員の離脱をリスクと捉え、柔軟な対応をしてくれるケースが多いのが実情です。


 雇用や待遇、就業規則のすり合わせなど、細かな点までしっかり確認し、必要に応じて社労士や専門家に相談することで、職員も経営者も安心して承継に臨むことができます。税理士事務所の所長としては、職員の雇用と働きやすさを守ることを第一に考え、円滑な承継・合併を目指しましょう。


 税理士事務所の承継や合併は、税理士自身だけでなく、職員や顧問先の未来にも大きな影響を与えます。これからの税理士事務所経営を考えるうえで、職員の雇用と安心を守る承継のあり方を、ぜひ一度じっくり検討してみてください。



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