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業界特化・業務特化の税理士事務所のM&A~承継で評価されるポイントと注意点~

  • 執筆者の写真: 小杉 啓太
    小杉 啓太
  • 5 日前
  • 読了時間: 7分

 税理士事務所の業務は、法人・個人事業者の顧問業務を中心に、月次対応、決算、年末調整、確定申告といった業務が軸となっています。多くの税理士事務所がこうした業務をベースに運営されており、安定した収益の柱となっています。


 その一方で、近年の税理士事務所はそれだけにとどまりません。相続や資産税への対応、税務調査対応、金融機関との連携による融資支援、さらには経営計画の策定や各種コンサルティングなど、提供するサービスは多様化しています。加えて、所長が他の士業の資格を保有している場合には、社会保険や法務などの領域までサービスを広げている税理士事務所も見られます。また、他の士業と連携することで、より幅広いニーズに対応している税理士事務所も増えています。


 こうしたサービスの広がりは、事務所ごとの個性にもつながっています。事務所の立地や、独立前に在籍していた税理士事務所の影響、あるいは先代の所長の方針などによって、顧客層や得意分野は大きく異なります。同じ「税理士事務所」であっても、その中身は一つとして同じものはないと言っても過言ではありません。


 このような背景を踏まえると、税理士事務所のM&Aを考える際にも、「どのような特徴を持った事務所なのか」という視点が非常に重要になってきます。


 税理士事務所のM&Aを検討する際、「自分の事務所は少し特殊だから難しいのではないか」と感じる所長は少なくありません。特に、業界特化や業務特化を進めてきた税理士事務所ほど、その傾向は強いように感じます。


 しかし実務の現場で見ていると、その不安は必ずしも当てはまりません。むしろ、明確な特徴を持つ税理士事務所ほど評価されるケースも見られます。背景には、税理士業界全体で「差別化」の重要性が高まっていることもあります。本記事では、業界特化・業務特化の税理士事務所のM&Aについて、現場感覚を踏まえて整理していきます。



 多くの税理士事務所は、法人・個人事業者の顧問業務を中心に、月次対応や決算、年末調整、確定申告といった業務を軸に運営されています。ただし実際には、事務所の立地やこれまでの経緯によって、顧客層や得意分野には大きな違いがあります。


 たとえば、地域特性から建設業やサービス業の顧客が多い税理士事務所もあれば、医療法人やクリニックに特化している税理士事務所、あるいは社会福祉法人や公益法人といった比較的専門性の高い分野を中心に扱っている税理士事務所も存在します。不動産オーナーへの支援や国際税務に力を入れている税理士事務所もあり、その形は実にさまざまです。


 このような業界特化の税理士事務所について、「特殊すぎて承継先が見つからないのではないか」と心配されることがあります。しかし実際には、そのような税理士事務所を求めている譲受側の事務所も確実に存在します。特に近年は、特定分野に強みを持つ税理士事務所を意図的に探す動きも見られます。


 特定の業界に強みを持つ税理士事務所は、その分野に関する知識や経験、さらには顧客対応のノウハウが蓄積されています。これは単なる売上以上の価値として評価されます。特に、これからその業界に力を入れていきたいと考えている税理士事務所にとっては、既に基盤ができている税理士事務所は非常に魅力的な存在です。


 また、顧問先の構成だけでなく、その業界に詳しい職員が在籍していることや、金融機関や関連業者からの紹介ルートが確立されていることも重要な評価要素になります。こうした要素が揃っている税理士事務所は、「再現性のある強み」を持っていると判断されやすく、M&Aの場面でも前向きに検討されることがあります。


 つまり、業界特化であることは決してマイナスではなく、むしろ適切に整理すれば大きな武器になるのです。加えて、競合との差別化が明確である点も、M&A時には安心材料として受け取られることが多いといえます。



 顧問先の業界ではなく、業務内容で特徴を持つ税理士事務所もあります。その代表例が、相続や資産税に特化した税理士事務所です。このタイプの税理士事務所は、一般的な顧問業務とは異なり、単発案件が中心になることが多いため、M&A時の見られ方にも違いが出てきます。売上の構造自体が異なるため、単純な比較では評価しにくいのが実務上のポイントです。


