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税理士事務所はいくらで売れるのか?譲渡対価の考え方

  • 執筆者の写真: 大竹 邦明
    大竹 邦明
  • 4月11日
  • 読了時間: 6分
 

1.よく聞く譲渡対価の考え方


 税理士事務所の所長として長年頑張ってこられた方であれば、「もしこの事務所を他の税理士に引き継ぐとしたら、いくらで売れるのだろう?」と一度は考えたことがあるかもしれません。

その際に出てくるのが「譲渡対価」という言葉。これは簡単に言えば、税理士事務所を譲る際に受け取る金額のことです。


譲渡対価の考え方で最もよく知られているのが、「売上1年分」という方法です。

これはそのまま、1年間の売上金額と同じくらいの金額で事務所を譲渡するという考え方。

たとえば、年間売上が6,000万円の事務所なら、譲渡対価も6,000万円という見積もりになります。この考え方はシンプルで、税理士の間でも比較的よく使われています。


 次に、「売上の70%」という方法もあります。

これは、譲渡後に一定の顧問先が離れてしまうことを想定した現実的なモデルです。

たとえば売上が6,000万円の場合、譲渡対価は4,200万円(6,000万円×70%)程度という考え方です。税理士事務所は人間関係が重要なため、顧問先の引継ぎには一定の不安が伴います。そのリスクを見込んだ数字と言えるでしょう。


 もうひとつ、「所得の3年分」という見積もりもあります。これは事務所の利益をベースにした考え方で、たとえば年間の所得(いわゆる営業利益)が1,000万円なら、その3年分=3,000万円が譲渡対価という考え方です。税理士事務所がどれだけ利益を出しているかを重視した、より実務的な視点とも言えます。


このように譲渡対価の考え方にはいくつかのパターンがありますが、共通しているのは「事務所が今後も安定して収益を出せるかどうか」がポイントであるということです。税理士として、事務所の価値を正しく見極めることが第一歩となります。


 

2.前提とするのは所長の引退


 譲渡対価を考える上で、もうひとつ重要な前提があります。それは「所長の引退」です。

これは、譲渡後の税理士事務所がしっかりと利益を出し、譲渡対価を支払える状態になるために必要な条件です。

譲受側の税理士からすれば、事務所を譲ってもらった後、その運営で利益を出しながら、譲渡対価を分割で支払っていくケースが一般的です。つまり、譲渡対価は単なる「買い物」ではなく、「これから得られる利益に対する前払い」のような意味合いを持っています。


そのため、現在の所長税理士が今までと同じように所得を得続ける状態が続いてしまうと、譲受側の税理士は利益を得ることができず、譲渡対価を支払う余裕がなくなります。結果として、譲渡自体が成り立たなくなってしまうのです。


ですので、譲渡を前提とした場合には、「所長がある程度のタイミングで引退すること」が、譲受側の税理士にとっても大切な条件となります。

現在の税理士事務所の所得がそのまま譲渡後の営業利益になると考えると、所長がそのポジションから退くことが、譲渡対価を成立させるための前提になるのです。


とはいえ、後述するように「引退=完全に辞める」という意味ではありません。一定の工夫をすれば、現役を続けながら譲渡対価を受け取る設計も可能です。


 

3.現役続行はできない?


 では、税理士事務所を譲渡した場合、すぐに完全に引退しなければならないのでしょうか?


答えは「必ずしもそうではありません」。

大切なのは、譲受側の税理士から見て「支払った譲渡対価をいつまでに、どのようにして回収できるのか?」という点です。


譲渡対価というのは、譲受側の税理士にとっては投資です。その投資を何年で回収できるかが重要な視点になります。たとえば、3年間で譲渡対価を回収するという計画がある場合、その3年間にどれだけ利益を確保できるかが鍵となります。

つまり、譲渡対価の支払い時期さえ調整できれば、所長税理士がこれまでどおりに仕事を続けることも可能になります。顧問先の担当を継続したり、相談役として事務所に関与することも現実的です。


もちろん、報酬の取り方や業務範囲などは調整が必要ですが、「譲渡=すぐに引退」ではなく、「段階的に引退しながら譲渡対価を受け取る」方法も選べるということです。税理士としてのキャリアを活かしながら、無理のない引継ぎを目指すことができます。


 

4.現役続行しながら譲渡対価も確保する設計


 それでは、現役を続けながら譲渡対価もきちんと受け取るためには、どのような方法があるのでしょうか。ここでは2つの現実的な方法をご紹介します。


解決策1:譲渡対価の受取りを遅らせる


 一番わかりやすいのは、譲渡対価の支払いを後ろ倒しにする方法です。たとえば、「今は働き続けるので、譲渡対価の支払いは5年後にしてください」といった取り決めをすることが可能です。

あるいは、退職金という形で受け取ることで、税金面でも優遇されることがあります。譲渡対価は通常「雑所得」として扱われますが、退職金として受け取れば「退職所得」として扱われ、税額が軽くなる可能性があります。

このように、支払い時期をずらすことで、譲受側は無理なく支払いができ、譲渡側も適正な譲渡対価を受け取ることが可能になります。


解決策2:業務・報酬を段階的に減らす


 もう一つの方法は、少しずつ業務と報酬を減らしていくことです。たとえば、所内の経理・総務などのバックオフィス業務や、確定申告の担当件数を減らしていくことで、徐々に仕事量を抑えていくことができます。

報酬もそれに合わせて調整すれば、譲受側税理士の利益を確保しやすくなり、譲渡対価の支払い余地が広がります。また、自身も自由時間が増え、段階的な引退の準備として理想的な環境が整っていきます。

このような「段階的引退+譲渡対価確保」の設計は、所長税理士にとっても、譲受税理士にとっても、お互いにメリットのある方法と言えるでしょう。


 

5.まとめ


 税理士事務所の譲渡を検討する際、最も気になるのが「譲渡対価」、つまりいくらで売れるのかという点です。売上1年分、売上の70%、所得の3年分など、いくつかの考え方がありますが、共通して大切なのは「事務所が将来どれくらい利益を出せるか」という視点です。


 そのため、譲渡対価をきちんと受け取るには、「所長の引退」が前提になるケースが多く見られます。ただし、現役続行がまったくできないわけではありません。譲渡対価の支払い時期を遅らせたり、役割や報酬を調整することで、働きながらでも譲渡を進めることは十分に可能です。


 また、譲渡対価は原則として雑所得として扱われますが、同じ税理士事務所に5年以上在籍していれば退職所得控除の対象となることもあります。税理士としてのキャリアを終える準備としても、税制面での優遇をうまく活用したいところです。


 最も大切なのは、引退の直前ではなく、5〜6年前から承継に向けた対策を講じることです。早めに準備を始めれば、譲渡対価の最大化と、スムーズな事務所のバトンタッチの両方を実現できます。税理士としての最後の仕事として、税理士事務所の未来をしっかり設計していきましょう。





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