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税理士事務所の事業譲渡における譲渡先の選び方

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 4月30日
  • 読了時間: 8分

1.税理士事務所の事業譲渡の背景と可能性


 税理士業界では、所長税理士の高齢化が深刻な課題となっています。日本全国の税理士の平均年齢は年々上昇し、60代・70代の税理士が事務所のトップを務めているケースが非常に多くなっています。税理士事務所の運営は、所長税理士の経験や人脈に大きく依存していることが多いため、所長の健康状態や家族の事情によっては、事務所の将来が一気に不透明になることも珍しくありません


 高齢化の影響は、単に事務所の存続だけでなく、顧問先や職員の生活にも直結します。所長税理士が突然引退や急病で業務ができなくなった場合、事務所が廃業に追い込まれるリスクが高まります。そうなれば、長年勤めてきた職員は職を失い、顧問先も新たな税理士を探さなければならなくなります。こうした事態を未然に防ぐためにも、税理士事務所の事業譲渡が注目されているのです。


 税理士事務所の事業譲渡には、多くのメリットがあります。まず、事務所の「のれん」や「信頼関係」を次世代に引き継ぐことができる点です。長年培ってきた顧問先との信頼や、職員のノウハウは、事業譲渡によって新たな税理士事務所に受け継がれます。これにより、顧問先や職員の生活を守ることができ、所長自身も安心して引退を迎えることができます


 また、税理士事務所の事業譲渡では、譲渡対価を得ることができます。これは、長年の努力や実績が正当に評価されるという意味でも大きな意義があります。譲渡対価は、引退後の生活資金や新たな挑戦の資金として活用できるため、所長税理士にとっても大きなメリットです。


 さらに、事業譲渡を選択することで、引退のタイミングや形態を柔軟に選ぶことができます。すぐに完全引退するのではなく、一定期間はアドバイザーや顧問として残ることも可能です。これにより、所長税理士自身のキャリアやライフプランに合わせた引退が実現できます。


 最近では、税理士事務所の事業譲渡が活発化しており、専門の仲介会社やマッチングサービスも増えています。事業譲渡を検討する税理士事務所の多くは、後継者不在や事業の将来性に不安を感じているケースが多いです。一方で、拡大志向の若手税理士や法人税理士事務所が、事業譲渡を通じて事務所規模を拡大する動きも見られます。


 このように、税理士事務所の事業譲渡は、所長税理士だけでなく、職員や顧問先、さらには譲受側の税理士事務所にとっても大きなチャンスとなっています。今後も、税理士事務所の事業譲渡は業界全体の重要なテーマとなるでしょう。



2.譲渡先の選定のポイントと考えるべきこと


 税理士事務所の事業譲渡は、所長にとって人生の大きな節目となります。譲渡先の選定を誤ると、事務所の将来や自身のキャリア、職員・顧問先の安心が損なわれるリスクがあります。まず大切なのは、「なぜ事業譲渡をするのか」「譲渡後に何を叶えたいのか」を明確にすることです。これが曖昧なまま譲渡先を選ぶと、譲渡後に後悔するケースも少なくありません。


 たとえば、できるだけ現場に残って顧問先や職員のサポートを続けたいのか、それとも早期に完全引退したいのか。報酬やポジションについても、自分の希望をしっかり整理しておくことが重要です。


 譲渡先の税理士事務所としっかりコミュニケーションが取れるかどうかも重要です。事業譲渡後、所長がすぐに引退するわけではなく、一定期間は新しい体制のもとで業務を続けることが一般的です。そのため、譲渡先の所長やスタッフと信頼関係を築き、日々の業務や方針について納得できる相手を選ぶことが大切です。

 

 譲渡先の事務所の経営方針やサービス内容、職員の働き方なども事前に確認し、自分の事務所と価値観や文化が合うかどうかを見極めましょう。見学や面談を重ね、実際の雰囲気を感じ取ることが大切です。


 譲渡後の報酬やポジションについても事前にしっかり確認しましょう。自身がどのような形で関わり続けたいのか、どの程度の報酬を希望するのかを明確にし、譲渡先と合意しておくことが、納得感のある事業譲渡につながります。

 

 また、譲渡対価の支払い方法やタイミングについても、細かく確認しておくことが重要です。トラブルを防ぐためにも、契約書や覚書をしっかり作成し、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。


 最も重要なのは、職員や顧問先の離脱を防ぐことです。税理士事務所の事業譲渡は、単なる資産の売買ではありません。長年の信頼関係や業務ノウハウが詰まった「人」と「顧客」を守ることが最大の目的です。譲渡先が職員や顧問先を大切にしてくれるか、今までのやり方や文化を尊重してくれるかを重視して選定しましょう。職員や顧問先にとっても安心できる譲渡先を選ぶことが、事業譲渡の成功につながります。譲渡後も職員の雇用や待遇が守られ、顧問先が今まで通りのサービスを受けられる体制を整えることが大切です。



3.職員はなにを考える?