 一般的な税理士事務所では、顧問料や決算料といった継続的な売上、いわゆる通常関与売上の一年分が一つの譲渡対価の目安になります。一方で、資産税特化の税理士事務所では、その考え方だけでは実態を十分に反映できません。


 そのため、過去数年間の売上の推移や、案件の発生状況、売上の安定性といった点が重視されます。さらに重要になるのが、どのように案件が入ってきているかという点です。金融機関や不動産会社、他の士業からの紹介が継続的にある税理士事務所であれば、将来の売上も見込みやすく、評価は高まりやすくなります。


 一方で、所長である税理士個人の営業力に依存している場合は、引き継ぎ後の再現性が見えにくくなるため、慎重に見られることもあります。この点は、資産税に強みを持つ税理士事務所にとって重要な論点です。事前に仕組み化を進めておくことで、このリスクは一定程度軽減できます。


 また、業務の進め方が整理されているか、職員がどの程度対応できるかといった点も評価に影響します。専門性の高い分野だからこそ、「誰がやっても一定の品質で対応できる状態」に近づけておくことが、M&Aのしやすさにつながります。



 税理士事務所のM&Aというと、どうしても売上や利益といった数字に目が向きがちです。しかし実際には、それ以外の要素が大きく影響する場面も少なくありません。特に中小規模の税理士事務所では、この傾向がより顕著に表れます。


 たとえば、顧問先との関係性が安定している税理士事務所は、それだけで大きな価値があります。長年の信頼関係がある顧客は、所長が変わっても継続してくれる可能性が高く、承継後の顧問先の離脱リスクが低いと見られるためです。


 また、職員の定着状況も重要です。経験豊富な職員が長く働いている税理士事務所は、業務の継続性という点で安心感があります。逆に、人の入れ替わりが激しい税理士事務所は、引き継ぎ後の運営に不安が残ると判断されることがあります。


 さらに、業界特化や業務特化をしている税理士事務所の場合、その専門性やノウハウ自体が大きな価値になります。これは財務諸表には表れにくいものの、M&A後の成長余地を考えるうえで重要な判断材料になります。


 こうした無形の価値は、整理されていないと正しく伝わりません。自事務所の強みを言語化し、どのような価値があるのかを説明できる状態にしておくことが、結果として評価を高めることにつながります。特に第三者に説明する視点を持つことが重要です。



 税理士事務所の所長とお話ししていると、「特徴が強いと引き継ぎが難しいのではないか」という声をよく耳にします。しかし、実務の現場では必ずしもそうではありません。


 むしろ、明確な特徴を持つ税理士事務所は、その分野に関心を持つ他の譲受側の事務所から見れば非常に魅力的な存在です。これから新しい分野に取り組みたい税理士事務所や、既存の強みをさらに強化したい税理士事務所にとっては、ゼロから始めるよりもはるかに効率的だからです。


 重要なのは、その強みが引き継げる状態になっているかどうかです。業務が特定の人に依存しすぎていないか、顧客情報や対応履歴が整理されているか、職員が自律的に動ける体制になっているかといった点は、M&Aの現場で必ず確認されます。


 また、M&Aは単なる取引ではなく、顧問先や職員にとっての「継続」の問題でもあります。安心して引き継げる体制を整えておくことが、結果として良い承継につながります。この視点を持つかどうかで、準備の質が大きく変わってきます。


 そのためには、できるだけ早い段階から準備を進めることが重要です。業務の整理や収益構造の見える化、そして自事務所の強みの明確化といった取り組みは、いずれも税理士事務所の価値を高める方向に働きます。

 

 税理士事務所のM&Aは、単に規模や売上で決まるものではありません。どのような価値を持ち、それを次にどうつなげていくかが問われています。業界特化や業務特化は、その価値を明確にするうえで大きな強みになります。適切に整理し、伝えることで、承継の可能性は十分に広がっていきます。



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