 税理士事務所の事業譲渡が決まると、職員にとっては「これまで通り働けるのか」「待遇が下がらないか」といった不安がつきまといます。税理士事務所は人材が財産です。職員が安心して働き続けられる環境を守ることが、事業譲渡の成功に直結します。職員は、日々の業務や顧問先対応において大きな役割を果たしています。事業譲渡によって職場環境や待遇が大きく変わることを心配するのは当然です。特に、給与や福利厚生、働き方、業務内容がどうなるのかは大きな関心事です。


 実際の事業譲渡では、職員の雇用や待遇が維持されるケースがほとんどです。譲受側の税理士事務所も、既存の職員の経験や顧問先との関係を高く評価しているため、給与や福利厚生を維持、または向上させる事例も多く見られます。

 

 また、顧問先との信頼関係を築いている職員が、事業譲渡後も担当を続けることで、顧問先の離脱を防ぐことができます。税理士事務所の事業譲渡においては、担当者の変更が最もリスクとなるため、できるだけ現状維持を重視した引き継ぎが望ましいです。


 事業譲渡は、職員にとっても新たな成長のチャンスとなります。譲渡先の税理士事務所が大規模な場合は、研修やキャリアアップの機会が増えることもあります。また、新しい事務所のノウハウやITシステムを学ぶことで、スキルアップにつながる可能性もあります。

職員が安心して働き続けられるよう、譲渡先の税理士事務所としっかり連携し、職員の意見や希望を尊重した対応を心がけましょう。


 職員への説明やコミュニケーションも重要です。事業譲渡の話が進む中で、職員に不安を与えないよう、方針が固まった段階で丁寧に説明し、今後の働き方や待遇について納得してもらうことが、円滑な事業譲渡につながります。

職員の声をしっかり聞き、疑問や不安に真摯に向き合うことで、信頼関係を維持しながら事業譲渡を進めることができます。



4.顧問先はなにを思う?


 顧問先にとって、長年付き合いのある税理士事務所がなくなることは大きな不安です。新たに顧問税理士を探す手間や、これまで築いてきた信頼関係が失われることは、できれば避けたいと考える顧問先が大半です。

 

 税理士事務所の事業譲渡では、顧問先が今まで通りのサービスを受けられるかどうかが最大の関心事です。急にサービス内容や担当者が変わると、顧問先は不安を感じ、最悪の場合は契約解除につながることもあります。そのため、事業譲渡後もできるだけ同じ担当者が引き続き対応し、サービス品質を維持することが大切です。


 顧問先は、税理士事務所に対して「いつも通りの対応」を期待しています。事業譲渡によって、サービスレベルが下がったり、対応が遅くなったりすることを最も心配しています。譲渡先の税理士事務所が、これまでのやり方や顧問先の特徴をしっかり把握し、引き継ぐ姿勢を持っているかどうかが重要です。

事業譲渡の際には、顧問先ごとに引き継ぎ資料を作成し、担当職員と譲渡先の税理士が一緒に訪問や説明を行うことで、顧問先の安心感を高めることができます。


 事業譲渡が決まった際は、顧問先への丁寧な案内や引き継ぎが不可欠です。事前にしっかりと説明し、今後の体制やサポート内容について納得してもらうことで、顧問先の離脱を防ぐことができます。


 また、事業譲渡の理由や譲渡先の税理士事務所の特徴、今後のサポート体制などをわかりやすく伝えることが大切です。顧問先の立場に立った配慮と、信頼関係の維持を最優先に考えた対応が求められます。


 税理士事務所の事業譲渡は、顧問先にとっても大きな出来事です。顧問先が安心して今後も契約を続けられるよう、丁寧な対応と信頼関係の継続を心がけましょう。顧問先の要望や意見をしっかり聞き、柔軟に対応することが、顧問先の満足度向上につながります。



5.まとめ


 税理士事務所の事業譲渡は、所長税理士の高齢化や事業承継問題を背景に、今後も増加が予想されます。事業譲渡を選ぶことで、所長自身の引退後の選択肢が広がり、職員や顧問先も安心して今後を迎えることができます。


 譲渡先の選定では、「なぜ事業譲渡をするのか」「譲渡後に何を叶えたいのか」を明確にし、職員や顧問先を大切にしてくれる税理士事務所を選ぶことが成功の鍵です。職員にとっては待遇や職場環境の維持、顧問先にとってはサービス品質の継続が何よりも重要です。

税理士事務所の事業譲渡は、単なる資産の売買ではなく、「人」と「信頼」を未来につなぐ大切なプロセスです。所長税理士として、譲渡先選びには十分な時間をかけ、関係者全員が納得できる形で次世代へバトンを渡しましょう。



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